スズキから発売された新時代のスポーツネイキッドがGSX-8Tだ。国内外のメーカーが力を入れているこのクラスで、果たして頭角を現すことができるのか。今回はストリートからワインディングまで走って、その実力を検証してみることにしよう。
GSX-8Tは欧州ミドル激戦区に挑むネオクラシック
スズキが投入したGSX-8Tは日本と欧米で発売されるミドルクラスのネオレトロ・ネイキッドだ。ヨーロッパで長く激戦区となってきたミドルクラスで求められるのは、高いパフォーマンスと取り回しの容易な車体サイズ、そして日常域での扱いやすさである。目の肥えたヨーロッパのライダーたちの評価を受けながら、各メーカーが切磋琢磨してきたから、このカテゴリーには魅力的なモデルが数多く存在する。そんな市場に送り込まれたモデルなのだから相当に力が入っているだろうということは想像に難くない。
GSX-8Tは、車体とエンジンの基本構成をGSX-8Sと共有している。エンジンは、これからの時代を見据えて開発された776ccの水冷並列2気筒270度クランク。ロングストローク気味の設定により、実用域での力強さと高回転での吹け上がりを両立している。さらにコンパクトにまとめることで、軽快なハンドリングにも寄与している。
電子装備も充実している。ドライブモードセレクター、トラクションコントロールシステム、電子制御スロットルに加え、発進時に回転を自動的に補うローRPMアシストやイージースタートシステムなども備えている。
全長2115mm、全幅775mm、全高1105mm、最低地上高145mm、装備重量201kg。ネオクラシックな外観をまといながら、寸法とパッケージングは現代のミドルスポーツそのものだ。
フレームはスチール製で、GSX-8系プラットフォームらしい高い直進安定性と軽快性を両立している。ホイールベースは1465mm、キャスター角は25度、トレールは104mmに設定されている。
デザインは、スズキの歴史的モデル、とくにT500などから着想を得たネオレトロスタイル。丸形ヘッドライトにバーハンドル、さらにバーエンドミラーを組み合わせることで、現代的でありながらクラシカルな雰囲気を生み出している。
ストリートを楽しくするトルキーな776cc並列2気筒
GSX-8Tには以前も乗ったことがあったが、今回はワインディングを含むローカルロードを中心に走らせ、少しペースを上げてみたことで、その印象は大きく好転した。
走り出してまず印象に残ったのは、やはりトルキーなエンジンである。とくに中速域の充実ぶりが素晴らしく、スロットル操作に対して力強く、しかも自在に加速してくれる。リッターバイクのような圧倒的な爆発力とは異なるが、ミドルクラスらしい車体の軽快さと相まって、実に気持ちよく速度を乗せていく。力強さは十分にありながら、過敏すぎない。必要なだけのパワーを右手ひとつで引き出せる感覚が、このエンジンの魅力だ。パンチのある加速力と素直なハンドリングの組み合わせが、ストリートライディングを実に楽しいものにしてくれる。
低回転域の粘り強さも印象的で、2000rpm付近からでも常用できる柔軟性がある。そこからスロットルを開けると、角の取れた心地よい鼓動感とともに速度を上げていく。
ただし、ツインらしくエンジンブレーキはやや強めだ。加減速の多いシチュエーションでは、少しせわしなく感じることもある。スロットルを戻した瞬間に、コツンと減速ショックが立ち上がる感覚があるのだ。もちろん不快なほど硬質なものではないが、市街地をゆったり流しているときには、もう少し穏やかでもいいと感じた。モードを切り替えても、この減速時のフィーリングには大きな変化を感じなかったため、意識的にゆっくりスロットルを戻すようにして走らせた。
クイックシフターはアップ/ダウン両対応だが、街中をのんびり走る場面では、使い方によっては多少ショックが出ることがある。シフターはオフにもできるので、街乗りではオフ、スポーティに走るときだけオンにすることもできるが、テスターは常にクィックシフターを使った。低速でも不快なほどのショックがあるわけではないし、変速自体は確実にできるからである。
サスペンションは前後ともダンピングがしっかり効いており、荒れた路面でペースを上げると、ややコツコツとした入力が伝わってくる。調整機構はリアサスのイニシャルのみだが、これは見方を変えれば、ユーザーがむやみにセッティングを崩してしまう心配が少ないとも言える。調整機構は便利な反面、セッティングの迷路にはまり込むリスクもあるからだ。
ベテランもうならせるワインディング性能
ワインディングでのGSX-8Tは、とても乗りやすい。ビギナーでも不安なく走れる一方で、少しペースを上げると、別の表情を見せる。ベテランライダーやスポーツ派のライダーをも満足させる奥深さを持っているのだ。
サスペンションで印象的なのは、フロントフォークがしっかりと支え、対してリアショックがよく動くこと。前後ともダンピングがよく効いており、この足まわりのおかげで、強めにブレーキングしながらコーナーへ進入していっても安定感が高く、バンクした状態でブレーキをリリースしても、車体姿勢の変化はごく少ない。
その反面、ブレーキを完全に終わらせてからバンクさせるような乗り方では、向きの変わり方がやや穏やかに感じられることもある。しかしそれが安心感にもつながっている。クリップを過ぎてからスロットルを開けていくと、リアサスペンションが沈み込みながら向きを変え、自然に立ち上がっていく感覚がよくわかる。
スポーティなバイクでは、勾配のきつい下りのタイトコーナーでフロント荷重が高まりすぎ、走りにくさにつながることもある。しかしGSX-8Tはフロントフォークがしっかりしているため、そうした場面でも神経質なフィーリングになりにくい。今回の試乗では路面が荒れて勾配がきつく、タイトで癖のあるヘアピンが続く峠道から、中高速コーナーが連続するワインディングまで走ってみたが、どんな場面でも破綻する気配はなく、乗りにくさを感じさせなかった。
ワインディングでは、エンジンのトルク感がさらに際立つ。最初はストリートで従順に感じられたBモードで走っていたのだが、コーナー立ち上がりでスロットルを大きく開けると、印象は一変した。勢いよく加速し、右手の動きに応じて自在にパワーを引き出せる感覚がある。もっとも出力の鋭いAモードを選び、低いギアを使ってタイトなワインディングを走ると、加速の鋭さに思わず身構えるほどだ。パワーバンドも広く、3500rpmも回っていれば十分に強い加速を見せる。マルチのように回転が上昇するのを待つ必要はなく、スロットルを大きく開けた瞬間に最大トルクで加速するという感じだから、ワインディングをスポーティに走りたいライダーにとっては、かなり面白いバイクだろう。テスター自身も試乗が終わってからしばらく走り続けたくらいだ。
高いパフォーマンスを使ってストリートを走る際にライダーをサポートしてくれる電子制御も秀逸だった。ABSの作動は緻密で安定しており、落ち葉が積もったような場所でも安心感が高かった。コーナリングABSではないものの、軽くバンクしている状態で作動させても、不安を感じる場面は少なかったくらいだ。
トラクションコントロールの制御も自然だ。滑りやすい路面で1から3まで試してみると、その介入の細かさがよくわかる。滑りが収まったあとの復帰も自然で、不快感がない。試しにもっとも介入度の高い3にセットし、コーナー立ち上がりで大きくスロットルを開けると、ランプの点灯で作動は確認できるが、ライダーが違和感として制御を感じ取ることはできなかった。かなり早い段階でパワーを細かく制御しているようだ。少し気になったのは、トラクションコントロールとパワーモードの表示が直感的ではないこと。A、B、Cや1、2、3といった表示は、慣れてしまえば問題ないが、初見ではやや把握しづらい。マニュアルを一度確認しておけば済む話ではあるものの、複数のバイクを乗り換えながら使うライダーにとっては、もう少し分かりやすい表示方法のほうが親切だろう。
総じて見るとスズキらしく全体をそつなくまとめながら、実用域での高トルクエンジンと高いポテンシャルを持つ車体まわりを備えている点は大きな魅力だと思う。ローカルロードやワインディングを中心としたツーリングでは、とても楽しいバイクであることは間違いないし、ストリートでも使いやすい。ビッグバイクビギナーから(想像以上のトルク感に少し注意が必要だが)ベテランライダーでも十分に満足できる仕上がりである。
ただし、一方で気になるのは価格設定だ。これまでスズキのミドルクラスにはSV650があり、安価でコストパフォーマンスに優れたモデルとしてヨーロッパで根強い人気を誇ってきた。ちなみに国内価格で比較すると、SV650の国内最終モデルは83万6000円、GSX-8Tは129万8000円。価格は大きく上がった。この設定は、同クラスの国産ライバルと比較しても高めである。つまり、これまでのSV650のような価格訴求型ではなく、パフォーマンス、充実した電子装備、質感といった総合力で勝負するモデルに転換したということ。ヨーロッパではミドルクラスにおいて、いまもコストパフォーマンスが重視される傾向が強い。そんな中でGSX-8Tがどのような評価を受けるのか。ある意味で、スズキが勝負をかけた1台と言っていいかもしれない。
ポジション&足つき(身長178cm・体重78kg)
ポジションは軽い前傾で、ストリートでもツーリングでも疲労は少ない。ミドルクラスとして特別にコンパクトな車体ではないが、またがると数値以上にコンパクトに感じられる。ビッグバイクビギナーでも扱いやすいサイズ感だ。
シート高は815mm。このクラスでは平均的な数値といえる。テスターの体格では両足のかかとが接地し、ひざにも軽く余裕がある。装備重量は201kgで、ビッグバイクとしては取り回しも比較的しやすい部類に入る。
ディテール解説















主要諸元
| 型式 | 8BL-EM1AA | |
|---|---|---|
| 全長 / 全幅 / 全高 | 2,115mm / 775mm / 1,105mm | |
| 軸間距離 / 最低地上高 | 1,465mm / 145mm | |
| シート高 | 815mm | |
| 装備重量 ※1 | 201kg | |
| 燃料消費率 ※2 | 国土交通省届出値:定地燃費値 ※3 | 34.5km/L(60km/h) 2名乗車時 |
| WMTCモード値 ※4 | 23.4km/L(クラス3、サブクラス3-2) 1名乗車時 | |
| 最小回転半径 | 2.9m | |
| エンジン型式 / 弁方式 | FRA1・水冷・4サイクル・2気筒 / DOHC・4バルブ | |
| 総排気量 | 775cm3 | |
| 内径×行程 / 圧縮比 | 84.0mm × 70.0mm / 12.8:1 | |
| 最高出力 ※5 | 59kW〈80PS〉 / 8,500rpm | |
| 最大トルク ※5 | 76N・m〈7.7kgf・m〉 / 6,800rpm | |
| 燃料供給装置 | フューエルインジェクションシステム | |
| 始動方式 | セルフ式 | |
| 点火方式 | フルトランジスタ式 | |
| 潤滑方式 | 圧送式ウェットサンプ | |
| 潤滑油容量 | 3.9L | |
| 燃料タンク容量 | 16L | |
| クラッチ形式 | 湿式多板コイルスプリング | |
| 変速機形式 | 常時噛合式6段リターン | |
| 変速比 | 1速 | 3.071 |
| 2速 | 2.200 | |
| 3速 | 1.700 | |
| 4速 | 1.416 | |
| 5速 | 1.230 | |
| 6速 | 1.107 | |
| 減速比(1次 / 2次) | 1.675 / 2.764 | |
| フレーム形式 | ダイヤモンド | |
| キャスター / トレール | 25° / 104mm | |
| ブレーキ形式(前 / 後) | 油圧式ダブルディスク(ABS) / 油圧式シングルディスク(ABS) | |
| タイヤサイズ(前 / 後) | 120/70ZR17M/C(58W) / 180/55ZR17M/C(73W) | |
| 舵取り角左右 | 35° | |
| 乗車定員 | 2名 | |
| 排出ガス基準 | 平成32年(令和2年)国内排出ガス規制に対応 | |
- 装備重量は、燃料・潤滑油・冷却水を含む総重量となります。
- 燃料消費率は、定められた試験条件のもとでの値です。お客様の使用環境(気象、渋滞等)や運転方法、車両状態(装備、仕様)や整備状態などの諸条件により異なります。
- 定地燃費値は、車速一定で走行した実測にもとづいた燃料消費率です。
- WMTCモード値は、発進、加速、停止などを含んだ国際基準となっている走行モードで測定された排出ガス試験結果にもとづいた計算値です。走行モードのクラスは排気量と最高速度によって分類されます。
- エンジン出力表示は「PS/rpm」から「kW/rpm」へ、トルク表示は、「kgf・m/rpm」から「N・m/rpm」へ切り替わりました。〈 〉内は、旧単位での参考値です。














