MotoGP第12戦チェコGPが、7月18日から20日にかけてチェコのブルノ・サーキットで行われ、マルク・マルケス(ドゥカティ)がスプリントレース、決勝レースを制した。この結果、マルケスはランキング2番手のアレックス・マルケス(ドゥカティ)に対し、120ポイントの差を築き、チャンピオンシップを大きくリードして前半戦を終えている。

5年ぶりのチェコGPもマルク・マルケスが席巻

2020年以来5年ぶりに開催されたチェコGPもまた、マルク・マルケス(ドゥカティ)が席巻した週末となった。

ブルノ・サーキットは路面が再舗装され、5年ぶりの開催ということで各メーカー、チームともにデータが不足している状況だった。しかし──いや、だからこそ、マルケスの強さが際立った。

予選Q2こそ、転倒によってポールポジションをチームメイトのフランチェスコ・バニャイア(ドゥカティ)に譲ったが、スプリントレースは序盤からトップを快走した。5周目には2番手を走っていたペドロ・アコスタ(KTM)にトップを明け渡したものの、これは戦略的なものだった。

マルケスは4周目の時点で「タイヤの空気圧が規定に達していない」と気付いた。MotoGPクラスのスプリントレースおよび決勝レースでは、タイヤの最低空気圧規定がある。スプリントレースの場合、30%の周回数で定められた最低空気圧を遵守しなければならない。これを逸脱すると、結果に8秒加算のタイムペナルティとなる。

ペナルティになる可能性があると知ったマルケスは、アコスタにトップを譲ってフロントタイヤの空気圧を上げることにした、というわけだ。そして、ペナルティを受ける心配がなくなった残り2周でアコスタをかわし、優勝したのである。

レース後、マルケスと小椋藍(アプリリア)、アレックス・リンス(ヤマハ)に対し「タイヤの空気圧について調査中」とされたが、その後、これはレースディレクションの警告システムにおける最低空気圧設定の誤りであったことが判明した。マルケスの優勝はもちろん、小椋もリンスも、ゴールした順位が最終結果となった。

決勝レースでは、序盤、マルコ・ベツェッキ(アプリリア)にトップを譲った。深いブレーキングと高いコーナリングスピードで走るベツェッキを見たマルケスは、「いったん彼の後ろで様子を見よう」と考えた。

「そして、彼のタイヤが落ちてきたと感じたときに仕掛けたんだ。そこからは自分の走りができるようになる。いつもそうだけど、レース後半の方がどんどん調子がよくなってくるんだ。その後は、ギャップを見ながらマネージメントしたよ」

一時トップを走ったベツェッキは、マルケスが強いと知っていた。「だから、彼に抜かれたときもパニックにはならなかった。ついていこうとしたけれど差が広がっていったのがわかって、自分のリズムを崩さないように走った」と語っている。ライバルも、今のマルケスを相手に戦うことは難しいとわかっていたのだ。

マルケスはこの日、1分53秒台のラップタイムを連発したただ一人のライダーだった。驚異的なレースペースを刻んだマルケスは、2秒のアドバンテージを維持して優勝した。この勝利により、マルケスはドゥカティライダーとして、最高峰クラスで初めて5連勝を達成した。

ランキング2番手につける弟のアレックス・マルケス(ドゥカティ)はスプリントレースのスタートで失敗し、17位。決勝レースでは転倒リタイアで、ノーポイントだった。この結果、チャンピオンシップのランキングトップであるマルケスは、2番手のアレックスに対し、120ポイント差をつけてシーズン前半戦を締めくくった。残り10戦あるとはいえ、マルケスの現状の勢いを考えれば、大きなポイント差である。

まさに5年前の2020年7月19日、マルケスはスペインGPの決勝レースで転倒を喫し、右上腕骨を骨折した。ここから、マルケスの悪夢が始まった。2020年シーズンを丸ごと棒に振り、その後もパフォーマンスを取り戻せないまま、4度の手術を受けた。そして、2023年をもって長く在籍してきたホンダを離れ、もう一度チャンピオンになるためにドゥカティに移籍した。あの転倒からまさに5年後の今、マルケスはチャンピオンシップリーダーに戻ってきた。

「去年がすごく大事な年だった。グレシーニ・チーム(※2024年に所属したドゥカティのサテライトチーム)が、自分に戻ってくるチャンスをくれたんだ。すごくいい感じで走れた……完璧ってわけじゃなかったけどね。一歩ずつ、自信をどんどん取り戻していったんだ」

マルケスは、現状に至った要因について、そう説明していた。

シーズン後半戦は、8月のオーストリアGPから始まる。マルケスは、シーズン前半戦と同じように、7度目の最高峰クラスチャンピオン獲得に向けて突き進むだろう。

ポール・トゥ・ウインではなかったとはいえ、結局のところマルケスがコントロールしたレースだった©MotoGP.com
「この5年でチャンピオン争いのチャンスを失ったが、人としては成長できたと思う」とマルケス©Eri Ito