ハーレーダビッドソン・パンアメリカ1250 ST……258万6800円~(2025年3月21日予約開始)


心地良い脈動感とマッスルなパワーフィールが共存

ハーレーがパンアメリカ1250のプロトモデルを発表したのは2018年7月30日のこと。初の本格的なアドベンチャーモデルということで、世界中が驚いたのは言うまでもない。同社はメインとなる顧客層が高齢化し、販売不振が長期化していた。そうした背景から新しいジャンルにチャレンジし、マーケットの拡大を狙ったのは明らかだ。コロナ禍の影響でスケジュールはやや遅れたものの、2021年2月に量産モデルを発表。同年7月に日本でも販売がスタートした。

第15回アフリカエコレースでクラス優勝するなど、アドベンチャーモデルとしての実力が証明されているパンアメリカ1250だが、実はロードレースの世界でも活躍している。北米で開催されているモトアメリカのスーパーフーリガンクラスにおいて、昨年は年間チャンピオンを獲得しているのだ。2気筒750cc以上、3気筒900cc以下ならどんなバイクでも出られるが、水冷エンジン車の場合は純正フレームを維持しなければならないという。これに出場するパンアメリカ1250の前後ホイールは、当然ながら17インチ化されている。
そうした背景を踏まえると、ニューモデルとして登場したパンアメリカ1250 STは、スーパーフーリガンに参戦しているレーサーのレプリカと捉えることもできる。フロントホイールの小径化およびサスペンションのローダウン化、さらに前後一体型ローシートの採用によって、STのシート高は825mmを公称。これに対し“スペシャル”はライダーシートの高さを2段階に変えることができ、低い方にセット、かつリヤショックのARHが一番下がった時の高さが830mmなので、それよりもシート高が低いことになる。

パンアメリカ1250 STのライディングモードは、ロード/レイン/スポーツ/カスタムの4種類で、オフロード/オフロードプラスといった未舗装路向けのモードは省略されている。いずれもスロットルレスポンスやエンブレの度合い、トラコンやABSの介入レベルが連動して切り替わる仕組みだ。
まずはロードモードでスタートする。1252ccの水冷60度V型2気筒の“レボリューション・マックス”エンジンは、前方気筒のシリンダーヘッドとクランクケース内に1本ずつバランサーが配されていることもあって、不快な微振動を適度に抑えながらも、あふれ出る力量感はさすがリッターオーバーのVツインだ。2000~3000rpm付近では、単に力強いだけでなく、まるで鉄球を転がしているような絶妙な脈動感があり、これはドゥカティやモトグッツィの90度Vツインとは異なる味わいと言っていい。
スロットルを大きく開けると、4000rpm付近でVVTが何かしら作動するのか、明らかにパワーカーブが豹変する。スポーツモードに切り替えるとその勢いはさらに増し、凶暴と表現できるほどの加速力を見せる。そのパワーフィールは名だたるストリートファイターと互角以上であり、低回転域での心地良い脈動感との二面性こそが、レボリューション・マックスの美点と言えるだろう。
なお、このSTには双方向クイックシフターが標準装備されているのだが、ローからセカンド、セカンドからサードへシフトアップする時は強めのショックが生じるので、筆者はそれを嫌ってクラッチレバーを自然と操作していた。また、リンケージにセンサーを介するからか、シフトペダルを操作したときの感触がソフトタッチになっているのも気になるところ。購入を検討されている方は試乗の際にその辺りも確認してほしい。

ネイキッドと同等の扱いやすさであり、乗り心地も上々だ

ハンドリングは、ハーレーのラインナップの中で最もモダンで扱いやすいといっても過言ではない。246kgという車重を感じさせない倒し込みや切り返しのスムーズさ、フロントの自然な舵角の付き方など、基本的な操安性はネイキッドのカテゴリーに属し、ホイールベースの長さと前後サスの作動性の良さでツアラーらしさもプラスしている。



個人的に感心したのは、これだけマッスルなエンジンを搭載しながら、シャシーにはまだまだ余裕が感じられることだ。パンアメリカ1250シリーズは、エンジンが車体のストレスメンバーとして機能しており、フォークを支えるフロントフレームと、リヤショックを支持するミッドフレーム、そしてライダーを支えるシートレールが分離している。走行中にハンドルを故意に揺すっても車体のしなり方は自然で、そうと言われなければフレーム構造が特殊だとは気付かないはず。モトアメリカのスーパーフーリガンクラスで好成績を上げている要因の一つが、この確かなシャシー設計にあるのだろう。
防風効果については、ショートスクリーンかつ固定式なので、スペシャル(ロングスクリーン&高さを4段階に調整可能)ほどではないにせよ、日本の法定速度内であれば十分に快適であり、スモークという色味もマシンを精悍に見せるのに貢献している。
アドベンチャーは各社が最も注力しているジャンルの一つであり、ライバルを挙げたらキリがない。だが、その姿を借りたオンロード主体のモデルとなると、数はグッと減る。押しの強いスタイリングとは裏腹に操縦性はフレンドリーであり、街乗りからロングツーリングまでオールマイティに使える1台だ。
ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)


