
「いつまでもきれいな愛車に乗っていたい」と思うのがオートバイ乗り。きちんと手入れしていることで、ピカピカの状態を保っている半世紀前の車両も少なくない。「でも、メンテが面倒なんでしょ?」いやいや、オートバイを綺麗にしておくのはちょっとしたコツなのだ。
購入直後はマメに洗車をしている人も、時間と共にそれが面倒になってくる。だが、いつまでも愛車の美しさを保つには、最低でも月に1度の洗車は必要だ。洗車は外観を良好に保てるだけでなく、愛車のコンディションを把握しておくためにも大切なのである。
ところで、「洗車は洗剤をスポンジに付けて擦り、水で流せばいい」と思っていないだろうか。実はこれは間違いだ。間違った洗車方法を実践していると、愛車は綺麗になるどころか、かえって劣化してしまう。まず正しい洗車をすることが、オートバイの良好な状態を保つ基本となる。
洗車を始める前の準備だが、以下のアイテムを揃えたい。
・自動車用洗剤
・洗車スポンジ
・筆型洗車ブラシ各種
・拭き上げクロス(人工セーム)
・電動ブロア
・乾いたウェス数枚


まず洗剤。食器洗剤でも流用できるが、できれば自動車専用品を使いたい。自動車専用洗剤は、コーティング剤やワックスまで落とすことがないからだ。最近は洗車をすればワックス効果が得られるものがあるが、バイクの場合はエンジンの奥などワックスがかけられない箇所もあるので、通常の自動車用洗剤と+αで用意しておくといいだろう。
洗車スポンジだが、実はそこまで使用頻度がない。使うのは、タンクとシート、ホイールを洗う時くらい。多くの箇所は筆型洗車ブラシを使う。筆型洗車ブラシは硬さが違うものが数本1セット売っていることが多いので、これを購入すればOKだ。
拭き上げクロスは、できれば「プラセーム」と呼ばれるタイプのものがいい。マイクロファイバーでもいいが、プラセームの方が表面の汚れまで拭き取ることができ、乾燥後の輝きも違うからだ。
オートバイ洗車で最も欲しいのが、電動ブロワーだ。庭の落ち葉などを吹き飛ばすアイテムだが、最近ではパソコンの埃を取る強力小型ブロワーが安価で売られているので、これを使うのもOKだ。エアコンプレッサーのブロワーでも問題なし。
洗車アイテムの準備ができたら、まずは「洗剤水」を作ろう。10L程度のバケツを用意して、そこに洗剤をキャップ1杯分だけ入れる。ワックス洗剤はスポンジに直接付けて使うのだが、洗車用の洗剤ではそれはNG。成分が濃すぎて、水で流しても成分がオートバイの各部に残るからだ。
実はこの残留成分が、オートバイを劣化させる要因となる。塗装面や金属部分にダメージを与えて、最悪の場合は変色にいたることもある。洗剤で汚れを落とすのではなく、洗剤に含まれる界面活性剤を使い、水で綺麗にするという考え方だ。
水には表面張力があるので、物体表面に完全に密着することが難しい。ワックス成分や油分が付いているオートバイではなおさらだ。だが、水にほんの少しの界面活性剤を加えると水の表面張力が抑えられ、車体に水が密着しやすくなるだけでなく、油分の除去も促進するのだ。

バケツに少量の洗剤を入れたら、1mくらいの高さからホースで水を勢いよく入れる。水と空気と洗剤を、よく撹拌してやるような感覚で泡立てる。大きな泡が立ったら、散水ヘッドを「シャワーモード」にして、表面(水面)に水をかける。こうすることで、泡が非常に微細になる。泡が球体なのでそれが微細だと、より細かい所にまで界面活性剤を届けることになる。使っている途中で泡が消えるので、その場合は再度作り直そう。


泡を車体に付ける前に、まず車体に十分に水をかけよう。乾いた車体に泡をいきなりつけると、ダメージを与える場合があるからだ。車体に付いた汚れを水で取るくらいの感覚で、水をケチらず使おう。ちなみに洗車をする時は、夏なら曇天時か陽光が弱まる夕方に行うのが肝心。車体が熱くなりすぎると、水や洗剤の泡がすぐ乾いてしまうからだ。
乾燥したことによって車体に付着する塩素や洗剤成分は、水で流してもなかなか落とすことができない。放置しておくと、塗装や金属に大きなダメージを与えることになるのだ。

さて、一般的に洗車は「上から下に向かって」というのがセオリーだが、洗う箇所の確認と水の乾燥ということを考えれば下から上に向かって洗った方がラク。筆者の場合は、まずタイヤ回りを洗い、その後は「サスペンション」→「エンジン」→「タンク&シート」→「ハンドル回り」を洗っている。


さて、美しい車体を保持するための洗車のコツだが、筆型ブラシを使って細部まで丁寧に洗うこと。スポンジが入らないような隙間、ネジ類、ホースなどまで洗うことで、洗車後の見た目がまるで変わってくる。
模型の塗装の技術で「スミ入れ」というのがあるが、これは凹部分に薄めた黒塗料を流すことによって、メカの経年感や締まった見た目を出す技術だ。だが、これは“汚し塗装”の1種なのである。
美しさを保っているオートバイやクルマは、スミ入れとは真逆で細部に汚れが残っておらず、全体的にフラットな輝きを放っている。どの部分も光を反射するからこそ美しく見えるのだ。
筆型ブラシだが、塗装やメッキ部分は柔らかめのブラシ、それ以外は硬めを使う。ネジの頭は、硬めブラシで突くように当てると汚れが落ちやすくなる。ホース類は、中央部は柔らかめブラシで線をなぞるように撫で、付け根部分は硬めで突くように洗っていこう。洗う箇所によって、ブラシの硬さを変えてやるのがコツだ。加えて、洗ったらすぐに水で洗い流すのも大切だ。

車体を美しく見せるのに特に重点的に洗いたい場所は、タンクの下部折り返し部分、ヘッドライト裏、フロントフォーク、ブレーキキャリパー、ブレーキディスク、ラジエターorオイルクーラー、エンジン上部&裏、リアダンパー&コイル、スイングアーム、フェンダー裏、ドライブチェーン、ホイール。

ちなみにチェーンは、専用ブラシと専用洗剤を使うといいだろう。チェーンの手入れについては後述するが、チェーンの汚れを十分に落とすことで愛車の見た目が大きく変わってくる。
各部を洗ったら、最後に車体全体を十分に洗い流そう。特にヘッドライトやメーターの裏、エンジンの奥、リアサスペンションのピポッド付近、フェンダーの裏をよく洗い流そう。






それが終わったら、間髪を入れずにブロワーで水を吹き飛ばす。ブロワーで吹く場合は、上から下、前から後ろで作業するのが効率的だ。表面的な水滴はもちろんのこと、隙間に入り込んだ水も風で十分除去しよう。水気を残すと、乾燥して塩素が白く付着する。これを放置しておくと、固まって除去するのが困難になるから注意だ。
ブロワーで十分に水を吹き飛ばしたら、必ず拭き取りクロスで仕上げよう。風で吹き飛ばしただけと、クロスで仕上げた場合では、輝きがまるで違ってくる。というのも、洗車水でよく洗っても、実は車体表面に薄い汚れの膜が残っていることが多いのだ。これを拭き取りクロスで除去するわけだ。

拭き取りをしながら、車体各部の状態を再チェックする。油脂類の漏れは洗車時に気づくと思うが、傷は拭き取る時でないと気づかないことが多い。傷はキズ取りワックスやコンパウンドを使って除去しよう。


ここで再びポイントだが、ワックス類を使用する場合はとにかく量を少なく、そして十分に拭き取ることが大切だ。車体に残ったワックス類は時間と共に劣化して、むしろ輝きを失う要因となる。
ちなみに筆者はできるだけワックスを使わないようにしている。ワックスを使わずとも、正しい洗車をしていれば十分に輝くし、水も十分に弾くからだ。
チェーンだが、専用の洗剤とブラシで十分に洗って乾燥させた後に、パーツクリーナーやチェーンクリーナーを吹き付けてしばらく放置する。その後、乾いたウェスでチェーンを挟み、タイヤを回しながら汚れを拭き取る。


よくチェーンルブをチェーン全体に吹き付ける人がいるが、これはむしろ汚れを呼ぶだけなのでNG。コマとコマの間に少量吹いていき、行き渡ったら綺麗なウェスで再度拭き取ろう。これで可動部だけで油分が残り、飛び散りやチェーン自体の汚れを大幅に抑えることができる。
ミラーやマフラー、エンジンの一部などメッキ塗装が施されている部分は、乾燥した綺麗なウェスで磨くように拭くと輝きがよくなる。エンジンやマフラーは、耐熱ワックスを少量使って拭き上げると経年劣化を抑えることができるだろう。
ちなみに写真のCB1300SFは新車から3年経過していて屋外カバー保管だが、1か月に1度の洗車でこの状態を保持している。高価なケミカルを使わずとも、ちょっとしたコツで洗車をすれば、愛車を美しく保つことは可能だ。
