電動バイクレース、FIM MotoE World Championshipは、2025年で7シーズン目を迎えた。MotoEは、いつ、どこで、どんなバイクやタイヤで開催される選手権なのか。開幕を控えたMotoEの基本情報をお伝えする。

2025年シーズンMotoEは7戦14レース開催

FIM MotoE World Championship(以下、MotoE)は、2019年に始まった電動バイクによって争われる選手権である。2025年で7シーズン目を迎える。MotoGPのヨーロッパ開催グランプリに併催され、2025年シーズンは、開幕戦のフランス大会から最終戦のポルトガル大会まで、全7戦が予定されている。なお、1戦2レース制であり、合計レース数としては14レースの開催となる。

2025年シーズン MotoE開催スケジュール(1戦2レース開催)

第1戦フランス大会(MotoGP第6戦フランスGP併催):5月9、10日

第2戦オランダ大会(MotoGP第10戦オランダGP併催):6月27日、28日

第3戦オーストリア大会(MotoGP13戦オーストリアGP併催):8月15、16日

第4戦ハンガリー大会(MotoGP14戦ハンガリーGP併催):8月22、23日

第5戦カタルーニャ大会(MotoGP第15戦カタルーニャGP併催):9月5、6日

第6戦サンマリノ大会(MotoGP第16戦サンマリノGP併催):9月12、13日

第7戦ポルトガル大会(MotoGP第21戦ポルトガルGP併催)11月7、8日

MotoEの特徴の一つが、周回数の少なさ、トータルレースタイムの短さだ。これは、電動バイクで争われる選手権ならではと言えるだろう。2025年シーズンに関しては、サーキットによるが、周回数は7周または8周で行われることが予定されている。トータルレースタイムで言えば、12、13分程度だ。

MotoEのコンセプトは、スタートからゴールまで、ライダーが全力で攻め、争うレースである。つまり、ライダーが電費を考えたバッテリー・マネジメントを行う必要のないレースということだ。そのため、周回数は、ライダーが最初から最後まで全開で走り、戦うことができるように設定されている。

MotoEに参戦するライダーは18名

MotoEには、18名のライダーが参戦する。この参戦人数は、初年度である2019年シーズンから変わらない。2025年シーズンは、2024年チャンピオンのエクトル・ガルソや、女性サーキット・レーシング世界選手権にも参戦するマリア・エレーラ、以前はスーパースポーツ世界選手権を戦っていたロレンツォ・バルダッサーリなどが参戦する。ライダーの国籍としてはイタリア人、また、若手ライダーが多い。

MotoGPまたはMoto2、Moto3クラスのチームがMotoEに参戦しているため、Moto2やMoto3クラスのレギュラーライダーが負傷などで欠場した場合に、MotoEライダーがその代役を務めることもある。

MotoEマシン、ドゥカティ「V21L」とミシュランのサスティナブル素材のタイヤ

MotoEは、ドゥカティの電動レーサー「V21L」、タイヤはミシュランのワンメイクで行われる。

「V21L」は、2023年からワンメイクマシンサプライヤーとなったドゥカティがMotoEのために開発した電動レーサーである。最高速は、ムジェロ・サーキットで記録された282.7km/h(2024年時点)。ラップタイムとしてはMoto3クラスのそれよりも、やや速い(2024年時点)。

大きなバッテリーパックをフレームの一部とし、リアブレーキはブレーキディスクを備えず、電気ブレーキが採用されている。この電気ブレーキはドゥカティのオリジナルだ。リアブレーキをかけると回生エネルギーが発生する。また、バッテリーは、これもドゥカティ独自の冷却システムによって温度管理がなされている。

2025年シーズンの「V21L」に関しては、2024年から大きなアップデートが行われた。ドゥカティがリリースで発表しているところによると、その最も大きなアップデートの一つは、バッテリーパックであるという。出力と航続距離を維持しながら、エネルギー密度を高め、セル数は1152個から960個に削減された。これによって、バッテリー全体で8.2kgの軽量化を実現した。全体的な改良の結果、車両重量は2024年までの225kgから216.2㎏になるということだ。

また、ミシュランが供給するタイヤは、サスティナブル素材が使用されたものである。使用率は年々増加し、2024年シーズン時点で、フロントタイヤには49パーセント、リアタイヤには53パーセントのサスティナブル素材が使用されている。

2024年シーズンには、網目状の模様が施されたMotoEのスリック・リアタイヤが登場した。これは、サスティナブル素材が使用されたタイヤであることを印象付けることを目的としたものだ。性能に影響するものではなく、走りだして数周もすればその模様は消える。ただ、MotoEではタイヤも含め、MotoGPにはない試みが行われているということだ。

なお、2019年からのタイトルスポンサーであった、イタリアの電力、エネルギー会社のEnelが2024年シーズンをもって撤退した。これによって、2025年シーズンにおけるMotoEの大きな変化の一つは、充電設備になるだろう。Enelは、MotoEマシンのパドックにおける充電はもちろんのこと、グリッド上でのポータブル充電器によるマシンの充電に貢献してきたからだ。

MotoEのエグゼクティブ・ディレクターであるニコラ・グベールさんにメールで問い合わせたところ、「Enelの決定によって計画の再考を余儀なくされました。今後は、バッテリーのない充電器を使用することになるでしょう。つまり、電力網からのより多くの電力が必要になります」と回答している。

2025年の開催スケジュールはこうした背景があったため、2024年シーズンは8戦だったところから7戦へと開催数が減少した。ただ、グベールさんはこうした状況にはポジティブな面がある、とも語っていた。

「多くのサーキットが、私たちがさらなる電力供給を求めたとき、前向きに反応してくれました。とてもうれしかったですね。こうしたことは、7年前、私たちが(MotoEを)始めた当時には考えられなかったことです。これはつまり、電動化に対する考え方が、徐々に変わってきているということなんです」

こうした充電面の変化もまた、7シーズン目のMotoEの注目ポイントと言えるだろう。 MotoEの開幕戦フランス大会は、5月9、10日にかけてフランスのル・マン-ブガッティ・サーキットで行われる。

ドゥカティ独自の電気ブレーキ(写真は2024年のもの)©Eri Ito
単三電池ほどの大きさのセルがV21Lのバッテリーパックを構成している(写真は2024年のもの)©Eri Ito
ミシュランのサスティナブル素材を使ったリアタイヤ(写真は2024年のもの)©Eri Ito
2024年まではEnelのポータブル充電器(左側のタイヤが乗った機器)によってグリッド上での充電が行われていた(写真は2024年のもの)©Eri Ito
MotoEのピットが集まるeパドック(写真は2024年のもの)©Eri Ito
2025年型ドゥカティ「V21L」©Ducati