連載

GENROQ フェラーリ名鑑

Dino Series

V12以外はフェラーリにあらず

2.0リッターV6エンジンを搭載し、モータースポーツシーンで活躍したディーノ 206 S。

これまでにも解説してきたとおり、フェラーリの各車に搭載されるエンジンといえば、1970年代を迎えるまでのスポーツカーレースでは、500 モンディアールや750 モンツァ、860 モンツァ、500 TR=テスタロッサなど、直列4気筒モデルを除けば他はすべてV型12気筒エンジンを搭載するものばかりだった(バンク角は60度、65度、180度などさまざまなバリエーションがあったが)。

すなわちV型12気筒エンジンは、フェラーリの象徴的なエンジンであり、逆に考えればV型12気筒エンジンを持たないモデルにフェラーリのエンブレムを与えることは、エンツォ・フェラーリにとっても、またカスタマーにとっても抵抗感のあることだったともいえる。

そこで最初はレースの世界で、そして後にプロダクションモデルの世界に進出してきたのが「ディーノ」というブランドだった。ディーノもまた、1950年代終盤からレースに積極的に参戦し、V型12気筒のほかにV型6気筒エンジンやV型8気筒エンジンを搭載するモデルで1950年代から1960年代のレースシーンを華やかに彩るが、その活躍は同時にディーノという、よりコンパクトで低価格なロードカーをフェラーリに求める声を高めることになった。

ディーノのボディがスチール製に変更された理由

1972年式ディーノ 246 GT。「ディーノ」とはエンツォ・フェラーリの子息にして夭折したアルフレード・ディーノの愛称から採られている。

ディーノ・ブランドで発売された最初のロードモデルである206 GT、それに続く246 GT/GTSはすでに紹介しているが、ここでさらに解説を付け加える必要があるのなら、206でアルミニウム製だったボディがスチール製へと変わった理由になるだろうか。

その理由はもちろん、生産性の向上にある。それはフィアットによるフェラーリの生産車部門の買収が大きな影響力を及ぼしたものだった。スチールのボディパネルをプレス成型するのは、大量生産には最も適した手法ともいえるが、その反面スポーツカーには大きなハンデとなる重量増を生み出してしまう。そこでフェラーリは、ミッドに搭載されるV型6気筒エンジンを2419ccに拡大。最高出力は195PSとされた。

それによって加速性能は前作の206 GTと同等のものとする目標を立てたのだった。またこのエンジンは、ランチア ストラトスやフィアット ディーノ クーペ&スパイダーにも供給されたが、スペックには差別化が図られており、ランチア用は190PS、フィアット用は180PSとなっている。

ベルトーネによる2+2ミッドシップ

1973年式ディーノ 308 GT/4。3.0リッターV8エンジンを搭載した2+2のシートレイアウトをもつ。デザインはベルトーネが担当。

1973年になると、ディーノ・ブランドから「308 GT/4」のネーミングを掲げたニューモデルが誕生する。直線を基調としたボディスタイルが特徴的なこのモデルは、バンク角が90度のV型8気筒エンジンをミッドシップする2+2のGT。それが初公開された同年のパリ・サロンで見る者をまず驚かせたのは、それがピニンファリーナではなく、ベルトーネによってデザインされたモデルだったということだ。

ミッドに搭載されるエンジンは2926ccのV型8気筒。バンク角は90度とされ、これはその後のフェラーリにとって伝統的な設定となる。また車名に掲げられる「308」は気筒あたりの排気量ではなく、3000ccのV型8気筒モデルであることを意味している。ちなみにこの308 GT/4と同様のコンセプトをもつモデルは、ランボルギーニからウラッコとしてすでに発売されており、このウラッコと308 GT/4とは常にライバル関係にあった。だがランボルギーニの経営はこの時期思わしくなく、年間2000台というデビュー当初の想定を大きく下回る状況だった。

そしてディーノからフェラーリへ

1975年式ディーノ 208 GT/4。イタリアの税制に対応して308 GT/4の排気量を2.0リッターにデチューン。ディーノ・ブランドとしては最後のモデルとなる。

そして、1975年になるとイタリア市場専売モデルとして「208 GT/4」を追加(イタリアでは2.0リッター以上の車両には高額な税金が課せられたため)。1976年にはディーノからフェラーリにブランドを変更。1980年までトータルで3600台強を販売した。なおディーノ・ブランドとしては、このモデルを最後に今日に至るまでニューモデルを出していない。

SPECIFICATIONS

ディーノ 206 S

年式:1966年
エンジン:65度V型6気筒DOHC(2バルブ)
排気量:1986cc
最高出力:162kW(220hp)/9000rpm
乾燥重量:580kg
最高速度:270km/h

ディーノ 246 GT

年式:1969年
エンジン:65度V型6気筒DOHC(2バルブ)
排気量:2419cc
最高出力:143kW(195hp)/7600rpm
乾燥重量:1080kg
最高速度:245km/h

ディーノ 308 GT/4

年式:1973年
エンジン:90度V型8気筒DOHC(2バルブ)
排気量:2926cc
最高出力:188kW(255hp)/7700rpm
乾燥重量:1150kg
最高速度:250km/h

ディーノ 208 GT/4

年式:1975年
エンジン:90度V型8気筒DOHC(2バルブ)
排気量:1990cc
最高出力:125kW(170hp)/7700rpm
乾燥重量:1150kg
最高速度:220km/h

解説/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)

フェラーリ名鑑、フェラーリ 330 P4

ル・マン24時間での屈辱、そして「ディーノ」の誕生(1966-1967)【フェラーリ名鑑:10】

プロトタイプカーレースで無敵を誇っていたフェラーリだが、フォードという強力なライバルの登場によって1966年のル・マンでは苦杯をなめる。しかし翌年のデイトナ24時間レースでは伝説的な1~3位独占を果たして雪辱を果たした。一方でフェラーリは時同じくして市販モデルの販売台数拡大を狙い、小排気量ミッドシップモデルの開発を推進し、今なお名車の呼び声高い「ディーノ」が誕生する。

連載 GENROQ フェラーリ名鑑

開発プロジェクトは、スパイダーも含めてベースの「SF90」と同時にスタートしたという「SF90XX」。
名鑑 2024.03.16

新時代「XX」として登場した「SF90XXストラダーレ」「SF90XXスパイダー」が持つ意味【フェラーリ名鑑:39】

全長4973×全幅2028×全高1589mm、ホイールベース3018mmという堂々たるサイズを誇る「プロサングエ」。
プレスリリース 2023.10.22

これまでにないフェラーリとして誕生した「プロサングエ」の秘めた実力【フェラーリ名鑑:38】

最高出力663PSのV型6気筒ツインターボエンジンにエレクトリック・モーターと8速DCTを組み合わせる。システム最高出力は830PSを発揮。
名鑑 2023.10.15

新世代フェラーリを印象付けたPHEVミッドシップ「296 GTB」「296 GTS」【フェラーリ名鑑:37】

「デイトナSP3」のボディサイズは全長4686、全幅2050、全高1142㎜で、ホイールベースは2651㎜。外観から感じるより、はるかにコンパクトだ。
名鑑 2023.10.08

レーシング・フェラーリのような「デイトナSP3」とは?「ICONAシリーズ第3弾の狙い」【フェラーリ名鑑:36】

搭載されるエンジンは3.9リッターV型8気筒ツインターボ。最高出力はポルトフィーノから20PS向上し620PSとなり、トランスミッションが7速から8速DCTに変更された。
名鑑 2023.09.10

日常使えるフェラーリとなった2+2クーペ・カブリオレ「ポルトフィーノM」【フェラーリ名鑑:35】

フェラーリが大きくデザインコンセプトを変更したSF90ストラダーレのエクステリア。
名鑑 2023.09.06

フェラーリに訪れた電動化新時代を告げる「SF90ストラダーレ」「SF90スパイダー」【フェラーリ名鑑:34】