Aston Martin Valhalla
アストンマーティン初の3モーターPHEV

アストンマーティン初のミドシップPHEVスポーツカーに試乗した。アストンマーティンといえば映画『007』シリーズで見せるスタイリッシュな印象が強いが、近年F1にも参戦するなどモータースポーツにも積極的だ。しかし、これは開祖の時代の武闘派スタイルに戻りつつあると言っていい。
ちなみに、2016年にコンセプトが登場し、2021年にデリバリーが開始されたハイブリッドハイパーカー「ヴァルキリー」との違いをよく聞かれるが、ヴァルキリーはF1に並ぶモータースポーツの頂点、FIA WEC(世界耐久選手権)に参戦するハイパーカーのベースで、少量生産の“ほぼ”レーシングカーだ。それに対して、ヴァルハラはハイパーカーでありつつ日常にも使えるロードカーである。HEV(ハイブリッド)とPHEV(プラグインハイブリッド)という違いもある。
ヴァルハラは3基の電気モーターを搭載するアストンマーティン初のPHEVであり、初のプラグインハイブリッドだ。搭載されるエンジンは、これまたアストンマーティン初のフラットプレーンクランクシャフトの4.0リッターV8ツインターボとなる。
トップクラスのパフォーマンス

このV8エンジンは元々メルセデスAMG由来で、先代の「AMG GT ブラックシリーズ」のために開発されたM178型ドライサンプユニットだ。本来730PSだったが、ヴァルハラでは最高出力828PS、最大トルク857Nmまで引き上げられた。大型ターボ、新インテークマニホールド、強化ピストン、新カムシャフトなど、数多の改良が加えられた。現行型AMG GTにこのエンジンは搭載されず、現在はヴァルハラ専用だという。変速機は8速DCTでこれもアストンマーティン初だという。リバースギアは備わらず、バックはフロントモーターで行う。
3基のモーターは、フロントアクスル左右にラジアルフラックスモーターを備え、リヤのDCTにモーター1基を内蔵し、合計で最高出力251PSを発揮する。なおフロントは各18.1PSというから、駆動はほぼリヤモーターと考えていい。
これらを合計して、システム最高出力1079PS、同最大トルク1100Nmという途轍も無い数値を叩き出す。最高速は350km/hで電子制御され、0→100km/h加速は2.5秒というから、いずれも現在トップクラスのパフォーマンスだ。ちなみにバッテリー容量は6.1kWhでEV走行距離は約12kmだという。
レーシングカーのようなサスペンション

シャシーはカーボン製バスタブの前後にアルミ製サブフレームを配置するレイアウトで、これはF1由来の技術だと胸をはる。ホンダとタッグを組むF1は、今シーズン序盤こそ好調と言い難いが、技術の粋を集めた最先端モータースポーツの連携は有り難みが違う。スタイリングはいかにもミドシップ的だが、シンプルなフロントに対して、複雑な造形のサイド、そしてワイドさを際立たせるリヤのスタイリングは、総じて明確にアストンマーティンを主張する正統派の美しさを持っている。
ルーフにもF1に着想を得たというエアスクープが備わりパワートレインの冷却に貢献するという。サイドのクーラーは左がエンジン、右がトランスミッションを冷却するという。サスペンションはフロントがレーシングカーのようなプッシュロッド式インボードサスペンション。これによってシート座面は低いが前方視界はすこぶる良好となった。リヤサスは5リンクとなる。
ダンパーはビルシュタインDTXアダプティブダンパーで一般道での快適性とサーキットでのダイナミクスを両立するという。999台が限定で生産され、車両本体価格は発表時には約1億3000万円だったが、最近の為替を考えれば、いつ変更されても不思議ではない。
驚くほど低い目線の低さ

サーキットに到着すると、ピットにはサーキット試乗用のヴァルハラが2台用意されていた。試乗はスペイン北部のサン・セバスチャンから1時間ほど山道を走った場所にあるナバラサーキットで行われた。全長2.9kmでストレートが800mのコンパクトなサーキットを12分1セットで3セット走る。
斜め前方に跳ね上がるディヘドラルドアは予想外に重く、乗降時、特に女性の場合は骨が折れるだろう。オーナー諸氏はジェームス・ボンドになりきって英国紳士らしいエスコートするのだろうか。低いサイドシルを跨いで、カーボンファイバー製バケットシートに腰を下ろすと目線の低さに驚いた。フロアをえぐって座らせるため座面に対して足の位置は高い。一方で全幅2.2mだが室内幅はロータスを彷彿させるほどに狭い。
操作系は例えばセレクターレバーの形状はDBXなどと同じなので、アストンマーティンオーナーなら、戸惑うことはないだろう。メーターパネルはシンプルなディスプレイで、センターにも似たようなサイズのディスプレイが備わる。後方に隔壁があるため物理的に後ろを見ることはできず、デジタルルームミラーとなる。
レースモードでアクティブエアロダイナミクスを起動

サーキット試乗でのタイヤは、専用のミシュラン・パイロットスポーツカップ2で、ホイールはマグネシウム製だった。標準はミシュラン・パイロットスポーツS5と鍛造アルミホイールが装着されるという。
ドライビングモードは「スポーツ」がデフォルトで「EV」「スポーツプラス」「レース」の4モードが選択可能だ。スポーツプラス以上のモードではエンジンとトランスミッションのレスポンスが早まり、足まわりがサーキット向けに硬くなる。さらにレースモードではリヤウイングが上がって完全に戦闘体制が整う。サーキットでは当然レースを選択して走った。
ヴァルハラを紹介する際に重要な要素がアクティブエアロダイナミクスである。前述のとおりレースモードにするとアクティブエアロダイナミクスが作動して、フロントノーズのフロアにあるウイングが開閉し、255mmリヤウイングがせり上がり、240〜350km/hで610kgのダウンフォースを発揮するという。もちろんDRSやエアブレーキとしても作動する。これらは手動ではなく、運転状況からすべて車両側で判断して自動制御するという。
ブレーキはバイワイヤーで、EV走行も可能なプラグインハイブリッドらしく回生機能付きだ。標準でカーボンセラミックブレーキが備わるのは価格からすれば当然だろうか。
止まらない怒涛の加速

フラットプレーンクランクのレーシングカーライクな音を奏でてストレートを加速していく。レブリミットは7000rpm。リミッターに当たった感じは昔ながらの荒々しい感じなので気付きやすい。6000rpmシフトでも十分なパワー感が得られるが、今回は最高出力発生回転数の6700rpmを目安にシフトする。
今回はマニュアルシフトで走行したが、パドルの操作感がカチッとしていて気持ちいい。8速DCTのギア比はクロスしており、怒涛の加速が止まらない。気持ちよく走らせていたが、一点だけステアリング形状が私には合わず、握りかたが難しかった。9時15分で持つとグリップ形状の都合でしっかり握ることができずに指先の行き場がなく、10時10分あたりの上の方を握ると今度はパドル操作がしにくい。これは好みかもしれないが意見が分かれるだろう。
印象的なコーナリング性能

加速もすごいがブレーキの安定感も高い。ペダルフィールもしっかり感があり安心して踏める。ブレーキはバイワイヤーだがペダルフィールが一定で、サーキットの後で試乗した一般道でも違和感はなかった。
だが、やはり印象的なのはコーナリングである。ターンインでブレーキを残しながら入るとスーッとインに入る。アクセルを踏んでクリアするコーナーでも、わずか18PS程度の低出力だがフロントモーターがトルクベクタリングでノーズの入りやすさをアシストしてくれるのだろう。コーナーからの脱出では、エイペックス手前からアクセルペダルを踏み込むと、弾けるように加速していく。
一方でやや舵が残った状態からフルブレーキするようなシチュエーションもあったが、姿勢を乱すことなくうまく制御していてこれも安心感があった。これはエアロダイナミクスの賜物かもしれない。デジタルミラーでブレーキング時にウイングが立ち上がるのが確認できるが、その作動スピードの速さも驚きだ。
歴史に残る名作となるか

加速時にはESPの警告ランプが点滅しているのが見える。ESPにはESPオン、ESPレース、ESPオフの3種類ある。ESPオンで走っても加速に違和感はなく、立ち上がりで不用意にアクセルを踏むとテールが出始めるので要注意だ。
12分の走行ではフロントタイヤが逃げる領域まで攻め込めた。タイヤの消耗が速いとも言えるが、まるで自分が強くなったような錯覚を覚えるほどの一体感を感じたのも事実だ。そしてサーキット走行を連続してこなせるアストンマーティンの信頼性と頑強さが頼もしい。
美しいスタイリングとレーシングカーの頑強さを併せ持つ、つまり夢のようなクルマだ。2025年からカスタマーに向けてデリバリーが開始され、今年中に600台以上が納車される予定だという。生産台数は限定999台だが、アストンマーティンは現代的なミドシップPHEVハイパーカーの初作にして、歴史に残る名作を作り上げたかもしれない。
SPECIFICATIONS
アストンマーティン ヴァルハラ
ボディサイズ:全長4727 全幅2014 全高1161mm
ホイールベース:2760mm
車両重量:1655kg(Dry)
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4.0リッター
エンジン最高出力:828PS
エンジン最大トルク:857Nm/6700rpm
モーター最高出力:251PS
システム最高出力:1079PS
システム最大トルク:1100Nm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前プッシュロッド式インボード 後5リンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前285/30ZR20 後335/30ZR21
0-100km/h加速:2.5秒
最高速度:350km/h
車両本体価格:1億2890万円

