新基準原付の値段を聞いた警備員3名は、目を丸くした

先日、新基準原付の「スーパーカブ110 Lite」を屋外で撮影していたときのこと。近所には工事現場があり、交通誘導の警備員3名が我々の仕事を物珍しそうに眺めていた。彼らが乗っていたのは、ホンダのスーパーカブ50とタクト、そしてヤマハのジョグと、いずれも50ccのコミューターだった。

そのうちの一人、スーパーカブ50に乗る高齢の男性が「それ、原付免許で乗れるっていうアレだろ?」と、声をかけてきた。どうやら新基準原付をご存じのようだ。これをきっかけに、代わる代わる3名と話をしたのだが、彼らに共通するのは、定年退職後に警備員のアルバイトを始めたこと。バイクの免許はなく、普通自動車免許で運転できるという理由で維持費の安い50ccを選んだこと。買ったのは中古車で、予算は10万円前後だったこと。そして、費用や老い先を考えると、将来的に小型自動二輪免許を取るつもりはないということだった。

スーパーカブ110 Liteは34万1000円。筆者のインプレッション記事はこちら

タクトに乗る男性は、バイクに乗ること自体がほぼ初めてだったとのこと。「最初、30km/h以上出したらスピード違反になるっつーからさ、おとなしく走ってたんだよ。でもさ、おっきなダンプに抜かれたときの風圧で何度もコケそうになったもんだから、今はおとなしくクルマの流れに乗るようにしてんだよ」という。まさに原付ユーザーあるあるだ。

筆者が「このスーパーカブ110 Lite、34万1000円ですよ」と説明したら、3人とも目を丸くした。「かあちゃんに怒られるわ」、「コイツの中古が安く出回るころには、この世にいないかもなぁ」などと、こと金額に対するコメントは辛辣だった。確かに、年金+アルバイト代で生活している高齢者にとっては、新基準原付で最も安いDio110 Liteですら高額に思われるだろう。

クロスカブ110 Liteは40万1500円。CT125・ハンターカブが2024年まで44万円だったことを考えると、やはり高額であることは否めない。

電動スクーターが「存在する」と「主流になれる」は別問題

ここで、あらためて原付一種に追加された新たな区分基準「新基準原付」について整理しよう。これは排出ガス規制の強化に端を発し、従来型50ccでは触媒や制御系を追加する余地が限られるため、メーカー側は50ccモデルの新規開発および継続生産を断念。その代替として登場したのが、グローバル展開している125ccクラスをベースに作られた「新基準原付」だ。排気量はそのままに、最高出力を50ccと同等の4.0kW(5.4PS)以下に抑えているのが特徴で、原付一種と同じ交通ルールが適用される。

ホンダとヤマハは、それぞれの公式サイトに新基準原付の特設ページを設けている。ホンダはこちら。ヤマハはこちら

仮に新基準原付が登場しなかったとしても、原付免許(もしくは普通自動車免許)で乗れるバイクがなくなったわけではない。というのも、以前からホンダはEM1 e:、ヤマハはE-Vinoを販売していたからだ。そう、“走行中の”CO2排出量がゼロの電動スクーターだ。ただし、航続距離や充電環境、車両価格、残価に対するユーザーの不安などもあり、メーカーとしては「50ccの社会的役割をそのまま置き換える存在にはまだなれていない」と判断したのだろう。つまり、電動スクーターは販売されていても、原付一種の主流になれるかは別問題なのだ。

2023年8月24日に発売されたホンダ・EM1 e:。モバイルパワーパック e×1個と同チャージャーを含む参考価格は32万100円だ。筆者のインプレッション記事はこちら
ホンダからのOEM供給という形でヤマハがラインナップするJOG E。現在は車両のみの販売となるため価格は15万9500円と安価だが、購入の際にはバッテリーシェアサービスのGachacoとの契約が別途必要となる。筆者のインプレッション記事はこちら

Liteシリーズの動力性能は原付二種モデルに引けを取らない

筆者はこれまでに、スーパーカブ110 Lite、クロスカブ110 Lite、Dio110 Liteの3機種に試乗した。いずれもベースとなった原付二種モデルと同日に比較しており、特に動力性能については僅差であったと断言できる。スーパーカブ110 Liteとクロスカブ110 Liteは最高出力を8.0PSから4.8PSに、Dio110 Liteは8.7PSから5.0PSに引き下げているが、最大トルクも含めて発生回転数が低いことから、ゼロ発進で感じる加速Gはほぼ同等といっても過言ではない。特に4スト50ccの原付一種しか経験のない人にとっては、驚くほどパワフルに感じられるだろう。

ホンダ・Dio110 Liteは、現在販売されている(予定を含む)新基準原付の中で最も安価な23万9000円となっている。筆者のインプレッション記事はこちら

加えて、シャシーは原付二種モデルそのままなので、安定性は圧倒的に優れている。もはや原動機付“自転車”の範疇を超えており、実際に大型ダンプによる側方からの風圧を食らってもフラつきにくかった。安全性という観点からしても、これは正解と言わざるを得ない。

これは恒久制度なのか、それとも過渡期かという問題

Liteシリーズ各車を走らせていてつくづく思ったのは、原付一種に適用される法定最高速度=30km/hに対する矛盾だ。遵法走行しているのに後続のクルマやダンプからプレッシャーを感じるのは、パーソナルモビリティとして正しい姿なのだろうか。車体は125ccクラス(法定最高速度は60km/h)、でも交通ルールは50ccという現状は、制度的にも不安定であり歪と言えるだろう。

ただ、交通実態と制度が乖離すれば、改正議論が起きやすい。つまり新基準原付は、「原付制度を再設計するための時間稼ぎ」なのではないか、などと懐疑的に見てしまうのは筆者だけだろうか。

電動スクーターにも期待したいところだが……

筆者がLiteシリーズの動力性能に満足していたタイミングで、ホンダから「ICON e:(アイコン イー)」という新しい原付一種の電動スクーターが発表された。1充電走行距離はEM1 e:の53km(30km/h定地走行テスト値)に対し、およそ1.5倍の81kmを公称。この数字だけを見れば期待大だが、筆者が試乗した国内外メーカー全てのEVモデルがそうであったように、公称値の70%に届けば良いほうだ。メーカーもそろそろ内燃機関モデルと同様に、現実の走行パターンに近いWMTCモード値を公表すべきではないだろうか。

ホンダから2026年3月23日に発売されるICON e:。着脱式のバッテリーおよび充電器が付属して22万円というのはかなり魅力的だ。
ICON e:の着脱式バッテリー。EM1 e:やJOG Eとは異なり、車載状態でも充電できることがメリットの一つだが、駐輪スペースにコンセントが必要となる。また、室内で充電するにしても、バッテリー単体で10kgを超えることから、持ち運びは苦労するだろう。

新基準原付の登場をきっかけに、原付一種という日本独自の区分とそれにまつわる法整備の見直しが進んでほしいと筆者は願っている。もし30km/h制限が撤廃されたら、それに連動して電動アシスト自転車のアシスト上限速度(日本では24km/hに設定。この取り決めに関して原付一種の30km/h制限が基準となったという)も見直されるかもしれない。行政やメーカー、関係団体がどこまでのシナリオを描いているかは知るよしもないが、すでに制度改編の序章に入っている可能性は十分にあるだろう。

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