BMW M5 Touring
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Mercedes-AMG E 53 Hybrid 4Matic+ Stationwagon
両車、譲らぬ走りの性能

M5にツーリングが追加された。M5ツーリングといえば、2010年に生産終了したE60系以来、3世代14年ぶりの復活だ。「M5にツーリングなんてあった?」と疑問を抱く向きも少なくないだろう。それもそのはず、前回のM5ツーリングは欧州専用で、日本には正規輸入されなかった。おかげで、生産台数もセダンの10分の1以下だったとか。
“M”のツーリングといえば、ひと足先の2023年にはM3にもツーリングが登場した。M3ツーリングはこれが史上初。一方で“M”の宿敵であるメルセデスAMGやアウディのRSでは、セダンとともにステーションワゴンがあるのはお約束である。それどころか、アバントが元祖のRSにいたっては、近年はアバントしか用意されなくなっているほどだ。
荷物をたっぷり積めて、しかも速いスーパーワゴンは、ある意味で人間の欲望をすべて満たす理想の乗り物である。最初のM5ツーリングの販売不振のトラウマか、かたくなにツーリングを避けていたMなのに、いつしかM5とM3の両方にツーリングを揃えている。やはり素直な欲望には抗えないということか。
というわけで、注目のM5ツーリングの実力を確かめるべく、今回はライバルを連れ出しての“世界最速スーパーワゴン対決”である。ただ、ライバル候補の一角であるRS 6アバントは事実上の次期モデル待ち期間ということもあり、今回の相手はAMGということにした。
4.4リッターV8のM5に対し、3リッター直6を貫くメルセデス


当ウェブサイトを見るような好事家ならご承知のとおり、M5を含むMハイパフォーマンスモデルに正面から対抗するAMGは、長らく「63」の数字を掲げてきた。実際、CやS、あるいはGTのトップモデルは現在も63で、高性能エンジンにAMG専用プラグインハイブリッドの「Eパフォーマンス(以下、Eパフォ)」を組み合わせるのが最新の定石である。
しかし、M5のライバルとなる現行EクラスのAMGに63は存在せず、トップモデルは「53」となる。エンジンはC 63 S Eパフォの直列4気筒とも、SやGTのそれのV8とも異なる3.0リッター直6。プラグインハイブリッド車(PHV)であることは他の63 Eパフォと同様だが、リヤにモーターを置くEパフォに対して、E 53はエンジンと9速ATに間にモーターをサンドイッチする(ある意味で一般的な)レイアウトを採る。ちなみに、このレイアウトはPHVとなった最新のM5も同様だ。
どちらも最新の電動パワートレインとはいえ、そのパワーを生み出すのはあくまでエンジンだ。M5のそれは以前からの定番である4.4リッターV8ツインターボで、最高出力は585PS、最大トルクは750Nm。そこに77PS、197Nmのモーターを追加して、システム出力は727PS、同トルクは大台の1000Nmを豪語する。対するE 53の直6ターボは449PSと560Nmと、M5とは差がある。E 53はそのかわりモーター性能ではM5のそれを上回る(168PS、480Nm)が、612PS(レーススタート機能作動時)、750Nmというシステム出力、同トルクはM5にはおよばない。やはり、すべての源はエンジンなのだ。
直感的操作が魅力のM5のコクピット


初対面のM5ツーリングは、大きく張り出した前後フェンダーがなにより目を引く。トレッドはセダンと同寸だが、サイドパネルが大きいからか、リヤフェンダー周辺の迫力はツーリングの方が上回る。
対するAMGの正式名は、メルセデスAMG E 53ハイブリッド 4マティック+ステーションワゴン(PHV)である。あまりに長い……というのはともかく、そんなE 53で通常のEクラスから拡大されているのは、M5とは異なり、フロントフェンダーのみだ。ただし、そのフレア形状のフェンダーは、50代の中高年である筆者には、あの500Eの面影が重なって、思わずグッとくる。
これだけ大がかりなパワートレインゆえ、当然ながらどちらもスペースはぎりぎりだ。ワゴンといえば欠かせないのが荷室機能だが、今回の2台の荷室フロアは、同じクルマの純エンジン(もしくは電気自動車)より明確に高い。ただ、現行5シリーズは当初のプラットフォーム設計から電動化を想定しており、M5ツーリングもこれ1台を見ている限りは、そうとは思わないかもしれない。しかし、後席を倒すと荷室がそれより高くなっていることに気づく。
第3世代のMBUXを採用するメルセデス


一方のE 53はバックドアを開けた瞬間に、荷室フロアが普通のEクラスステーションワゴンより盛り上がっていることに気づく。開口部の敷居よりもフロアの方が約6cmも高いのだ。EクラスにはEVが用意されないことに加えて、荷室下のリチウムイオン電池の総電力量もM5の22.1kWhより大きな28.6kWhである。EV航続距離もその分だけ長い(M5ツーリングの70kmに対して97km。ともにWLTCモード)が、荷室への影響も明らかである。実際、荷室容量もフル乗車時でM5が500L、E 53が460Lで、M5ツーリングに軍配が上がる。
アシをコンフォートモードにしてEV走行する間は猫を被っているM5だが、各モードの設定でポテンシャルを解放すると、その走りはとてつもない。エンジン性能は先代よりデチューンされているくらいなのだが、それを補って余りある……というか、余りすぎる電動パワーのおかげで、その速さは“無慈悲”という形容詞がぴったりだ。特にドライ路面だと、筆者のようなアマチュアドライバーでは、クルマよりはるか手前で乗り手の限界が訪れてしまう。
今どきワゴンだからと乗り味があからさまに落ちる例は少ないが、それを差し引いても、無慈悲なパワーを解放してもワゴン化のネガをほぼ感じさせないM5ツーリングには感心した。シリーズ内に純EVも用意する5シリーズは、基本的なフロア剛性から非常に高いらしい。
それぞれ460Lオーバーの容積を誇るラゲッジルーム


そんなM5と比較すると、E 53の乗り味は、そのスペックからも想像できるように、より文化的で洗練されていて、そして大人っぽい。ただ、ステアリングを中心に全身にみなぎる硬質感は隠せず、やはりタダモノではないオーラは如実である。
動力性能もM5と比較すれば明らかに人間的なE 53だが、それでもレーススタート機能を作動させての0-100km/h加速は、M5ツーリングとわずか0.3秒差の3.9秒。サーキットのタイムアタックでもなければ、不足があろうはずもない。
どちらも日常はEVとして過ごすことのできる今どきのPHVだが、エンジンがフル稼働した時の迫力はナニモノにもかえがたい宝だ。どちらもスピーカーによる加音も含まれるが、絵に描いたような心地よいスポーツサウンドを楽しめるのはE 53である。M5のV8の重低音も捨てがたいのだが、やはり直6が本気で歌い上げるE 53のカタルシス感には少しだけおよばない。
好事家の最終地点

無慈悲なまでに速いM5、洗練の中に独特の硬質感が光るE 53……という構図は、今回のようなワゴンであってもセダンであっても基本的に変わりない。それにしても、この2台を並べて思うのは、SUVもいいけど、走りを含めた本当の万能グルマとは、こうしたスーパーワゴンなんじゃないか……ということだ。
REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2025年9月号
SPECIFICATIONS
BMW M5ツーリング
ボディサイズ:全長5095 全幅1970 全高1515mm
ホイールベース:3005mm
車両重量:2490kg
システム最高出力:535kW(727PS)
システム最大トルク:1000Nm(102kgm)
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4394cc
最高出力:430kW(585PS)/6000rpm
最大トルク:750Nm(76.5kgm)/1800rpm-5400rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前285/40R20 後295/35R21
車両本体価格:2048万円
メルセデスAMG E53ハイブリッド4マティック+ステーションワゴン
ボディサイズ:全長4970 全幅1900 全高1490mm
ホイールベース:2960mm
車両重量:2470kg
システム最高出力:430kW(585PS)
システム最大トルク:750Nm(76.5kgm)
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCターボ+スーパーチャージャー
総排気量:2996cc
最高出力:330kW(449PS)/5800-6100rpm
最大トルク:560Nm(57.1kgm)/2200-5000rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前265/40R20 後295/35R20
車両本体価格:1726万円
【問い合わせ】
BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/
メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
https://www.mercedes-benz.co.jp/

