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CBR600RRに試乗した理由
ホンダの600ccスーパースポーツがCBR600RR。MotoGPなどのレース好きの筆者が、以前から気になっていたモデルだ。2003年に登場した初代モデル以来、かつてのホンダ製ワークスマシン「RC211V」をはじめ、現在の「RC213V」など、その時々の最先端レーサーが培った技術を投入したほか、スタイリングも随所に踏襲。まさに1980年代や1990年代に一斉を風靡した、レーサーレプリカの現代版といえるモデルだからだ。
もちろん、ホンダ車であれば、フラッグシップの1000ccマシン「CBR1000RR-Rファイヤーブレード/SP」もある。だが、こちらは最高出力218PSと超ハイパワー。オジサンライダーの筆者では扱いきれる自身がないし、価格(税込)も248万6000円〜284万9000円とかなり高価だ。
一方のCBR600RRであれば、最高出力は121PSで、価格(税込)は157万3000円〜160万6000円。扱いやすさや筆者のお財布的に現実的なモデルであることで、所有してみたいバイクの1台だといえる。
ちなみに、今回試乗した2024年モデルのCBR600RRは、2020年に登場した4代目をベースに、仕様を一部変更している。車体色では、「グランプリレッド」のグラフィックや配色を変えたほか、新色として「マットバリスティックブラックメタリック」を追加。また、最新の平成32年(令和2年)排出ガス規制に適合させたほか、従来はオプションだったクイックシフターを標準装備している。
なお、このモデルのクイックシフターは、アップとダウン両方のシフトチェンジに対応するほか、アップのみやダウンのみ、さらにシフトペダルの可動する重さも変更が可能。詳しくは後述するが、ライディングモードと共に、さまざまな設定を試してみた。
ライディングモードは3タイプ+αを設定可能
まずは、CBR600RRのライディングモード。このモデルには、いわゆる電子制御スロットルのスロットルバイワイヤシステムのほか、ボッシュ製6軸IMU(バイクの動きを計測する各種センサーの統合ユニット)を搭載することで、さまざまな電子制御を可能とする。
特に、IMUは、車体の角速度、加速度を検出し、独自のアルゴリズムによる車体姿勢角演算を1秒間に100回というスピードで実施。導き出した車体姿勢情報を「HSTC(ホンダ セレクタブル トルク コントロール)」やABSなどとマッチングさせることで、緻密な車体コントロールを実現しているという。
ちなみに、HSTCとは、いわゆるトラクションコントロールのこと。後輪のスリップなどを検知し、走行状況に応じ出力を最適に制御するシステムで、このモデルでは9段階+オフ(機能停止)の設定変更が可能だ。
また、スロットル操作に対する出力特性を任意に選択できる5段階の「パワーセレクター」も搭載。
加えて、加速時に前輪が浮き上がるウイリー挙動を緩和する「ウイリー挙動緩和制御」も3段階+オフ(機能停止)で設定の変更が可能だ。
さらに、スロットルをもどし減速する際に発生するエンジンブレーキの強さを3段階で選択できる「セレクタブルエンジンブレーキ」も採用している。
CBR600RRのライディングモードは、これら各制御のレベルをマッチングさせたもので、走行状況やライダーの好みに応じ走行フィーリングの変更を選択できる。モードには、
・サーキットなどを速く走るための「モード1」
・ワインディングなどを楽しむための「モード2」
・街中や雨天時などで安心感の高い走りができる「モード3」
を用意。これらは、各制御のレベル値をあらかじめ設定したものなので、一々それぞれを細かく設定する手間が不要。また、ライダーが組み合わせを任意に設定できる「ユーザーモード」もあり、2タイプのオリジナルモードを登録できる。
そして、各ライディングモードは、多様な情報を表示できる「フルカラーTFT液晶メーター(マルチインフォメーションディスプレイ)」で確認することができる。ディスプレイ左下にならんだ「P(パワーセレクター)」「T(HSTC)」「W(ウイリー挙動緩和制御)」「EB(セレクタブルエンジンブレーキ)」がそれだ。
たとえば、事前設定された3つのモードでは、各設定は以下の通りになる。
【モード1(速く走る)】
P=1(最も高出力、クイックなスロットルレスポンス)、T=2(制御介入は小)、W=1(制御介入は小)、EB=3(エンジンブレーキ弱め)
【モード2(楽しく走る)】
P=2(2番目に高出力、リニアなスロットルレスポンス)、T=5(制御介入は中)、W=2(制御介入は中)、EB=3(エンジンブレーキ弱め)
【モード3(安心して走る)】
P=5(出力を最も制限、スムーズなスロットルレスポンス)、T=8(制御介入は大)、W=3(制御介入は最大)、EB=1(エンジンブレーキ強め)
これらのセレクトは、メーターでライディングモードが選択されている時に変更可能だ。ライディングモードは、左ハンドルにある「MODE(モード)」ボタンを押すことで選択できるほか、ボタンの操作が10秒間ない場合もライディングモードになる。選択時は、モード画面が黒地に白文字となっているので、視覚的にも一発で分かる。
各モードは、ライディングモード選択時に、同じく左ハンドルにある「SEL▲(アップ)」「SEL▼(ダウン)」のボタンを押せば切り替えできる。バイクの停車時はもちろん、走行中でもアクセルを閉じていれば操作可能だ。
ちなみに、好みの設定ができるユーザーモードは、「SEL▲(アップ)」か「SEL▼(ダウン)」のボタンで「USER 1」か「「USER 2」を選択。その後、「MODE(モード)」ボタンを長押しすると「P」の値を変更可能で、再度「MODE(モード)」ボタンを押せば決定。続いて「T」→「W」→「EB」の順で同じ操作を行えば、独自の設定に変更することができる。
モード1では121PSを安心して堪能できる
まさに「案ずるより産むが易し」。実際にやってみると、意外に簡単だ。今回は、CBR600RRの取り扱い説明書(オーナーズマニュアル)を見ながら操作したが、適当にボタンを押して何度か試してみても、なんとかできたかもしれない。
各ライディングモードの設定を覚えたところで、実際に乗ってみた。今回は、主に、高速道路を使って法定速度の範囲内でテストした。
まず、最も速い設定となるモード1。SAの合流車線から本線へ向かう加速では、599cc・水冷4気筒エンジンがかなりシャープに吹け上がる。特に、6000rpm付近からパワーがモリモリと発生する感じで、レッドゾーンの15000rpmまで一気に回転が上がる感じだ。
さすが、車両重量193kgという軽い車体に、最高出力121PSものハイパワーなパワートレインを搭載しているだけある。特に、このモード1では、パワーセレクトの「P」値が最大の1だから、まさにCBR600RRのポテンシャルをフルに引き出しているといえる。
しかも、かなりアクセルをワイドに開けても、フロントが浮き上がる感じや、後輪が空転するような感じもない。また、アクセルを戻した際のエンジンブレーキの効きも、あまり強い感じがせず、前後ブレーキを使って思い通りの減速ができた。
次はモード2。パワーセレクトの「P」値が2番目に高出力になる設定のためか、6000rpm以上でグンッと加速するのは同じだが、モード1と比べ、パワーの出方がややマイルドになる感じだ。
また、トラクションコントロールのHSTCを制御する「T」、ウイリー挙動を制御する「W」の値も、モード1より制御の介入度合いが大きいぶん(セレクタブルエンジンブレーキ「EB」は同じ値)、車体がより安定しているように感じられた。
そして、モード3。パワーセレクトの「P」値が最も少ない5になっているためか、モード1や2で感じた6000rpm以上でのモリモリとしたパワー感がなくなり、高回転域までフラットにパワーが出てくる特性となった。
また、トラクションコントロールの「T」やウイリー挙動を制御する「W」、エンジンブレーキの強さを変えられる「EB」の各値も、3モード中で最も大きくなっている。特に、アクセルを戻したときに発生するエンジンブレーキは、明らかにモード1や2より強く感じる。
例えば、雨天時など、滑りやすい路面で減速する際にモード3にすれば、前後ブレーキをあまり強く掛けずに減速が可能だろう。ブレーキレーバーを強く掛けすぎて前輪がスリップする、いわゆる「握りゴケ」の心配も少ないことで、より安心感がアップするといえる。
クイックシフターも細かい設定ができる
新型CBR600RRでは、前述の通り、標準装備されたクイックシフターも、さまざまな設定変更が可能だ。「アップ/ダウン」「アップのみ」「ダウンのみ」「機能オフ(通常のクラッチレバーを使ったシフト操作)」といった4タイプが選べる。また、アップ時とダウン時それぞれのシフトペダルの重さも変えられる。
設定は、まず、左ハンドルにある「MODE(モード)」ボタンと一緒に、「SEL▲(アップ)」または「SEL▼(ダウン)」ボタンのいずれかを長押し。設定のメインメニューが表示されたら、「SEL▲(アップ)」または「SEL▼(ダウン)」ボタンを押して「FUNCTION(ファンクション)」を選択し、「MODE(モード)」ボタンで決定。次に、同じく「SEL▲(アップ)」または「SEL▼(ダウン)」ボタンで「QUICK SHIFTER(クイックシフター)」を選択し、「MODE(モード)」ボタンを押せば設定画面が出てくる。
クイックシフターの設定画面で、シフトアップ機能のオンかオフ、シフトダウン機能のオンかオフを選ぶ。両方をオンにすれば、アップとダウンの両方が作動、どちらかをオンで、片方をオフにすれば、オフにした機能ではクラッチ操作が必要となる。また、両方ともオフにすれば、アップ/ダウンともにクラッチレバーの操作が必要だ。
また、シフトアップ機能とシフトダウン機能それぞれの作動時に、シフトペダルの重さの変更も変更できる。選択できるのは「1=重い」「2=中間」「3=軽い」の3タイプだ。
これら設定も全て試してみたが、渋滞路もある公道走行では、クイックシフター機能はアップ/ダウンの両方が作動した方が、クラッチレバーを操作する頻度が減るため、疲労度はより少なくなるだろう。
また、シフトペダルの重さも、クイックシフターのアップ/ダウンを瞬時に行うなら、アップ側・ダウン側ともに2(中間)か3(軽い)の設定をした方が、筆者的には楽だった。
このあたりは、ライダーの好みや乗り方などによっても違うだろうが、選択肢が広いことは好印象。より細かな設定ができることで、幅広いニーズに対応しているといえる。
ちなみに、新型CBR600RRは、ほかにも、TFT液晶メーターを、通常の「ストリートモード」と、サーキット走行で細かなタイムやデータなどを記録できる「サーキットモード」に切り替えることができる。
ストリートモードからサーキットモードへの切り替えは、左ハンドル外側にある「LAP(ラップ)」ボタンを押すだけで簡単。特に、メーター中央部に出現するラップタイマーは、周回タイムを計る場合にとても便利だ。
走行中に「LAP(ラップ)」ボタンを押せば計測が開始し、再び押せばタイムを記録。また、先述した設定モードから「LAP TIME(ラップタイム)」画面を選択すれば、記録した多様なラップタイムデータを呼び出すこともできる。
データには、ラップタイムに加え、最高速、最高エンジン回転数、最高水温、最大加速G、最大減速G、左最大バンク角および右最大バンク角を用意。走行中のタイムだけでなく、車両情報などのデータ録りが簡単にできることも、サーキットのスポーツ走行やレースをやっているライダーにとっては有り難い機能だといえよう。
このように、さまざまな電子制御システムはもちろん、サーキットなどで役立つ便利な機能を、可能な限り分かりやすく操作できるように作られているのがCBR600RRだ。もちろん、1000ccスーパースポーツや高級ツアラーなどと比べると、まだまだ機能は少ない方だろう。だが、アナログ系ライダーで、電子制御システムにあまり馴染みのない筆者にとっては、十分に最新の「電脳バイク」だと実感した。
CBR600RR・主要諸元
車名・型式:ホンダ・8BL-PC40 全長×全幅×全高(mm):2,030×685×1,140 軸距(mm):1,370 最低地上高(mm)★:125 シート高(mm)★:820 車両重量(kg):193 乗車定員(人):2 燃料消費率(※2)(km/L): 国土交通省届出値 定地燃費値※3(km/h)…25.5(60)<2名乗車時> WMTCモード値★(クラス)(※4)…18.5(クラス3-2)<1名乗> 最小回転半径(m):3.2 エンジン型式・種類:PC40E・水冷 4ストローク DOHC 4バルブ 直列4気筒 総排気量(㎤):599 内径×行程(mm):67.0×42.5 圧縮比★:12.2 最高出力(kW[PS]/rpm):89[121]/14,250 最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm):63[6.4]/11,500 燃料供給装置形式:電子式<電子制御燃料噴射装置(PGM-DSFI)> 使用燃料種類:無鉛プレミアムガソリン 始動方式★:セルフ式 点火装置形式★:フルトランジスタ式バッテリー点火 潤滑方式★:圧送飛沫併用式 燃料タンク容量(L):18 クラッチ形式★:湿式多板コイルスプリング式 変速機形式:常時噛合式6段リターン 変速比: 1速 2.615 2速 2.000 3速 1.666 4速 1.444 5速 1.304 6速 1.208 減速比(1次★/2次):2.111/2.625 キャスター角(度)★/トレール量(mm)★:24°6´/100 タイヤ:前 120/70ZR17M/C(58W)、後 180/55ZR17M/C(73W) ブレーキ形式:前 油圧式ダブルディスク、後 油圧式ディスク 懸架方式: 前 テレスコピック式(倒立サス ビッグ・ピストン・フロント・フォーク) 後 スイングアーム式(ユニットプロリンク) フレーム形式:ダイヤモンド ■道路運送車両法による型式指定申請書数値(★の項目はHonda公表諸元) ■製造事業者/本田技研工業株式会社 ※2燃料消費率は定められた試験条件のもとでの値です。お客様の使用環境(気象、渋滞など)や運転方法、車両状態(装備、仕様)や整備状態などの諸条件により異なります。 ※3定地燃費値は、車速一定で走行した実測にもとづいた燃料消費率です。 ※4WMTCモード値は、発進、加速、停止などを含んだ国際基準となっている走行モードで測定された排出ガス試験結果にもとづいた計算値です。走行モードのクラスは排気量と最高速度によって分類されます。