ダカールスペックのストリート用オフロードモデル450RALLY で話題になったKOVEが次なる矢を放った。それが800X RALLYである。
オフロード性能の高さでメディア、SNSを賑わせているのだが、今回はそんなKOVE800X RALLYを舗装路メインでインプレッションしてみることにしよう。
KOVE・800Xラリー……164万8000円

KOVE MOTOは中国のメーカーだ。2021年には販売台数が20000台を超え、年間の販売成長率は40%にもなる。研究開発への投資を積極的に続け、現在では中国で4番目の規模を誇るメーカーとなった。

KOVEは450RALLYで一気にその名前が世界中に広まることになった。ダカールラリーに参戦できるスペックを持った市販車だというのだからそれも当然。競争の激しい250モトクロスバイクのカテゴリーにもMX250をリリースし、スポーツバイクでは2025年4月には、ワールドスーパースポーツ300にて、KOVE 321RR-Sがヤマハ、カワサキ、KTMを打ち破って優勝を遂げるなど、最近色々な話題を振りまいているメーカーなのである。

そんなKOVEが送り込んできた意欲作が800X RALLY。ビッグオフはオンロードの走りにある程度のウエイトを置いているものが多いのだが、800X RALLYはオフ全振りだと言う。

車重は半乾燥で176kgと非常に軽く、サスストロークはフロント270mm、リア250mmを誇る。細かい部分の作り込みにも妥協がなく質感も高い。所有する喜びも感じさせてくれるマシンである。

タンデムステップを配した一人乗り専用設計とするなど実に尖った設計のマシンである。

ストリートでも軽さが光る

「オフ全振り」ということで、今回の試乗に関しては若干緊張した部分もあった。モトクロッサーバリにガチガチなフィーリングなのではないかと予想していたからだ。ところがこれは良い意味で裏切られることになった。緊張を和らげてくれた最大の要因は車重である。
マシンを引き起こした瞬間に感じるのは車体がとても軽いこと。押し引きしたときもビッグオフローダーとは思えないほど簡単に動かすことができる。車格や排気量からイメージしていたよりも2割くらい軽い感じだ。しかも前後のサスを押してみると動きがとてもスムーズ。走り出す前から乗りやすさが伝わってくるのである。
並列2気筒799ccエンジンはとてもなめらかで扱いやすい。低回転から全域でフラットなトルクを発生しレブリミットの9000rpmまできれいに回ってくれる。同クラスのライバルと比較しても遜色のないパワーを発揮しているし、非常に完成された感じを受ける。
スポーツモードにすると、低回転、スロットル低回度のレスポンスが鋭くなるので、ストリートで普通に走っている時はギクシャクしてしまうけれど、オフを元気に走りたい時はこれくらいリニアにパワーが出る特性のほうが走りやすいはずだ。
エコモードにするとスロットル開閉でのレスポンスがずいぶんマイルドになって扱いやすくなる。高回転でのパワーも下がるけれど、通常走るレベルであれば必要にして十分なパワーがある。ストリートでツーリングをする場合ならエコモードが疲れにくい。
オンロードのハンドリングは非常に安定感が高い。ステアリングに入力してやると車体がゆっくりとバンクしていき、コーナーリング中も一度決めたラインをトレースしようとする。
こういう特性だから、切り返す時などは内側のハンドルを手前に引くような操舵を意識して強めにやらないといけない。軽快なヒラヒラ感はないが、荒れた路面ではこの特性のありがたさを感じる場面も多いことだろう。
コーナーでバンクさせていくと、途中から若干フィーリングが変化するのは、オフロードに特化したタイヤのブロックが大きいため。タイヤの断面形状がなだらかなRになっていないからだ。オンロードでのグリップはそれほど高くないはずだが、今回の試乗ではコーナーを攻めるようなことはしていないので特にグリップ不足は感じなかった。普通に走るのであればまったく問題レベルだが、もしオンロードをメインで走るのであれば、タイヤを変えるだけでかなり印象が変わるはずだ。
意外だったのはオンロードでの乗り心地の良さだ。前後サスもよく動くし、シートも柔らかくて座り心地が良い。疲れが少なかったのは振動対策がしっかりと行われていることにも関係している。3000rpmまではほぼ振動を感じず、4000rpmくらいからタンクとハンドルに微振動が出るけれども、気になるようなレベルではない。スクリーンの防風効果も高いので高速道路などを使ったツーリングでも疲れは少ないだろう。
オンロードを走っていて気になったのは、スロットルをオフにしたときのエンブレが強めに利くこと。これもオフロードでの走行を考えたセッティングなのだろうが、ストリートでノンビリ走ろうとしたときは若干せわしなく感じてしまう。モードを変えてもこの点は変わらなかったので、例えばエコモードにしたときにエンブレが弱くなるような設定になればと思った。オプロードで滑りやすい路面を走るときもエンブレがおだやかになるような設定があれば便利だと思うのだが。
連続して走行していると左足が少し熱風で暖かくなってくるが試乗時は特に気になるレベルにはならなかった。酷暑の中で長距離を走ったときにどうなるかが気になるところだ。
林道でも素性の良さが伝わってくる

オフロードのテストは比較的フラットな林道で行った。このサイズのオフロードバイクのような敷居の高さはない。軽い上に車体のバランスが良いから、路面の良くない場所でも不安感が全くない。タイヤも非常にグリップが良く、思い切ってスロットルを開けることができるし、リアタイヤが流れ出しても適度なところで踏ん張ってくれる。

試乗した林道に大きなギャップなどはなかったが、それでもサスペンションの動きが上質でスムーズであることは伝わってくる。エンジン特性もトレッキング的な走りに対応することもできて、ペースを上げたときは十分にパワフル。過敏さがないのでどんな走り方をしても扱いやすい。
ブレーキは初期のタッチがあまり鋭くないけれど、そこから握ればジワっとリニアに効力を増していく性格。オフロードの使用を考えたセッティングだ。
気になったのはハンドルの切れ角が少なかったこと。オンロードでハンドルをフルロックさせてUターンする場合、片側1車線の道路を端から端まで目一杯使っても曲がりきれないことがあった。林道では道幅が半分以下だからUターンする場合は切り返す必要がある。足場が悪い路面のUターンでは時間がかかってしまうこともあった。
今回、オフロードコースなどは走っていないが、モトクロスコースで試乗した知人に話を聞けば、ビックオフローダーとは思えないペースで走ることができたと言う。色々な人に話を聞くに、このクラスで最もオフロード性能が高いことは間違いなさそうだ。
しかし、仮にオフロードを走る頻度が少ないとしてもこの軽さとエンジンのスムーズさやマシンの作り込みは魅力だと思う。実際に街から峠、林道まで走ってみて、とても快適で楽しいマシンだった。
マシンの紹介から少し話がずれるが、KOVEに関して気になるのはカリスマ性を持った創業者のZhang Xue(張雪)が2024年10月で退任したことだ。
会社が大きくなったことで特定の判断ができなくなったことや投資家への責任、会社の価値観の変化などが理由だとSNSの動画で語り、自らのブランドZhang Xue Motorcyclesを新たに立ち上げたのである。すでにZXJC ZX-500RRという4気筒高性能スポーツバイクを発表して大きな話題になった。Zhang XueはKOVEの大株主として今後も関係を続け、KOVEはこれまでの方向性から何も変わらないと発表されているが、今後KOVEとZhang Xue Motorcyclesがどうなっていくのか、とても気になるところだ。
ポジション&足つき(身長178cm 体重75kg)

ポジションは無理がなくて自然。跨ると車体がスリムであることが分かる。シートは柔らかめで座り心地は良好。長距離を走っても疲れは少ない。

前後サスペンションのストロークが長めに取られているが、シート位置が低いので足つき性は想像したほど悪くない。両足をつくとかかとがわずかに浮く程度。しかも車体が軽いことに加えてバランスが良いので車体を支えるのに苦労はしない。取り回しでは数値以上に軽く感じる。


ディテール解説















主要諸元
