ボンジョルノ!在イタリア・ジャーナリストの大矢アキオ ロレンツォです。
「BOTTEGAFUORISERIE(ボッテガ フォリセリエ。以下現地の発音に近いボッテーガ・フォーリセーリエと表記)」とはアルファ・ロメオとマセラティが2025年11月に始動した新プロジェクトです。今回はその責任者クリスティアーノ・フィオーリオ氏に話を聞きました。

4つの柱で取り組む
ボッテーガ・フォーリセーリエは、アルファ ロメオとマセラティで技術・知財の相乗効果を模索するとともに、イタリアの高度なモノづくり精神を体現する取り組みです。
bottega(ボッテーガ)とはイタリア語で「商店」のこと。同義語で、より一般的なnegozio(ネゴーツィオ)よりも古風な呼び方です。筆者が住む中部トスカーナ州では、今日でも会話のなかでボッテーガのほうが多く使われています。他地域でも、近年は昔風のイメージを醸し出すために敢えて用いる例がみられます。フォーリセーリエfuoriserieは自動車愛好家の間でつとに知られているように、一品製作車を示す言葉です。
ボッテーガ・フォーリセーリエは、次の4本柱を掲げています。
【ボッテーガ:工房】
顧客の意向を反映した少量限定生産車の開発部門。設計から製造までをイタリア国内で完結させる。

【フォーリセーリエ:特別仕様】
量産車をもとに、専任のデザインチームがユーザーの嗜好を反映した仕様を提案する。


【ラ・ストーリア:歴史】
両ブランドの歴史的資産を保存・活用する取り組み。ヒストリックカーの修復や認証業務に加え、アーカイヴの整備も行う。



【コルセ:競技】
モータースポーツで熟成した技術を市販車開発に落とし込む部門。イタリア国内サプライヤーと連携しながら、高性能車両の技術革新を進める。

プロジェクトは「イタリアのモーター・ヴァレー」と呼ばれる、エミリア=ロマーニャ、ロンバルディア、ピエモンテ各地方を舞台に展開します。一帯にはマセラティのモデナ、アルファのロメオのアレーゼ、両ブランドの新車開発において今日重要な役割を果たすトリノといった都市が含まれるのは、いうまでもありません。
顧客との共創が基本
今回インタビューに応じてくれたのは、ステランティスのクリスティアーノ・フィオーリオ氏です。フィオーリオ氏は1972年生まれ。前身であるフィアット・クライスラー・オートモビルズ(FCA)時代からマーケティングおよび広報畑で実績を積んだ人物です。2023年「アルファ・ロメオ33ストラダーレ」や数々のモータースポーツ系プロジェクトも手がけ、2025年10月にマセラティとボッテーガ・フォーリセーリエのゼネラルマネジャーおよびチーフ・マーケティングオフィサー(CMO)に就任しました。以下はそのQ&Aです。

Q. マラネッロのハイパーカーブランドは、顧客の多様な要望を受け入れる特別プロジェクト部門を擁しています。彼らは顧客が選んだ社外デザイナーとのコラボレーションも行っています。ボッテーガ・フォーリセーリエも、同様のリクエストに応える準備がありますか?
クリスティアーノ・フィオーリオ(以下CF) : ボッテーガ・フォーリセーリエは顧客の要望に対して非常にオープンですが、現時点で外部のデザイナーを受け入れる発想はありません。デザインは私たちのチェントロ・スティーレ(デザインセンター)が行います。代わりに、「アルファ・ロメオ33ストラダーレ」や「MCXtrema」で行ったように、顧客にはインスピレーションや提案を通じて、共創(コ・クリエーション)のプロセスに参加していただきます。私たちにとっても、少量生産モデルは最もやりがいのある取り組みのひとつです。なぜなら象徴的な存在になり得るからです。いっぽうで将来、明確な「なぜ(reason, why)」の裏づけさえあれば、外部デザイナーを排除する意図はありません。

Q. 競合ブランドはコンクール・デレガンスでワンオフ・モデルを発表し、その後に顧客を探す例がみられます。ボッテーガ・フォーリセーリエは同様に発表してから顧客を探すのか、それとも注文を受けてからプロジェクトを立ち上げるのでしょうか。
CF : その答えには(筆者注:前身として存在した)ボッテーガ・アルファ・ロメオによる「33ストラダーレ」が最適でしょう。最初に机上でプロジェクトを明確にしたあと、顧客との共創プロセスを開始しました。ボッテーガ・フォーリエーリエが手掛けるアルファロメオの次期プロジェクトでも、33ストラダーレのオーナーと選ばれた見込み顧客に対し、すでに非公開でプロジェクトの内見を実施したところ、そうした方々から非常に高い関心を獲得しています
Q. 優良顧客が新しい車を「評価」するのですね。
CF: 評価していただくというより「プロジェクトをお見せする」のです。画像の流出を防ぐため、ミーティングは1対1もしくは少人数で行います。そして「欲しいか、欲しくないか」を尋ねます。その結果をもとに計画を進行するか否かを判断します。私たちは希少性scarcityを重視し、極めて限定された台数のみを生産します。販売にあたっては事前に顧客の選定を行い紙上での「プレ・セール」を行います。適切な数のオーダーが集まった段階で製造を開始します。一般公開は全車両が成約済みとなったあとでのみ行います。
Q. ウルトラリミテッド・プロダクションの発表場所を決めている競合他社もあります。ボッテーガ・フォーリセーリエも同様に、定例の発表場所を設けるのですか。
CF:ボッテーガ・フォーリセーリエは2つの異なるブランドを手がけるとともに、各車にはそれぞれのストーリーテリングがあるため、披露は自社の本拠地が好ましいでしょう。マセラティならモデナ、アルファロメオならアレーゼやトリノです。実際に33ストラダーレは2023年にアレーゼのアルファ・ロメオ・ミュージアムで発表しました。ブランドの強さとは、自らの歴史と一貫性を保つことです。しかしながらモデル、タイミングそしてコンテキスト(文脈)によっては、ヴィラ・デステ、グッドウッド、ザ・クエイルといった著名コンクールやイベントでワールドプレミアという選択肢もあり得ます。


Q 従来のモーターショーは、今でも重要とお考えですか。
CF : むしろ以前より重要だと思います。希少な「物理的に人が集まる場」だからです。ワンオフ・モデルの初披露には理想的といえませんが、一般来場者の目にふれる場としては貴重です。33ストラダーレやMCXtremaのようなモデルは注目を集めますし、見せるべき存在であると考えます。実際、2026年1月のブリュッセル・モーターショーには、ボッテーガ・フォーリセーリエのコーナーを設けました。
Q. ちなみにステランティス各ブランドは、近年ブリュッセル・ショーの出展に力を入れています。歴史あるイベントでありながら、他と比較して長年二次的な位置づけだったショーに、なぜ?
CF : 消滅したジュネーブ・ショーの役割をブリュッセルが担いつつあるからです。欧州カー・オブ・ザ・イヤーもそれに合わせて行われています。ステランティスのみならず、多くのブランドがブリュッセルを中心的な欧州ショーとして活用し始めているのです。
Q. ボッテーガ・フォーリセーリエが目指すインテリアについて伺います。2025年9月のミュンヘンIAAモビリティを取材したところ、高級車の内装としてヴィーガン素材がひとつのトレンドとなりそうです。いっぽうでイタリアには素晴らしい本革の伝統があります。ボッテーガ・フォーリセーリエは、基本的にどのような方向を指向しますか?
CF : 素材の研究は絶え間ないものであるべきです。ヴィーガン素材、再生プラスチック、リネンのような天然繊維、そしてカーボンファイバーも使用します。正解はひとつではありません。ボッテーガ・フオーリセリエはパーソナライゼーションが中心です。プロダクトと顧客次第です。そうしたなかで、私たちが決して外してはならない唯一の軸は「倫理」です。
Q. マセラティの、あるサプライヤーを訪問したことがあります。彼らは本革のほうが長期的にみて持続可能であるとの見解でした。
CF : それは個人の文化的背景に大きく依存します。私自身は、倫理的に認証されたプロセスで加工されるのであれば、動物由来の革のほうが他の選択肢より持続可能な場合もあり得ると考えています。「ヴィーガン」という言葉はしばしばマーケティング目的で使われますが、本当のサステナビリティはサプライチェーンにあります。最終的に決めるのは顧客であり、私たちの役目はそのプロセスが倫理的かつ安全であることを保証することです。

Q 歴史的にマセラティは、さまざまな政府要人に納入されてきました。そうした車両の製作もボッテーガ・フォーリセーリエに期待して良いのですか?
CF : イタリア共和国政府は現在も大統領用にマセラティを使用しています。個人的には、専用のワンオフモデルをぜひ実現したいですね。
真のボッテーガになれるか
ところでボッテーガ・フォーリセーリエのもうひとつの特徴として、他の組織との連携があります。ひとつはイタリアの高級品およびサービス産業の業界団体であるアルタガンマ財団 Fondazione Altagammaです。もうひとつは自動車文化新興を目的とする非営利法人モーターヴァレー協会Motor Valley Association です。
彼らとのコラボレーションはすでに始まっています。モーターヴァレー協会が運営する大学院大学「モーターヴァレー・ユニバーシティ・オブ・エミリア=ロマーニャ(Motor Valley University of Emilia-Romagna : MUNER)」は自動車工学、電気自動車工学、インテリジェントヴィークル用電子工学の修士課程を提供しています。マセラティは2017年の開学以来、学生の研究活動に協力してきました。
フィオーリオ氏は「MUNER以前からマセラティはトリノおよびミラノ工科大学と連携してきました」と説明し、こう続けました。「これからも私たちは、若い世代との結びつきを強化しなければなりません。それはアルタガンマ財団とも共通する理念です」
ルネッサンス期イタリアで、ボッテーガには画家のストゥディオの意味もありました。たとえば、Bottega del Verrocchioとは、15世紀の画家アンドレア・デル・ヴェロッキオの工房です。当時の工房は人材育成の場でもあり、実際にデル・ヴェロッキオのもとからはペルジーノ、レオナルド・ダ・ヴィンチといった、のちの偉大な巨匠が巣立ちました。アルファ・ロメオとマセラティがこの新企画を通じ、次世代のイタリア高級車産業を支える人づくりにも貢献すれば、真の意味でのボッテーガになるでしょう。
それでは皆さん、次回までアリヴェデルチ(ごきげんよう)!



