1914年に始まったムジェロで行われるイタリアGP
MotoGP第9戦イタリアGPは、イタリア中部のトスカーナ州にあるムジェロ・サーキットで開催される。筆者の場合は、旅程の都合でロンドンから飛行機でボローニャに飛び、Italoという高速鉄道でフィレンツェまで移動した。料金は約18ユーロ(約3060円)で、40分ほどの鉄道旅である。
イタリアの食文化といえばピッツァやパスタを思い浮かべるかもしれないが、フィレンツェでは「ビステッカ アッラ フィオレンティーナ」というTボーンステーキが有名である。今年、筆者も初めて食べた。大きな肉の塊がワゴンに乗ってやってきて、その場で手際よく切り分けられる。味付けはほぼ塩胡椒のみ。お皿は熱々に熱してあって、お肉を乗せた瞬間に「ジュワッ」という音が上がるほどだ。赤身のお肉は歯ごたえがしっかりしている。ボリュームたっぷりなので、オーダーの際はお肉の前に食べ過ぎないようにご注意を……。

ムジェロ・サーキットは、そんなフィレンツェからさらに1時間ほどクルマで走ったところにある。周りを山に囲まれていて、コースは丘陵を縫うようにレイアウトされ、パドックやサーキットの遠くには山が望める。こうした立地にあるサーキットなので、高低差は41.19mと大きい。サーキット自体の歴史は長く、1914年に初めてレースが行われた。当時の多くのサーキットがそうであったように、始まりは公道レースだった。ロードレース世界選手権の初開催は、1976年。1988年にフェラーリに買収され、改修された。
ムジェロ・サーキットはファンが日がな一日、エンジンを吹かしている。バイクでやって来た人たちだろうと思ったら、聞いた話ではチェーンソーのエンジンだけをわざわざ持ってきて音を響かせている人もいるらしい。この“騒音”も、もはやムジェロの名物になっている。

さらには、イタリア人ファンが情熱的だ。2022年、2023年チャンピオンであり、ドゥカティのファクトリーライダーであるイタリア人、フランチェスコ・バニャイアの人気はすさまじく、金曜日の走行から姿が見えるたびに「ペコー!」というバニャイアの愛称が飛び交っている。
自国のライダーに熱い声援を送るのは自然に思えるが、その「色」は国によって少しずつ違う。フランスGPではフランス人ライダーのファビオ・クアルタラロとヨハン・ザルコにとてもたくさんの声援が送られていて、やはり金曜日から名前を呼び、拍手が起こっていたけれど、面白いもので、その色合いはどこか異なっているのである。イタリアのムジェロのファンは、とにかく情熱的だ。大きな愛を懸命に伝えようとしているようで、野太い声援にもほほえましさを感じる。
正直なところ、ムジェロ・サーキットは取材するにはアクセスがいいとは言えないサーキットの一つだと思う。サーキットの周りにあるホテルは少なく、レースウイークの料金は高い。今年はプラトという街に宿をとっていたのだが、片道45km、往復90kmを走って毎日サーキットに通っていた。
けれど、山に囲まれた風景が美しい。山の向こうに響くエンジン音や、バニャイアへの熱い熱い声援や、日曜日の決勝レース後に上がる黄色(バレンティーノ・ロッシの人気は今なお健在なのだ)と赤いスモークとは対照的に、遠くに見える風景にはのどかさがある。そんなコントラストもまた、ムジェロの魅力なのかもしれない。



