NISMOコンプリートカーの復活宣言

オートサロンの発表セレモニーでは「スーパー耐久に参戦」との意思も示されたオーラNISMO RSコンセプトだが、「走りの面で電動制御技術を磨くためにスーパー耐久をやりたいたいということ。かつてあったNISMOのコンプリートカーを、今の時代に相応しく電動車ベースで作りたいという企画がそもそもの始まりだった」と森田氏は振り返る。
NISMOコンプリートカーの歴史は、S14型シルビアをベースとする1994年の270Rに始まった。翌95年にR33型GT-Rベースの400Rが誕生。そして2004年にはR34型GT-R・Z-tune、Z33型フェアレディZとK12型マーチのS-tuneという3車種を送り出した。これらは企画・開発はもちろん、生産についてもNISMOもしくはオーテックジャパンが最終組み立てを手掛けたもので、だからコンプリートカーと呼ぶ。

しかし2007年のフェアレディZ・バージョンNISMO・タイプ380RSを最後に、NISMOコンプリートカーが途絶えている。代わってNISMOが注力したのが、日産の生産ラインで完成させ、日産のカタログモデルとして販売するロードカー。ノート/オーラからGT-Rまで、あるいは海外ではパトロールまで、今やNISMOロードカーは日産のプレミアムスポーツブランドとして、その存在感を確立するまでに成長した。
NISMOとオーテックジャパンが合併し、日産モータースポーツ&カストマイズ(NMC)が発足したのは2022年4月のこと。昨年6月には副社長だった真田裕氏が社長兼CEOに就任した。真田社長の愛車はZのNISMO・タイプ380RSだ。再びコンプリートカーに挑戦する機は熟したということだろう。ベース車からの変更範囲がロードカーより広いコンプリートカーは、NISMOブランドの独自性をさらなる高みに導くために必要なステップであるに違いない。
オーラにエクストレイルのe-POWERを積む
具体的な企画はNMCのモータースポーツ事業部でパワートレイン開発を担当する片倉丈嗣(たけじ)氏が発案した。それはオーラNISMOにエクストレイルのe-POWERを積むというもの。ちなみにオートサロンの発表セレモニーで片倉氏は、「パワーウエイトレシオをオーラNISMOより30%ほど上げることができた」と語っていた。
「片倉の企画を聞いて、デザインチームが色めきだった」と森田氏。「エクストレイルのパワーを受け止めるためには、これくらいのトレッド拡大が必要だというディメンションが提示され、それをベースにただちにスケッチを描き始めた」

もともとオートサロンをターゲットに開発がスタートしたわけではなかったという。「昨年の夏にスケッチを描いてデザインの方向を定め、真田の了承を取り付けた後、『これをオートサロンに出品したら盛り上げるよね』となった」と森田氏。「ボディ形状のCADデータを作成したのが10月。そこから大急ぎでクルマを作った。完成したのはオートサロンの二日前だった」

ところで基本的な疑問。オーラは1.2LのNAだ。そのエンジンルームにエクストレイルの1.5L VCターボが問題なく収まったのだろうか? 森田氏によれば、「一部の配管を変更しただけで収まっている」とのこと。「そこはモータースポーツ事業部のエンジニアが巧くやってくれた。エンジンルーム(のパネル)は変更していないし、ボンネットもベース車のままだ」

ブリスターフェンダーの低重心感
森田氏は日産デザイン本部で要職を歴任したベテランデザイナー。2018年からNISMOのデザイン統括としてオーラNISMOやアリアNISMOを手掛けた後、昨年にNMCに移籍してNISMOとオーテックのデザインを指揮している。現在の愛車はステルスグレーのオーラNISMO。「自分が心から欲しいと思えるデザインをやり切る」というのが、彼が口癖のように語る信条だ。
「オーラNISMOで意図したデザインテーマを、今回のRSコンセプトではより強く表現した」と森田氏。例えばボディ四隅に艶黒のエアスプリッター(整流パーツ)を垂直に配したところは、オーラNISMOに共通する特徴だ。しかしエアスプリッターの存在感は確実に強くなっている。

そのエアスプリッターが取り付けられている前後のフェンダーは、トレッド拡大に伴って大きく変更された。なにしろ全幅はオーラNISMOに対して145mmも拡大。ワイドトレッドと空力性能を両立させるため、前後ともいわゆるブリスターフェンダーだ。フロント側はドアとあえて段差を付け、そこにエアアウトレットを設けた。
やはりこのワイドなブリスターフェンダーこそ、エクステリアの最大の見所。それだけにデザイナーのこだわりが詰まっている。森田氏は「ブリスターの稜線の高さを抑えて低重心感を表現した。低すぎると言われるかもしれないが、それを特徴にしたかった」と語り、こう続けた。
「スポーツカーとして、ホイールアーチとブリスターの稜線の間の面を狭くしたいと考えた。それに、ブリスターの稜線を上げると前面投影面積が増えてしまう。下げれば、空気抵抗が減るし、軽量化になるし、視覚的な重心も下がる」

長いラインが醸す前進感と伸びやかさ
フロントのブリスター稜線はエアスプリッターの上端をかすめて、グリルの両サイドの稜線へと続く。ベース車のオーラNISMOはショルダーラインがヘッドランプ下を通ってグリルの輪郭につながるのだが、RSコンセプトはそのイメージを尊重しながらライン全体を下げたデザインと言えるだろう。それに伴って新設されたバンパー側の稜線が、ベース車のVモーションをより強調している点も見逃せない。

フェンダー側からバンパー側まで稜線をつなげるのは、造形的には至難の業。森田氏は「あるビューでは気持ちよく見えるけれど、少し無理があるのも事実」と認めつつ、「つなげたほうが前に突き進むムーブメントを表現できる。それを優先しようと決断した」と語る。
ノート/オーラでは長いショルダーラインがコンパクトなボディを伸びやかに見せているが、RSコンセプトはそれをフロントドアで断ち切って、フロントフェンダーを低重心のブリスターに作り替えた。フェンダーからバンパーまでつながる長いラインは、伸びやかさを補う意味でも必要な要素に違いない。
どう生産化するかが課題
リヤでは、肩口にオーラの控えめなブリスター形状を残しつつ、その下にブリスターフェンダーが大きく張り出す。「ダブルブリスターと呼んでいる」と森田氏。「下の大きなブリスターだけでは低重心に見えすぎてバランスが悪い。それに、オーラのブリスター形状の延長上にフロントのブリスターの稜線があるので、前後を関連付ける効果も出た」

大きなブリスターは当然、リヤフェンダーとリヤドアにまたがって張り出している。RSコンセプトはリヤフェンダーもリヤドアもFRP成形とのことだが、コンプリートカーとして生産化するときはどうするのか?
リヤフェンダーはドア開口部を含むボディサイドアウターと呼ばれるプレス部品の一部だ。ボディのなかで最も大きなパネルであり、新設となると巨額の投資が必要になる。リヤドアも新規に作るのは容易なことではない。ホンダの現行シビック・タイプRはボディサイドアウターもリヤドアも専用に開発したが・・。
「どうやって生産するかは、まだ未解決。レースカーは(ベース車のボディに)後付けで対応すればよいけれど、売るクルマがそれでは面白くない。当社にはオーテックで板金をやってきた職人がいるので、鉄板の叩き出しで作ることも含めて、いろいろな可能性を探っていこうと考えていいる」
「自分が欲しいと思えるデザインをやり切る」という森田氏の仕事は、まだまだ続く。できる限りコンセプトカーに近い姿で発売されることを、読者の皆さんと一緒に期待したい。
