【試乗記】ネオクラシックという枠に収まらない進化形モダン・スクランブラー。ファンティック「CABALLERO Scrambler 500 Deluxe」

1969年イタリアで誕生したFantic Motor(ファンティック・モーター)社。モトクロッサーやエンデューロモデル、そしてトライアルなどオフロードモデルに特化してそのブランドが、かつて小排気量エンジンを搭載したストリートモデルとしてラインナップしていたのが「CABALLERO(キャバレロ)」だ。そして2016年に復活したそのCABALLEROシリーズは、ストリートモデルとしてFanticブランドを支える存在となった。ここではその人気モデルの中から、スクランブラースタイルの特別仕様車「CABALLERO Scrambler 500 Deluxe/キャバレロ・スクランブラー500デラックス」をチェックする。

REPORT:河野正士(Tadashi Kono)
PHOTO:Motor-Fan BIKE
衣装協力:クシタニ

「CABALLERO/キャバレロ」ブランドの復活

いまでこそスクランブラーやネオクラシックというバイクのスタイルは、バイク好きのあいだで広く知られるようになったが、イタリアのFantic Motor(ファンティックモーター社/以下ファンティック)がかつて小排気量モデルとしてラインナップしていたCABALLERO(キャバレロ)ブランドを、スクランブラーモデルとして復活させた2016年当時はまだニッチな存在だった。しかし2010年代中頃は、BMWがR nineTを、ドゥカティがスクランブラーを、ヤマハがXSRをリリース。電子制御技術の発展と普及によってバイクのパフォーマンスや安全性が大きく変化し、二輪車市場全体がそのハイテク方向へとシフトしていくかと思われたときに、その対極である、原点回帰を求めるようなスクランブラーやネオクラシックというトレンドが市場に沸き起こったのだ。そしてパンデミックによって世界経済が一時停滞を余儀なくされるまで二輪市場は、バイクはもちろんヘルメットやライディングギアにいたるまで、未舗装路と舗装路の境が曖昧だった時代のバイクやそれに乗るバイカーたちが纏った、そのオーセンティックなスタイルとオーラに包まれていた。

新生CABALLEROは、そのときから土埃を纏っていた。デビュー時には125、250、500の各排気量の単気筒エンジンをラインナップし(現在250モデルはラインナップされていない)、それを「Scrambler(スクランブラー)」と「Flat Track(フラットトラック)」と名付けたキャラクターの異なる2モデルの車体に搭載。多くのネオクラシックモデルがオンロードでの走行に比重を置き、スタイルとしてのスクランブラーモデルは多く存在したが、CABALLEROシリーズはホイールサイズやサスペンションストロークにもこだわり、オフロード走行も強く意識していた。その後ラインナップに加わった「Rally500(ラリー500)」は、さらにオフロード走行に特化したディテールが採用されていたのだ。もちろんそれは、1968年のブランド創立時からモトクロスやトライアルなど、オフロードマシンの開発と販売に特化してきたファンティック・モーター社のDNAを、CABALLEROが継承してたいたからに他ならない。そして新生CABALLEROは、復活時に造り上げたコンセプトと車体の基本骨格をいまも守り続けている。

ワインディングも楽しめるスクランブラー

今回試乗した「CABALLERO スクランブラー500デラックス」は、オリジナルカラーの外装類やシートなどを採用した、「スクランブラー500」の特別バージョン。エンジンやフレーム、前後足周りは共通だ。世界選手権でも活躍するトップオフロードブランドであるファンティックがラインナップする最新の500cc単気筒エンジンと聞くと、ピックアップが速く、なおかつ強烈なパワーを持つモトクロッサーのような性格を想像するが、「スクランブラー500デラックス」は意外にも素直。低回転でも扱いやすく、街中でクルマの後についてユルユルと走るようなシチュエーションも苦にならない。もちろん、そこからアクセルを開けたときのダッシュ力は力強く、速い。そして単気筒エンジンでありながら高回転域まで伸びやかな、爽快感に溢れたエンジンだ。景色を見ながらノンビリと走りを楽しむというよりかは、ちょっと高回転を維持してスポーツしたくなる。

そう思わせるもうひとつの要因は、コンパクトな車体だ。クロモリ鋼管のメインフレームにアルミ削り出しのスイングアームピボットをセットしたハイブリッドフレームは、250ccモデル並みにコンパクトで軽量。全長/全高/全幅/ホイールベースという車体の基本サイズは、兄弟モデルである「CABALLERO スクランブラー125」と同じ。乾燥重量の差も、わずか20kgだ。

そんなパワフルなエンジンと、軽量コンパクトな車体でワインディングを走っていると、どんどん楽しくなる。フロント19インチホイールに、オンロード走行でのパフォーマンスに定評があるピレリ製スコーピオンラリーSTRという、ブロックパターンの大きなタイヤを装着していながら、コーナーリングでの安定感も高く、安心して走りに集中することができる。ある程度ペースを上げたアタリから、フロントタイヤが狙ったラインよりも少し外側をトレースするような19インチフロントホイール特有のフィーリングが顔を出すが、それでもロードスター的な走りを十分に楽しむことができる。

その昔に林道ツーリングを楽しんだ経験がある程度のオフロードスキルである筆者では、オフロードでのポテンシャルを計ることはできなかったが、それでも大雨の影響で荒れてしまったオフロードでも容易く走りきり、スタイルだけのスクランブラーモデルとの違いをハッキリと感じることができた。

100馬力や200馬力を発揮する大排気量エンジンを搭載したマシンがひしめく大型バイク市場において、排気量500ccで約40馬力を発揮するエンジンはか弱く見えるかもしれない。しかし500cc単気筒じゃなければ得られない軽快さと、それによってしか生み出せないスポーツ性に溢れている。「CABALLERO スクランブラー500デラックス」は、そんな希有な単気筒スポーツバイクだった。

ライディングポジション&足つき性(170cm/65kg)

820mmというシート高は決して高い数値ではないが、左右のサイドカバーがやや張り出しているためそれが内腿に当たり、わずかに足つき性を損なっている。ハンドルポジションやステップ位置は自然な位置にある。スクランブラー、というよりはネイキッドバイクに近いと感じた

ディテール解説

いまや欧州車にも多くの使用事例を持ち、ミドル排気量モデルの定番ブレーキシステムとなりつつあるBYBRE製ブレーキシステムをフロント周りに採用。Fホイールサイズは19インチ
Deluxe専用のブラウンのシート。タックロールなどシート表皮のデザインなどはスクランブラー500と共通
この500ccエンジンはファンティックが設計、中国のZongshenが製造を担当。軽量コンパクトで、それでいてパワフル。トコトコ走る、おっとり系単気筒エンジンとは性格が異なるが、かといって低中回転域でも扱いやすい
アップタイプの2本出しサイレンサーを採用。これによってスクランブラーらしい軽快なスタイリングに仕上がっている
リアブレーキシステムもBYBRE製。タイヤは、前後ともピレリ製スコーピオンラリーSTR。オンロードでのパフォーマンスも評判はいいが、やはりブロックタイヤ特有のコツコツ感があり、ロードノイズも多め
リアサスペンションはリンク式モノショック・システムを採用。メインフレームはクロモリ鋼管製だが、スイングアームピボットとステッププレーチオを兼ねるアルミ削り出しプレートをフレーム後端に採用
バータイプのハンドルは、ネイキッドモデル用より幅広で高めの設定だが、幅もハンドルの起ち上がりの角度も自然。丁度良いライディングポジションを作り出す。このブレース付きハンドルやブレース用バーパッドもDeluxe専用ディテール
コンパクトでシンプルなテールライト&ウインカー周り。シートエンドに「FANTIC」のロゴをデザインする
必要最低限の要素をギュッとまとめたコンパクトなメーター周り。視認性が高いとは言いがたいが、デザイン的にも、このコンパクトさによってフロント周りのすっきり感が造り上げられている
ヘッドライトはLED製。トップブリッジやアンダーブラケットは、アルミ削り出し。カスタムバイクのような迫力がある

「CABALLERO Scrambler 500 Deluxe」主要諸元

■ホイールベース 1,425mm
■シート高 820mm■車両重量 150kg
■エンジン形式 水冷4ストロークSOHC4バルブ単気筒
■総排気量 449㏄
■ボア×ストローク 94.5×64mm
■最高出力 40HP/7,500rpm
■最大トルク 43Nm/6,000rpm
■燃料供給方式 FI
■燃料タンク容量 12L
■フレーム クロームモリブデン鋼 セントラルチューブフレーム
■サスペンション(前・後) FANTIC FRSφ41mm倒立フォーク/150mmトラベル・FANTIC FRSプリロード調整可能/150mmトラベル
■変速機形式 6速リターン
■ブレーキ形式(前・後)320mmシングルディスク×BYBRE製ラジアルマウント4ピストンキャリパー・230mmシングルディスク×BYBRE製キャリパー
■タイヤ ピレリ製スコーピオンラリーSTR
■タイヤサイズ(前・後)110/80-19・140/80-17
■価格 1,300,000円(消費税込)

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著者プロフィール

河野 正士 近影

河野 正士

河野 正士/コウノ タダシ
二輪専門誌の編集スタッフとして従事した後フリーランスに。その後は様々な二…