陸上自衛隊、首都高パトロール、東京消防庁、警視庁
はたらくバイクが大集合!
バイクというと一般には「趣味の乗り物」としてのイメージが強いが、郵便や新聞の配達、バイク便、そばや寿司の出前、ピザのデリバリー、UberEatsやロケットナウなどのフードデリバリーなどなど、少なくない台数が「働くバイク」として全国で稼働しており、その活躍の幅は意外と広い。
『第53回東京モーターサイクルショー』では、その中でも官公庁や公的機関で業務に就くバイクを一堂に集めた「はたらくバイク展」が、ビッグサイト西館1階のアトリウムで開かれていたのでその模様を紹介しよう。

陸上自衛隊:カワサキKLX250
陸上自衛隊で「オート」と呼ばれるのが、機甲科の偵察隊や普通科連隊(歩兵連隊)の本部管理中隊隷下にある情報小隊などで使用される偵察用バイクだ。小型・軽量のバイクならではの機動性を生かし、作戦時の斥候(敵情偵察)や連絡、警備、災害派遣時の情報収集で活躍する。
偵察隊や情報小隊の乗員は、敵と遭遇する可能性のある危険な任務に就くため、偵察隊の乗員は立ち乗りでの小銃射撃(ニーグリップで車体を安定させ、手放し運転をしつつ発砲する)といった高い運転技術を会得・維持するため、日々厳しい訓練を続けるが、基本的には隠密行動を旨とし、敵に発見された場合、偵察任務は失敗となるため戦闘は極力避けるように行動する。

現在、陸自が運用を続けるKLX250は、2001年からそれまでのホンダXLR250Rの後継車種として採用された車両。性能的には市販車と変わりはないが、鋼材製のエンジンガードとヘッドランプガードを装着し、車体後部に無線機(必要に応じて装備)と荷物が載せられるキャリアを備え、ハンドルの操作部にはB.Oマーカーランプ(灯火管制時の夜間走行に使用。上空の航空機から発見されないように光量を抑え、下方向のみを照らす)の灯火管制スイッチなどを追加している。
今回展示されたKLX250は練馬駐屯地から来た普通科連隊の所属車両で、もっぱら連絡や警備、災害派遣などに使用される車両だ。乗員は普通科連隊の中で自動二輪免許を持つ隊員が持ち回りで乗務し、オートを運転するための特別なMOS (Military Occupational Specialty。隊員が職務を遂行するために必要な専門知識や技術を認定する「特技資格制度」のこと)はないそうだ。普通科連隊のオートは、立ち乗りでの小銃射撃訓練などは行わないようだが、訓練は偵察隊や情報小隊の隊員を教官役に共同で実施されることから、その内容はなかなかハードなようだ。

KLX250は2016年に生産を終了しているため、もっとも新しい車両でもすでに10年選手だ。陸自内でも後継車両が噂されているようで、最近デビューしたKLX230のほか、再びホンダに戻ってCRF250Lが採用されるのではないかとの話が現場レベルでは出ており、オートバイ好きの陸自隊員の中で話題となっているらしい。
首都高パトロール株式会社:BMW F900
黄色の車体から「黄バイ」と呼ばれているのが、首都高パトロール株式会社のパトロールバイクだ。中央環状線の西側に位置し、湾岸線から渋谷、新宿、池袋と約18.2㎞にも渡って東京の地下を貫く山手トンネルは、道路トンネルとして日本一の長さを誇る。この場所での万一の事故や大規模災害の発生を想定して、バイクならではの機動性を生かし、いち早く現場に駆けつけて利用者の避難・誘導や車両火災の初期消火に当たる。

黄バイ部隊が創設されたのは、山手トンネルが開通した2007年のことで、1979年に日本坂トンネルで発生した大規模火災を教訓に組織された。警察と消防以外で緊急指定を受けた二輪車は首都高パトロールだけであり、民間では初めてのケースとなった。

現在の隊員数は約50名。大橋基地を拠点に志村基地、大井基地の3拠点に分かれ、交通管制室から指示が入り次第出動する。出動はペアが基本で、バディ同士はお互いに日頃からコミュニケーションを密にしており、出動前にも話し合って意思疎通を図っている。また、黄バイ隊は首都高パトロールの行動理念である「より安全に、より的確に、より迅速に」を実現するため、毎月1回の自主訓練と年2回の外部研修を重ね、運転技能の向上と維持を図っている。

展示車両のBMW F900XRはそれまで使用していたCB400SFの後継として2024年から配備された車両だ。パトロールバイクにBMWとは、同社はさぞかし儲かっているのだろうと思いきや、導入に当たっては入札で車種を選定したので、提案を受けたメーカーの中でもっとも安かったそうだ。それというのも伝統的にBMWは、赤色灯やパニアケース 、ストップ&ゴーの多い警察車両用のエンジンチューンを施したポリス仕様をカタログモデルとして用意しており、国産バイクを購入して専用の架装を施すよりも導入コストが安くなるそうだ。

避難誘導の際に使用されるスピーカーは前方だけでなく、車体後方にも備えている。これは後ろを走るクルマにも音声を届けるためのものだが、こうした仕様変更にもBMWは柔軟に答えてくれるようだ。なお、メンテナンスなどはBMWディーラーが一括して行なっているとのことだ。

気になるのは輸入車ゆえのトラブルの不安だ。つい最近、ドイツ連邦軍は「信頼性や稼働率に問題あり」として、偵察用オートバイをBMW F850からヤマハ・テネレ700に刷新したばかりだ。その例を持ち出しつつ、首都高パトロールの職員に話を聞くと「BMW F900XRは以前のCB400SFよりもパワフルで乗りやすいと黄バイ隊員からの評判は上々です。ドイツ軍のことはわかりませんが、道なき道を走る軍用バイクと違って、我われの戦場はあくまでも舗装された首都高ですから、車両への負担はそこまで激しくないのでしょう。今のところ信頼性や耐久性、稼働率についても問題はありません」と答えてくれた。
なお、BMW F900XRは黄バイ以外にも、ひったくりや車上ねらいなどの街頭犯罪対策に特化した大阪府警の「スカイブルー隊」の青バイにも採用されている。
東京消防庁:セロ-250

東京消防庁には人命救助や消火活動を行うための消防活動二輪車、通称「クイックアタッカー隊」が組織されている。同隊が創設されたのは阪神淡路大震災後から2年後の1997年のことだ。地震などの大規模災害の際には建物が崩壊し、瓦礫などが散乱して道路をふさぎ、消防自動車だけでは充分な消火やレスキュー活動ができなくなることから、機動性に優れたオートバイを活用することとなったのだ。

東京消防庁では現在10カ所の消防署にクイック・アタッカーを配備している。その役割は地域ごとに差があるようで、都心では渋滞の多い首都高などの交通事故対応や車両火災に出動することが多く、八王子や青梅といった山間部では登山客の救命救助が主な仕事となっているそうだ。
また、2011年の東日本大震災には、クイック・アタッカー隊は渋滞で車両が身動きを取れなくなっている中、その機動性を生かして街や橋の状況を調査し、無線で消防署に報告したという。

同隊の乗員は専任ではなく、自動二輪免許を持つ消防員が通常の業務と兼務し、状況に応じて出動するという。その出動頻度はおおむね月に1~2回程度となるようだ。

クイックアタッカー隊は可搬式消火器具を装備した1号車と、簡易式救助器具や救急資器材を積載した2号車が2台1組となって現場に急行する。使用されるのはともにヤマハ・セロー250で、今回展示されたのは後者の方だ。

2号車に装備される簡易式救助器具とは、油圧カッターや油圧スプレッダーと呼ばれるもので、交通事故によって変形してしまった車のドアをこじ開けたり、ボディを切断するために使用する。積載重量は20kgほどになる。
なお、展示されなかった1号車に装備される可搬式消火器具とは、圧縮空気を利用して放水を行う携行型の消火器のことで、放水できる時間はわずか20秒。本格的な火災用ではなく、あくまで初期消火を行うためのものである。これらの装備は各消防署の実情に合わせて若干の変化はあるようだ。

ベースとなった市販車との違いは赤色灯とスピーカー、サイドケーやトップケースの有無、そして消防車両であることを示す、真紅の塗装だけである。
警視庁&ホンダ:ホンダWN7
2025年11月のEICMA(ミラノモーターサイクルショー)で発表されたホンダ初の電動バイク・WN7の白バイ仕様。バッテリーを車体の骨格の一部とする革新的な前後分割形態とドライブベルトシステム、回生レベルを4段階に選択できる減速度セレクターなどの先進機能と140kmの航続性能は、ホンダブースで展示されたコンセプトモデルと違いはない。だが、この車両には白バイに必須な赤色灯やスピーカー、車体後部の書類入れなどが備わる。

すでに2026年1月の箱根駅伝では、先導車両として使用されているが、これは警視庁が正式採用した車両ではなく、ホンダから貸し出された車両になるそうだ。すなわち、この車両はホンダからのレンタルバイクということになる。
その用途は先に述べた箱根駅伝などの公的な催し物に限定されており、一般の白バイが行なう該当指導や取り締まりには用いられないという。

そうしたことから貸し出しはイベントごととなり、使用後はそのままホンダが回収し、警視庁の車両置き場にWN7が留め置かれることはないらしい。公道走行が可能とは言え、WN7はまだ開発途上のコンセプトマシンだ。おそらく、ホンダは走行データの収集を兼ねて警視庁に車両を提供しているのだろう。

WN7の特徴はEVならではの走行音の静かさと排ガスを一切出さないことにあり、沿道の観客やランナーを競技への集中を阻害しないことから、箱根駅伝やマラソンなどの先導車としてはまさに理想的なマシンなのかもしれない。

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