
先生(右):損 保太郎
某損保サービスセンターに勤務。今回はなかなか一般の人には理解されにくい「賠償責任」についてレクチャー。
生徒(左):モン太
「賠償責任」とか「損害賠償」ってニュースとか保険関係でしか聞かないワードだモン。いったいなんなの?教えて保太郎さん。
交通事故における「賠償責任」とは
モン太 「賠償」と「弁償」ってよく似た言葉だけど違うモンか?
損 保太郎(以下 保太郎) 他人に損害を与えて償うという点では意味合いとして同じ。「賠償」というのは主に法的義務がある場合に使われる。対して「弁償」は個人間での比較的小さな規模の場合に使われていることが多いかな。
モン太 なるほど~。つまり賠償は法的義務だモンか?
保太郎 そうだね。交通事故の賠償責任は主に民法709条によるもの。条文は難しく書いてあるけど、要約すると、「わざと、もしくは不注意で人のものを壊してしまったりした場合はその損害を償わなければならない」ってこと。ただし、保険の場合はわざと(故意に)起こした事故は免責となる。
ここでクイズ! モン太君がバイクで普通に走行していてアスファルト上の小石をリヤタイヤで跳ね上げて、後続車のフロントガラスを割ってしまった場合は賠償責任を負うと思う?
モン太 そりゃボクのせいで迷惑を掛けているんだから、賠償しなきゃダメだもん。
保太郎 答えは×。アスファルト上の小石をすべて避けて通ることはどんなに注意していても無理でしょ。この場合はモン太君に不注意はなく、賠償責任を負わないんだ。道路脇のグレーチング(排水のための鉄柵)を踏んで壊してしまった場合や、バイクを駐車していた時に台風による突風で倒れてしまい隣のバイクを傷付けてしまった場合も、過失はなく賠償責任は負わないんだ。
モン太 へ~。法的義務による賠償は発生しないモンか?
保太郎 そう。モン太くんが負う賠償責任を肩代わりするのが「賠償責任保険」。つまり賠償責任が発生しなければ保険対応もできないんだ。
「民法709 条」とは?
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
「賠償責任」の要件には「責任能力」があることが前提
保太郎 法的に責任能力がない人が事故を起こした場合には賠償責任は負わないんだ。責任能力がないというのは、子供や心身喪失状態の人を指す。たとえば運転中にライダーが突然意識を失った結果、交通事故を起こした時などは、心身喪失状態だったとして賠償責任を負わない。
モン太 え~被害者はたまったもんじゃないモンな~。
保太郎 ただし、持病を持っていて運転中にそうなることが予想できるような場合や、これまでも同じような状況で事故を起こしていた場合などは、それ自体を過失として賠償責任を負うことになる。
モン太 そりゃそうだもん。そうなることが分かっていたのに運転するなんてどうかしているモン。
「賠償の範囲」はどこまで? 「相当因果関係」ってなに?
保太郎 賠償責任の発生要件には交通事故との間に原因・結果の関係(因果関係)があることが必要なんだけど、とはいっても因果関係があるものすべてを賠償しなければならないとなると、損害の範囲は無限に広がってしまうため一定の制限が必要。そのため、賠償責任の範囲は因果関係ではなく「相当因果関係」があるものまでが対象となる
モン太 いきなり難しい言葉だらけでよく分からないモン。
保太郎 たとえば事故で他人の車を壊してしまった場合、壊れた車を直す修理費用や修理期間中の代車費用を賠償しなければいけないっていうのは想像できるよね。これらは事故の結果として一般的に発生すると考えられる損害。これが「相当因果関係」という考え方。
モン太 なんとなくだけど理解できたモン。
保太郎 しかし、その事故の影響で遅刻して会社をクビになって、さらにクビになったことによって奥さんに離婚されたとしたらそこまで賠償しなくちゃいけないと思う?
モン太 いや~。そこまでは……そんなこと言われたら困るモン。
保太郎 そう、ちょっと極端な話だけど、会社をクビになって~の部分は事故との因果関係はあるかもしれないけれど、一般的に考えてそこまでは考えにくい。つまり相当因果関係はなく、その損害については賠償責任を負わなくていいってこと。
モン太 勉強になったモン。
保太郎 今回は「賠償責任」について解説したよ。世間の常識と違うことも多いと思ったかもしれないけど、万が一事故が起きた時に落ち着いて対処できるようにあらためて学んでみるのもいいかもね。
※本文中に出てくる事例については一般的な考え方を紹介しています。そのため特別な事情があった場合には結論が変わることもあります。
※この記事は月刊モトチャンプ2024年5月号のものです