CB1000F

ホンダのロードスポーツモデルに与えられたモデル名「CB」。その名を冠した市販モデルは現在、派生型“R”も含めると16車種に及ぶ。そもそもCBとはどういう意味なのだろうか。諸説はあるが、ホンダ社内でモーターサイクルを示す「C」と、“for Clubman Racer”を意味する「B」というのが由来と言われている。

元々はその名の由来の通り、『全日本モーターサイクルクラブマンレース』のためにホンダが開発したCB71とCB90という競技用試作車が発祥だが、市販モデルの源流は1959年に発売された「ベンリイCB92スーパースポーツ」だ。

CB92は、浅間火山レースによって北野元選手によって優勝に導かれ、ホンダモーターサイクルの優れた性能を世に知らしめたモデルである。余談だが、北野元選手は、大藪春彦著「汚れた英雄」の主人公のモデルとなったと言われている。

CBの伝説、名車を挙げたら枚挙に暇が無いが、リターンライダー世代にとって時代のベンチマークとなった1台が「ドリームCB750 FOUR」ではないだろうか。巷では“K型”と呼ばれているモデルで、海外市場を標榜して開発された。その走りは時速200km/hを優に超えて、前輪に世界初のシングルディスクブレーキを採用されたことでも知られている。

リターン世代には、漫画「ワイルド7」や「ナナハンライダー」の主人公が乗っていたオートバイとしてお馴染みで、これに触発されて乗りたいと思った諸兄も多いのではないだろうか。

そしてもう一台、70年代、80年代のバイクブームを牽引したCBがある。それが「CB900F」を筆頭とするCB-Fシリーズだ。これは時代の感覚にそぐわなくなったK型の後継モデルとして登場。レースシーンで常勝状態だったカワサキ「Z1」から国内外の市場を奪還するという使命を帯びていた。

1979年に登場したCB900Fは、当時ヨーロッパの耐久レースで圧倒的な強さを誇っていたレースマシン「RCB1000」のノウハウが使われた市販スーパースポーツモデルで、空冷4バルブDOHCエンジンを採用した初のホンダ車だ。日本国内では排気量上限規制の点から、750ccにスケールダウンして「CB750F」として販売された。

このモデルもリターン世代にはお馴染みで、当時の大ヒット漫画「バリバリ伝説」の主人公が乗っていたことで大人気に。多くの若年層ライダーがこれに乗りたいがために、当時の大型二輪免許制度“限定解除”試験をこぞって受けに行ったものである。

加えて、CB750Fベースマシンがアメリカで開催されていた『AMAスーパーバイク選手権(現モトアメリカロードレーシングシリーズ)』に参戦したことも、CB-Fの誉れを高めた。この時にCB-Fを駆った無名の新人フレディ・スペンサーは、その3年後にロードレース世界選手権500ccクラスで最年少チャンピオンに。AMA参戦マシンのシルバーにブルーラインのボディカラーは、現在も“スペンサーカラー”として人気だ。

80年代はCBによって黄金時代と言える時期で、1981年に登場した「CBX400F」、さらに1983年に「CBR400F」が登場したことによって派生の系譜と新しい価値観を広めていき、現在の「CB1300スーパーフォア」や「CBR1000RR-Rファイヤーブレイド」などにDNAを受け継いでいる。

そんなCBシリーズは2025年、新たな幕を開きそうだ。その兆しが、3月に大阪モーターサイクルショーでお披露目された「CB1000Fコンセプト」である。ホンダはかつて2020年に「CB-Fコンセプト」を発表し、久しく絶えていた“F”の復活を謳った。しかしその後、CB-Fコンセプトは開発中止を決定。ファンを落胆させていたのである。

ところが今春、突如新たな「CB1000F  Concept」を発表。CB1300スーパーフォアシリーズ絶版後の市場に、新たなる希望を与えたのである。発表会の壇上に現れたコンセプトモデルは、一見して「CB1000ホーネット」とエンジンなどを共用していることは分かったが、そのデザインはオールド世代にドンピシャ。開発者は20〜30代がメインだというが、前述したAMAスーパーバイク選手権に出場していたあのCB-Fを彷彿させるマシンに仕上がっていたのである。

まずタンク形状だが、ここ十数年に登場したCBの丸みを帯びたものとは違い、CB750Fのようにエッジが立った意匠を採用。これだけで、往年のファンは「おお!」となったはずだ。

だがそれだけではない。デイトナレーサーが行っていたチューニング、「ロングフロントフォーク」「メガホンマフラー」「フェンダーレス」「シート肉抜き」といった未だにCB-Fで定番カスタムとなっている“カタチ”をスタイリングの中に再現しているのは、まさに感涙ものだ。

もちろん市販時にはウインカーやリアフェンダーといった保安部品が装着されるだろうし、液晶メーター、エンジンの形状には賛否両論ある。それでも50代以上のライダーの多くが、Fの復活に狂喜したことは間違いない。

ホンダは3月のお披露目以来、各地で開催しているイベントにCB1000F  Conceptを持ち込んで認知度を高めているようで、市販する気満々だ。筆者の元に入ってきた情報から、2025年秋には発売されると予測している。

ちなみにラインナップには、2タイプ用意されているようだ。ショーなどで展示されたノンカウルのスタンダードバージョンと、ビキニカウルを装着した上位バージョンが登場する見込み。上位バージョンにはクイックシフターなども付加され、スタンダードバージョンとは機能面での差別化も図られているようだ。

また、カラーリングは3タイプで、シルバー&ブルーのスペンサーカラーの他、CB750Fのカラーをアレンジしたものが2タイプあるという。

すでにファンの間で沸騰気味のCB1000F  Conceptだが、市販するにはあたっては台数をかなり絞ってプレミア化するのでは……という噂も広がっている。ライバルとなる「Z900RS」の販売戦略を参考にしているという話があり、それが事実ならデビュー直後にはすでに完売状態ということも考えられそうだ。

いずれにせよ、BIG1シリーズの終焉と共にやってくるCB1000Fは、まさにCBシリーズの新時代の到来を告げるものであることは間違いない。果たしてニューカマーは、ホンダの大名跡CBにふさわしい性能なのか、期待は高まるばかりである。