二輪車にもエアバッグを――安全技術の新たな展開

豊田合成株式会社は、自社のセーフティシステム技術を活かし、四輪車向けで培ってきたエアバッグ技術を応用した「自動二輪車用エアバッグ」の開発を本格化させている。同社はこの新技術の早期市場投入を目指し、2025年に入り自社施設での実車衝突試験を実施。試験結果をもとに、より高い保護性能を持つ二輪車用エアバッグの実現を目指す。

二輪車事故による死者36万人、緊急性が高まる安全対策

豊田合成がこの技術に注力する背景には、世界的な交通事故死亡者数の中で二輪車が占める深刻な割合がある。世界保健機関(WHO)の報告によると、2021年時点で年間約36万人が自動二輪車や三輪車による交通事故で命を落としており、これは全体の中でも大きな割合を占める。こうした現状に対し同社は「移動する全ての人に安全を届ける」という理念を掲げ、二輪車を含むあらゆるモビリティの乗員保護技術の開発に取り組んでいる。

限られたスペースでも機能する、専用設計のエアバッグ

二輪車におけるエアバッグの導入は、四輪車とは異なる課題を抱える。まず、搭載スペースが極端に限られていること。そして、車体構造が開放的であるため、エアバッグだけで全身を守るのが困難であることだ。今回の豊田合成による衝突試験では、二輪車が正面衝突した際にエアバッグがどのように展開し、ライダーの体をどう受け止めるかを検証した。試験の成果は今後の開発に活かされ、さらなる性能向上が図られる予定だ。

シミュレーションと実走行を融合した継続的開発へ

今回の試験を一過性のものとせず、豊田合成は継続的な検証体制を敷く。実車による物理試験に加え、シミュレーション技術を活用することで、より多様な事故パターンや走行環境に対応した保護機構の検証を進める。とくに二輪車事故は速度や路面状況、他車との接触角度などにより複雑化するため、多角的な開発アプローチが不可欠だ。

今後の量産化や製品化に向けては、安全規格への適合やコスト面での課題もあるが、豊田合成はそのすべてに正面から取り組む構えを見せている。モビリティの多様化が進む現代において、四輪車に限らない安全技術の普及が社会全体の安心につながるという信念が、今回の取り組みに結実している。