2025年のマン島TTレースが、5月26日から6月7日にかけて、マン島のTTマウンテンコースで行われた。
マン島TTレースとは? マン島とは?
2025年マン島TTレースを取材した筆者の経験談や写真とともに紹介していこう。
マン島TTレースとは?
マン島TTレースは、現在も開催されている中では、現存する最古の二輪レースである。その始まりは1907年にまでさかのぼる。公道を閉鎖して行われる、公道レースだ。1周約60kmのTTマウンテンコースを一人ずつスタートしてタイムを争う、いわゆるタイムトライアル形式のレースである。2025年の場合は、クラスによって2周から4周でレースが行われた。本来は4周から6周が予定されていたが、後述するスケジュール変更によってレース周回数が短縮されたのである。

2025年マン島TTレースの開催クラス
2025年のマン島TTレースは、以下のクラスが開催された。
・スーパーバイクTT、シニアTTレース
原則として4ストローク4気筒、あるいは3気筒750cc超1000cc以下、4ストローク2気筒850cc超1200cc以下のバイク。
例:ホンダCBR1000RR-R Fireblade、BMW M1000RRなど
・サイドカーTTレース
原則として4ストローク4気筒最大600ccの市販車ベース、4ストローク3気筒最大675㏄市販車ベース、4ストローク並列2気筒最大900㏄の市販車ベース。
・スーパースポーツTTレース
4ストローク4気筒400cc超600㏄以下、4ストローク3気筒600cc超675㏄以下、4ストローク2気筒600cc超750㏄以下のバイク。
また、FIMの「スーパースポーツ・ネクストジェネレーション」フェーズ2ホモロゲーションリストに記載のバイク。
例:ドゥカティ パニガーレV2 955㏄、ホンダCBR600RRなど
・スーパーストックTTレース
4ストローク4気筒600㏄超1000㏄以下、4ストローク3気筒750cc超1000㏄以下、4ストローク2気筒850cc超1200㏄以下のバイク。
※バイクの改造範囲は限定的。
例:ホンダCBR1000RR-R Fireblade、BMW M1000RRなど
・スーパーツインTTレース
4ストローク2気筒500cc超700㏄以下のバイク。
例:Paton S1-R、アプリリアRS 660など

マン島TTレースのコースについて
マン島TTレースのTTマウンテンコースは、普段は市民がクルマやバイクで走る公道である。マン島TTレースのセッション、レースが行われる時間だけ閉鎖され、コースになる。現在のTTマウンテンコースは1911年から続くレイアウトで、1周は約60kmだ。スタート、フィニッシュ地点のメインストレート、市街地、マウンテンエリアなど、コースは多岐にわたり、コーナーの数は200を超える。
1周の全長が長いため、スタート地点では晴れていてもマウンテンエリアで雨が降っているためにレースがディレイする、といったことも起こる。
1周のラップタイムは、クラスにもよるが、16分から18分である。現在の総合ラップ・レコードがピーター・ヒックマンの平均時速136.358mph(約219.45km/h)であると聞けば、ライダーがどれほどのスピードで駆けているのか想像がつくだろう。
マン島TTレースウイークの間も、レースが終われば“ロードオープン”となり、市民や観客は、ライダーが走ったばかりの(または走る前の)「道(コース)」を自分のクルマやバイクで移動し、バスなどの公共交通機関も走っている。



2025年マン島TTレースはどんなレースだったのか
一言で言えば、2025年は天候によってスケジュールディレイが続いたレースだった。マン島は天候が変わりやすいので、スケジュールが当初の予定通りにいかないことは全く珍しいことではなく、むしろ晴れが続いてスケジュール通りにレースウイークが進むほうが珍しいくらいなのだが、そんなマン島でも稀にみる天候不順と度重なるスケジュール変更だった。
最終的に、最終日である6月7日に予定されていたシニアTTレースが中止になった。競技長のギャリー・トンプソンの説明によれば、「強風と、その風向きがこれまでのレースウイークで吹いていたものと異なるため」ということだ。シニアTTレースはマン島TTレースのラストを飾る最高峰クラスのレースであり、これが中止となったのは2012年以来、史上2度目のことだった。


2025年マン島TTレースで優勝を飾ったライダー
スーパーバイクTTレースでは、BMWのデイビー・トッドが優勝し、スーパーストックTTのレース1、レース2ではホンダのディーン・ハリソンが勝利を飾った。大排気量クラスではチーム体制やバイクを含め、この二人が本命だったことは間違いなく、それぞれが確実に勝ち星を挙げたと言える。
中排気量クラスを得意としており、史上最多勝利数の記録を持つマイケル・ダンロップは、スーパースポーツTTレース1で優勝し、これが30勝目となった。伝説のTTライダー、ジョイ・ダンロップの甥であるマイケル・ダンロップは、さらにスーパーツインTTレース1、スーパースポーツTTレース2、スーパーツインTTレース2で優勝し、史上最多勝利数の記録を33に伸ばした。
日本人としては、唯一、山中正之が参戦した。今年でマン島TTレース参戦7回目となる山中は、スーパーツインTTに参戦し、レース1(2周)をタイム41分20秒867、平均時速109.5mph(約176.22km/h)、31位、レース2(3周)をタイム1時間2分24秒672、平均時速108.817mph(約175.12km/h)、25位で2レースともに完走を果たした。
マン島TTレースでは、全ての完走者が表彰される。全クラスのレース1が終わった6月4日、プライズ・プレゼンテーション(表彰式)が行われ、レース1の各クラスの完走者全員がステージ上で表彰を受けた。スーパーツインTTレース1を完走した山中も、ステージ上でメダルを受け取った。こうしたライダーへの表彰、敬意の表し方もまた、マン島TTレースを表す一部だろう。




マン島はどこにある? どんな島?
マン島TTレースが行われるのは、大ブリテン島とアイルランド島の間にある、英国王室属独立地域のマン島である。大ブリテン島から見ると、マンチェスターやリバプールの北西。日本の最北端、宗谷岬よりも北に位置している。マン島TTレースが行われる5月下旬から6月上旬でも朝夕は気温10度を下回り、昼間でも陽射しがなければはっきりと「寒い」と感じる気温になる。

日本からのアクセスは?
日本から行く場合は、イギリスのロンドンを経由して飛行機を乗り継ぎ、マン島のロナルズウェイ空港まで飛ぶ、あるいはリバプールからマン島の中心都市ダグラスまで船で移動することもできる。または、アイルランドのダブリンを経由する方法もある。
筆者の場合は、MotoGPイギリスGP取材のあと、ミルトンキーンズから移動して、ロンドンのガトウィック空港からイージージェットでマン島のロナルズウェイ空港に飛んだ。マン島TTレースの期間中だったので、飛行機内はマン島TTレースのパーカーなどを着た人が多かった。

マン島TTレースウイーク中のマン島は?
マン島TTレースウイークには、多くの観戦客がマン島にやって来る。ヨーロッパから海を渡ってバイクとともにマン島に来る人も多い。コースサイドにいると、マン島の人が話す英語ではなく、フランス語やイタリア語などが飛び交っていたりする。
一方、マン島の人たちの中には、この時期に交通費が安くなるので(マン島に来る人は多いが、出ていく人は少ないからだ)、島外へ出る人もいるのだそうだ。そしてその間、空いている家をマン島にやってきた観戦客に貸し出すマン島在住者もいるのだとか。
マウンテンエリアのバンガローにあるビクトリー・カフェの前や、海岸沿いのホテルが立ち並ぶエリアには多くのバイクが並ぶ。もちろん、走っているバイクの数も非常に多い。
車種の特徴としては、スポーツバイク、アドベンチャーが多く、その一方でスクーターをほとんど見かけない。筆者はMotoGPの取材でイタリアやスペインを何度も訪れてきたが、公道を走るスクーターは多いし、MotoGPの駐輪場でも少ないながらもスクーターを見かける。だが、マン島の場合は──少なくともマン島TTレースの期間中は、ということだが──スクーターを全くといっていいほど見ない。2025年はホンダのGROMのようなミニバイクが多く走っていたのも特徴だった。2023年に訪れたとき、ミニバイクはほとんど走っていなかったように記憶している。


長い歴史を持つマン島TTレースの、2025年の模様をお伝えした。