Super GT300 Class
世界規模でレースを行うGT3車両


日本最高峰のGTカーレース、それがオートバックススーパーGTシリーズだ。このシリーズは、日本の自動車メーカーがこのレース専用に作るGT500クラスと、市販レーシングマシンを使って走るGT300クラスが混走する屈指の人気レースである。
GT500に関しては同一モノコックに、それぞれのメーカーがエンジン、エアロパッケージ等を開発してレースを行う。そのレギュレーションの影響もあり、マシンデザインの幅は小さい。対してGT300クラスは日本独自開発のJAF GTや、グローバルに販売されているGT3カテゴリー車両などメーカー色の強いマシンが競い合っている。そのため、各メーカーの開発ポリシーなどが現れやすく見た目にも楽しいクラスと言えるだろう。
現在GT300クラスに出走しているGT3マシンは、アストンマーティン、ポルシェ、メルセデス・ベンツ、フェラーリ、ランボルギーニのヨーロッパ勢。そして日産とトヨタが日本メーカーとして世界水準のGT3車両を製作して出走している。そこにスバル、トヨタ製のマザーシャシーと呼ばれる共用シャシーのマシンを加えた、JAF GTカテゴリーの車両でGT300クラスはレースを行っている。中でも世界規模でレースを行っているGT3車両は、各メーカーの特色がわかりやすく表現されたレーシングカーと言える。今回はプレミアムスポーツカーが原型のGT3マシンについて、その特徴や各メーカーの製作意図を紹介しよう。
GT3の基本型

GT3車両はプロドライバーだけが乗り、チャンピオンを目指すマシンとは違い、プロからアマチュアまで幅広いドライバーが乗ることが前提のレーシングマシンだ。そのため、純粋に速さだけを突き詰めたピーキーなマシン作りをする事はない。かと言ってスピードのないマシンを作るわけもない。つまり、速さと同時にジェントルマンドライバーが乗れる、懐の深いマシン作りが必要となって来る。
加えてBOP(バランス・オブ・パフォーマンス)と言うレギュレーションによって、性能が調整されてしまう側面もある。そこまで計算し、いかにバランスの良いレーシングマシンを作るのかが鍵になってくる。
そういった観点でGT3の基本型とも言えるマシンが、「メルセデスAMG GT3」だ。このマシンは重い5.2リッターV8エンジンをフロントミッドに搭載し、マスの集中化をはかることでロングホイールベース(2625mm)ながらコーナリング性能を確保している。デビュー当時からパフォーマンスが高く、バランスの取れたマシンの代表格である。この基本設計の確かさがGT3全体のベンチマークと言われる所以のひとつだろう。
4.2リッターNAフラット6を搭載

対して参戦GT3車両のなかで、最もホイールベースが短いのが「ポルシェ 911 GT3 R」だ。ポルシェはこのマシンの製作段階から、「速いマシンを作ってもBOPで性能調整されてしまう。我々は、バランスの良いマシンを作りあげることにフォーカスした」と公言している。
そのひとつの答えが、RR(リヤエンジン・リヤ駆動)のエンジンレイアウトを生かしたトラクションとコーナリング性能だ。リヤエンジンのマウントを数十mm前にオフセットし、ホイールベースを短めに設定。エンジンは4.2リッターNAフラット6。速さよりバランス重視の言葉通りのコンセプトだと言えるだろう。
幅広い回転域で機能する過給機

フェラーリからは、デビュー時から評価の高い「296 GT3」が出走している。このマシンはコンパクトに見えるが、意外とホイールベースは長い。ル・マンやニュルブルクリンクなどのロングストレートまで考えれば、ある程度のホイールベースは必要なのだろう。
エンジンには3.0リッターV6ツインターボを搭載することで、軽量ながら太いトルクを発生させている。トルクの太さは扱いやすく、競り合った時にその強さを発揮しそうだ。幅広い回転域で仕事をする過給機もあって、高回転を維持することもさほど重要ではない。この事実がエンジンの耐久性にも一役買っている。この壊れにくいエンジンというのも、296 GT3の評価の高さに一役買っている部分だ。
まだまだある多彩なスポーツカー

プレミアムスポーツカーの代表格とも言える、ランボルギーニとアストンマーティンもエントリーしている。ランボルギーニは「ウラカン GT3 EVO」を投入。5.2リッターV10エンジンは、回転数を上げる事で出力を発生させる高回転型エンジンだ。他のコンストラクターとは少し考え方が違うようだが、昨年のシリーズチャンピオンを奪取した実力は折り紙つき。甲高い排気音も含め、プレミアムスポーツカーを体現するマシンと言える。
最後にアストンマーティンだが、「ヴァンテージ GT3 EVO」が参戦している。4.0リッターV8ツインターボを搭載。2024年にデビューしたEVOモデルは、ブレーキの冷却を含めた空力に重点を置き開発されている。結果ダウンフォースが増し、特にブレーキング時の安定感が増したと発表。横のバトルに強いマシンに仕上がっているようだ。
ここまでプレミアムスポーツカーベースのGT3車両について書いてきた。マシン性能や開発コンセプトなど、各社様々なポリシーを持って作成されたマシンであることを紹介してきた。そういった知識があれば、レースをより楽しく観戦できるのは確かだ。
しかしながら、レース観戦は楽しむことが一番。レースに勝つという同じ目標に向かって、様々な形状をし、まったく違う排気音を発して走行するGT3カテゴリー車両。自分なりの推し車両を定めて、観戦するのもスーパーGTの楽しみ方のひとつではないだろうか。
PHOTO/折原弘之(Hiroyuki ORIHARA)
