サンマにゴキ、ハチハチ！ 実は名車なのに「変なあだ名」が付いてしまった80年代のバイク5選

サンマ：ヤマハ・TZR250（1989年）

1980年代が全盛期だったといえば、やっぱりレーサーレプリカ。「WGP（ロードレース世界選手権、今のMotoGP）」など、世界最高峰のレースに参戦するワークスマシンのフォルムや技術を投入した市販モデルたちのことで、当時の若者たちを中心に多くのファンを生んだジャンルだったのはご存じの通りだ。そんなレーサーレプリカのなかでも、「サンマ」という面白いニックネームが付いていたのが1989年に登場したヤマハ「TZR250」の2代目モデルだ。

TZR250は、初代モデルが1985年に登場。当時の最高峰2輪レースWGP・500ccクラスを闘うワークスマシン「YZR500」の技術などを投入した市販車だ。1995年まで販売されたロングセラーモデルだったのだが、特に、2代目は、水冷・2ストローク・並列2気筒エンジンに、独特な前方吸気・後方排気のレイアウトを採用。エンジンに取り入れる走行風の流れをストレートにすることで、燃料効率のアップなどを図った機構を採用していたのが特徴だった。

ちなみに、この後方排気型レイアウトは、レース専用車で採用されることが多く、当時の市販車には珍しかったといえる。しかも、2代目TZR250は、2本のサイレンサーがシートカウル後方から伸びるスタイルも採用。当時のレーシングマシンを彷彿とさせるシャープなスタイルなどにより、今でも多くのファンを持つマシンだといえる。

そんな2代目TZR250が、なぜ「サンマ」という愛称で呼ばれたのか？　理由は、型式が「3MA」だったから。「３＝サン」＋「MA＝マ」で「サンマ」と呼ばれたというのが定説だ。おそらく、約10年間に及ぶ歴史を持つTZR250は、多様なバリエーションがあったため、ほかの年式や仕様と区別するために、ファンなどが型式をもじったのだろう。それだけ、多くのファンを持っている名車のひとつである証だといえる。

ハチハチ：ホンダ・NSR250R（1988年）

ヤマハのTZR250と共に、2スト・レーサーレプリカ人気をけん引したのがホンダ「NSR250R」。初代モデル（MC16型）は1986年に登場したが、その2代目となるMC18型のうちでも、マイナーチェンジ版の1988年型は「ハチハチ」のあだ名で呼ばれていた。

世界最高峰レースWGPの250ccクラスで数々の栄冠に輝くなど、国内外のレースで大活躍したワークスマシンが「NSR250」。その市販バージョンといえるのが、NSR250Rだ。

1988年に登場した2代目モデルのマイナーチェンジ版では、まず、エンジンに249cc・水冷2ストローク・90度V型2気筒を採用。きめ細かな空燃比制御をする「PGMキャブレターII」を装備し、45PS/9500rpmもの最高出力を発揮した。また、車体には、異形5角断面材を用いたアルミ製ツインチューブ・フレームを採用。後輪に140/60-R18のワイドなタイヤを採用したほか、低く長いスラントノーズ型フルフェアリングなども装備。まさに、レーシングマシンさながらのスタイルも魅力だった。

そんな2代目NSR250Rだが、一部のファンなどの間では、「1988年式が最強」といった都市伝説もある。実際、NSR250Rの最高出力は、1990年に出た3代目（MC21型）までが45PS。その後、1993年登場の4代目MC28型では40PSに自主規制されたが、初代から３代目までは最高出力は同じとなっていた。

ただし、筆者が覚えている限りでは、NSR250Rに限らず、例えば、400cc・4ストマシンの「CBR400RR」など、当時のホンダ・レーサーレプリカは、「1998年型が最も速かった」といった噂もあった。ほかにも、ホンダに限らず、他メーカーのレーサーレプリカも同様に、この年式のモデルが「最もパワフルだった」という話も耳にした。

その理由は定かではないが、「実際にマシンをベンチテストに掛けると、1988年型がカタログ馬力に一番近かった」など、さまざまな憶測が飛び交っていたようだ。

ともあれ、実際の真相は定かではないが、そんな1988年型NSR250Rを、ほかの年式などと区別するために「88＝ハチハチ」と呼んでいたのは確かだ。当時は「高性能バイク=正義」だった時代。まさに、そんな1980年代を象徴する愛称だったといえるだろう。

ナナハンキラー：ヤマハ・RZ350（1981年）

ヤマハ「RZ350」は、兄弟車の「RZ250」と共に、いわゆる「レーサーレプリカ」ブームの先駆けとなったモデルだ。当時は、そのクラスを超えた圧倒的な動力性能などにより、「ナナハンキラー」のあだ名で呼ばれ一斉を風靡した。

1980年に発売された「RZ250」の爆発的ヒットに続き、1981年に登場したのがこのモデル。車体などの基本コンポーネントはRZ250と共通ながら、水冷2ストローク2気筒エンジンの排気量を、247ccから347ccへ拡大。最高出力も、RZ250の35PS/8000rpmから45PS/8500rpmにアップし、当時の350ccモデルとしては、かなり優れた動力性能を発揮した。

特に、ほかのモデルを圧倒したのが、乾燥重量143kgという軽量な車体と相まって発揮した鋭い加速性能。当時、高性能バイクの代名詞だったナナハン、750ccの大排気量車を、峠のワインディングなどで追い回すほどのシャープな走りを味わえることから、ナナハンキラーの愛称で呼ばれた。

ちなみに、RZ350には、「サンパン」というあだ名もあるが、これは兄弟車のRZ250と区別するため。当時、RZ250などの排気量250ccバイクを「ニイハン」と呼んでおり、RZ350は排気量350ccなのでサンパンと呼んでいたのだ。

ともあれ、RZ250やZR350の大ヒットにより、ヤマハは1981年に50cc版の「RZ50」、1882年には125cc版の「RZ125」も発売し、シリーズ化。当時は、2ストローク車よりも4ストローク車の方にトレンドが移ろうとしていた時代だったが、RZシリーズは、その時代の流れに待ったをかけて、再び2ストローク車への人気を呼び戻した名車だといえる。

そして、RZのセールス的な成功は、当時のWGP（ロードレース世界選手権）人気とも相まって、先述したフルカウルモデル「TZR250」をはじめ、ホンダ「NSR250」やスズキ「RG250ガンマ」、カワサキ「KR250」といった2スト・レーサーレプリカのブームへと繋がる。

残念ながら、排気ガス規制のために消滅してしまった2スト・レーサーレプリカだが、今でも多くのファンを持つことは確か。そして、そうしたモデルが生まれるキッカケとなったのが、RZ350やRZ250だったのだ。

ゴキ：スズキ・GSX400E（1980年）

スズキ製スポーツやツーリング向けバイクのシリーズが、ご存じ「GSX（ジーエスエックス）」。その400cc版であるGSX400シリーズの初代、1980年に登場した「GSX400E」は「ゴキ」のあだ名で呼ばれていたことで知られている。

GSXシリーズは、その前身となるGSシリーズが1気筒あたり2バルブの4ストロークエンジンを採用していたのに対し、より高性能な1気筒あたり4バルブの4ストロークエンジンを搭載したことが特徴だ。なかでも、GSX400Eでは、DOHC4バルブを採用する399cc・空冷4サイクル並列2気筒を採用。シリンダーヘッドに2つのドームを設け、それぞれに吸気・排気バルブを配置することで、燃焼効率を高めた「TSCC」の採用などで、最高出力44PS/9500rpm、最大トルク3.7kgf-m/8000rpmを発揮した。

また、フロントフォークには、当時のWGPマシン「RGB500」のノウハウを活かした「ANDF（Anti Nose Dive Fork）」も採用。制動時の前沈み現象を防止することで、車体姿勢や操縦安定性を向上するアンチ・ノーズ・ダイブ機構付きフォークを、750cc版「GSX750E」と共に世界で初採用するなどで、当時としてはかなり革新のメカニズムを搭載していたこともトピックだった。

そんな名車の呼び声も高いGSX400Eだが、なぜ「ゴキ」というあだ名が付いたのか？　どうも、発売当初にはそういったニックネームはなく、1981年のマイナーチェンジ後に付いたようだ。

マイナーチェンジ版のGSX400Eは、初期型よりも丸みを帯びたフォルムを採用。車体色にはブラック＆ゴールドを追加したのだが、どうもそのカラーが関係していたようだ。一説によると、マシンにまたがり真上から燃料タンクを見下ろすと、黒光りする「ゴキブリ」を連想させたらしい。機能的には当時先進のバイクであり、現代においても高く評価されている。

ザリ：スズキ・GSX250E（1980年）

一方、GSX400Eと同じく1980年に発売された250cc版の「GSX250E」は、「ザリ」のニックネームで親しまれたバイクだ。

DOHC4バルブ化した高性能な249cc・空冷4サイクル並列2気筒を搭載したのがGSX250E。GSX400Eと同じく、燃焼効率を高めるTSCCを採用するなどで、最高出力29PS/10000rpm、最大トルク2.2kgf-m/8000rpmを発揮。操縦安定性を追求した新設計のセミダブルクレードルフレームや、WGPマシンRGB500の技術を活かした穴あき型のフロント・ディスクブレーキなども採用することで、軽快な走行性能などに定評があったモデルだ。

そんなGSX250Eは、真っ赤なカラーリングと角ばったデザインなどが「ザリガニ」を連想させたことから、「ザリ」のあだ名が付けられたようだ。GSX250Eには、赤だけでなくホワイトのボディ色もあったのだが、よほど赤のイメージが強かったのだろう。どのカラーの車体も、おしなべてザリという愛称で呼ばれたようだ。

このように、モデル名からは連想できないような、ユニークなあだ名を持つバイクは意外にたくさんある。特に、バイク全盛期だった1980年代は、いわゆる名車と呼ばれる人気モデルも多かっただけに、愛称で呼ばれたバイクも今より多かった気がする。ほかにも面白いニックネームを持つバイクがあれば、また調べて紹介してみよう。