ホンダCBR650R Eクラッチ……1,188,000円/グランプリレッド
ホンダCBR650R Eクラッチ……1,155,000円/マットバリスティックブラックメタリック
ヨーロッパのベストセラー

ベースとなっているCBR650Rは直列4気筒エンジンを搭載したスポーツバイク。2021年、2024年にヨーロッパでベストセールス・スポーツバイクとなったマシンだ。

扱いやすい車格で高い動力性能を発揮し、スポーツ性も高い。ヨーロッパでこの排気量帯のスポーツバイクは昔から大激戦区であり、パフォーマンスだけでなく、使いやすさやコスパなど、総合的な性能が求められる。そこでベストセラーを獲得していることからもCBR650Rがどれだけ魅力的なバイクかということがわかるだろう。


ホンダがE-clutchを最初に装備したのがCBR650RとネイキッドバージョンのCB650Rだったのは、世界中で多くのライダーにE-clutchの魅力を知ってもらうためだ。
E-clutch とは?

E-clutchは世界初のクラッチ自動制御システムだ。発進、停止、変速、のときに電子制御でクラッチ操作が行われる。最近は色々なメーカーが自動変速のマシンを投入してきているが、E-clutchがそれらと大きく違うのは変速をライダーが行うこと。そしてクラッチレバーを装備していることだ。
E-clutchはエンジンを始動してから発進から停止までクラッチ操作をする必要はない。ただ、ライダーがクラッチレバーを操作したときだけクラッチをマニュアルで操作することができる。レバーを完全に離してクラッチがつながり、走り出すと再びクラッチは自動制御に復帰する。ボタンなどを切り替える必要はない。
自動操作でありながら、スイッチ類も増えていない(自動とマニュアルを表示するインジケーターはある)点がポイント。自動制御とマニュアルの操作の切り替えを瞬間的、直感的に行うことができるのである。
ベテランライダーは、Uターンや低速走行時に半クラッチを多用してマシンを安定させることが多いが、E-clutchであれば、こういった乗り方にも対応することができる。

E-clutchは発進と停止でクラッチ操作がいらないクイックシフターのようにイメージされることが多いのだが、それはE-clutchの一面でしかない。
クイックシフターの場合は、一定の条件で作動することを考えて作られているが(マシンによって異なるが)、E-clutchの場合はストリートやツーリングなど、あらゆる条件下で最適なシフト操作を行うことができるのである。
最適なクラッチ操作がもたらすもの

今回の試乗ではE-clutchに関するインプレを中心に紹介していくことにしよう。エンジンが始動したら発進の前にギアをローに踏み込むが、このときにクラッチ操作は必要ない。眼の前にクラッチレバーがついているので、はじめは反射的に握ってしまいそうになるのだが、仮にクラッチレバーを操作してしまうとマニュアル制御となり、走り出さないと自動制御に復帰しない。
発進は非常にスムーズだ。これは油圧をソレノイドでコントロールするのではなく、クラッチ自体を制御しているE-clutchの美点。市街地ではゴー・ストップが多いので、このスムーズな作動が非常にありがたい。
バイクに長く乗っているライダーの場合「クラッチ操作は無意識にしているので自動制御にする意味が感じられない」という意見もある。テスターもその一人だった。ところが市街地などを走ってみると、ありがたさが身に沁みる。肉体的な疲るようなことはないのだが、精神的なストレスが激減するのだ。
クイックシフターとの違いを大きく感じるのは、低速で低いギアを使っているときだ。スポーティな走行を想定したクイックシフターをこういった状況下で使うと変速でショックを感じてしまうことがある。低速走行を考慮したクイックシフターであれば、点火カットする時間を長めにしてショックを減らすようにしているものもあるが、E-clutchであればそういうときでも一瞬でスムーズな変速が可能。点火カットに加え、緻密なクラッチ操作でショックを逃がしているからである。
ストリートを走っているとクイックシフターでは想定されていないような変速をすることもあるが、そういうときもE-clutchは確実に対応してくれる。例えば高いギアで加速しているとき、加速力が足りずにギアを落としたいと思ったら、スロットルを戻さずにシフトダウンするだけで事が足りる。減速時にエンジンブレーキが効きすぎたと感じたらスロットルオフの状態のままシフトアップしてもショックがない。
こういった操作をクイックシフターでやると大きなショックがあることが多いのだが、E-clutchは意識的にいじわるな操作をしても変速で大きなショックが発生することは一度もなかった。常にスムーズな変速が可能だったのである。
スポーツライディングにも対応

スポーティに走るときは、良くできたクイックシフター同様に使うことができる。加えて低速でも点火とクラッチ操作の両方が作動するから、特に大きな駆動力が加わる低速コーナーの立ち上がりでも安心してシフトアップすることができた。
ブリッパーがついていないので、減速時は半クラッチ操作だけでシフトダウンすることになるのだが、ここでも不満は感じなかった。車体がバンクしているときでもシフトダウンが可能なくらいにスムーズな変速だった。
ライダーの楽しみをスポイルしない

4気筒エンジンを搭載したCBR650R は、低中速でも扱いやすいトルクを発揮し、高回転では胸のすくような吹け上がりをする。このエンジンとE-clutchのマッチングは特に良いように思う。変速時にクラッチ操作の面倒さがないから、積極的に変速して楽しい回転域をキーブしたくなるのである。様々なステージでよりイージーでありながら走りを楽しむことができた。
ホンダにはすでにDCTがあり、BМWやヤマハも自動変速のマシンをリリースしている。そういったシステムに対してE-clutchのメリットはライダーが操作する楽しさをまったくスポイルしない点にあるのだと思う。極端な話、E-clutch付きのバイクでもクラッチ操作すれば、これまでのバイクとまったく同じように走ることができる。常にライダーの意思が尊重されているシステムなのだというイメージだ。
デメリットはわずかに車重が増えることと(CBR650Rの場合は2kg)とクラッチ部の幅が若干大きくなる程度。それとて走っているときには何も気にならない。価格は5万円高くなるが、これも色々なマシンに採用されていけば価格も下がってくることだろう。そう考えるとE-clutchは大きな可能性が広がっているように思える。
テスターも当初はこのシステムに関して本当に必要があるのかと思っていたのだが、E-clutchの試乗のあとで一般的なマニュアルクラッチのマシンに乗ると、ひどく面倒なことをしているように感じるようになってしまった。もしかするとこれが一番のデメリットなのかもしれない。
ポジション&足つき(ライダー身長180cm)

ポジションは軽い前傾姿勢になる。スポーツライディングを考えたものだが、ツーリングまで対応するオールマイティなポジションだ。

シート高は810mm。このクラスのマシンとしては平均的だ。シートの前側が絞られているので足つき性は悪くない。E-clutchによってクラッチカバーが張り出しているので足のつき方によっては膝にカバーが当たることはあるが、軽く接触する程度でほとんど気にならない。

ディテール解説

















ディテール解説
主要諸元 CBR650R 【 】内はCBR650R E-Clutch
| CBR650R | |||
|---|---|---|---|
| 車名・型式 | ホンダ・8BL-RH17 | ||
| 全長(mm) | 2,120 | ||
| 全幅(mm) | 750 | ||
| 全高(mm) | 1,145 | ||
| 軸距(mm) | 1,450 | ||
| 最低地上高(mm)★ | 130 | ||
| シート高(mm)★ | 810 | ||
| 車両重量(kg) | 209【211】 | ||
| 乗車定員(人) | 2 | ||
| 燃料消費率*1 (km/L) |
国土交通省届出値: 定地燃費値*2 (km/h) |
31.5(60)〈2名乗車時〉 | |
| WMTCモード値★ (クラス)*3 |
21.5 【21.3】(クラス 3-2)〈1名乗車時〉 | ||
| 最小回転半径(m) | 3.0 | ||
| エンジン型式 | RH17E | ||
| エンジン種類 | 水冷4ストロークDOHC4バルブ直列4気筒 | ||
| 総排気量(cm³) | 648 | ||
| 内径×行程(mm) | 67.0×46.0 | ||
| 圧縮比★ | 11.6 | ||
| 最高出力(kW[PS]/rpm) | 70[95]/12,000 | ||
| 最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) | 63[6.4]/9,500 | ||
| 燃料供給装置形式 | 電子式〈電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)〉 | ||
| 始動方式★ | セルフ式 | ||
| 点火装置形式★ | フルトランジスタ式バッテリー点火 | ||
| 潤滑方式★ | 圧送飛沫併用式 | ||
| 燃料タンク容量(L) | 15 | ||
| クラッチ形式★ | 湿式多板コイルスプリング式 | ||
| 変速機形式 | 常時噛合式6段リターン | ||
| 変速比 | 1速 | 3.071 | |
| 2速 | 2.352 | ||
| 3速 | 1.888 | ||
| 4速 | 1.560 | ||
| 5速 | 1.370 | ||
| 6速 | 1.214 | ||
| 減速比(1次★/2次) | 1.690/2.800 | ||
| キャスター角(度)★ | 25゜30′ | ||
| トレール量(mm)★ | 101 | ||
| タイヤ | 前 | 120/70ZR17M/C (58W) | |
| 後 | 180/55ZR17M/C (73W) | ||
| ブレーキ形式 | 前 | 油圧式ダブルディスク | |
| 後 | 油圧式ディスク | ||
| 懸架方式 | 前 | テレスコピック式(倒立サス) | |
| 後 | スイングアーム式 | ||
| フレーム形式 | ダイヤモンド | ||
- 道路運送車両法による型式指定申請書数値(★の項目はHonda公表諸元)
- ■製造事業者/本田技研工業株式会社
- *1燃料消費率は、定められた試験条件のもとでの値です。お客様の使用環境(気象、渋滞等)や運転方法、車両状態(装備、仕様)や整備状態などの諸条件により異なります。
- *2定地燃費値は、車速一定で走行した実測にもとづいた燃料消費率です。
- *3WMTCモード値は、発進、加速、停止などを含んだ国際基準となっている走行モードで測定された排出ガス試験結果にもとづいた計算値です。走行モードのクラスは排気量と最高速度によって分類されます。WMTCモード値については、日本自動車工業会ホームページもご参照ください。
- ※本仕様は予告なく変更する場合があります。
- ※CBR、Honda E-Clutch、Honda RoadSync、H・I・S・S、PGM-FIは本田技研工業株式会社の登録商標です。
- ※この主要諸元は2024年4月現在のものです。
