小型&ICタグ付き「電子車検証」のメリットとバイク的な問題点とは? 2025年4月1日から始まる車検の新制度も紹介

クルマはもちろん、車検が義務付けされている251cc以上のバイクにも、2023年1月4日から「電子車検証」が導入された。「電子」といっても紙のままだが、ICタグ付きとなったことで、記載事項を簡略化しサイズも小型化。従来のA4サイズ(297×210mm)からA6サイズ相当(177.8×105mm)とコンパクトになっている。以前の車検証よりも、持ち運びの面では便利そうだが、それ以外にどんなメリットがあるのだろうか。

ここでは、電子車検証とは実際にどんなもので、どんなメリットがあるのか? また、ICタグ付きとなったが故の注意点などを紹介する。さらに、車検については、2025年4月1日から新しい制度も導入されるので、その内容もお伝えしよう。

REPORT●平塚直樹
PHOTO●平塚直樹、写真AC

電子車検証は以前の仕様となにが違う?

2023年1月4日以降に納車された新車や、車検を受けたバイクに採用されているのが、電子車検証だ。

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筆者が所有するCBR650Rの電子車検証
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従来の車検証との比較(出展:国土交通省)

実物をパッと見て気づくのは、前述の通り、従来のA4サイズからA6サイズ相当とコンパクト化し、記載内容も簡素化されていることだ。車検証の掲載内容は、ナンバーや車体番号、基本的な車体の寸法や重量など、車両そのものの情報のみ。それ以外の情報は、車検証の裏面に貼られたICタグに内蔵されたICチップの中に電子化されて入っている。

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電子車検証の裏面。左側にICチップを内蔵したICタグが貼り付けてある

車検証閲覧アプリの使い方

そして、ICチップ内の情報を知りたいとき。その場合は、スマートフォンやPCなどに専用アプリ「車検証閲覧アプリ」をインストールすることで、ICタグ内の情報にアクセスすることができる。

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有効期限などの詳細情報はスマホにインストールした専用アプリで読み込み可能

試しに、スマホにアプリを入れ、情報を読み込んでみる。すると、確かに、有効期限がいつまでなのかとか、所有者の住所などといった詳細情報などが表示される。

ちなみに、スマホに読み込む場合は、車検証の表面右下にあるセキュリティコードを入力下後、車検証のICタグ部分にスマホを近づけてかざすだけなので、比較的簡単だ。

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セキュリティコードは、車検証の表面右下に記載してある

ただし、車検証を金属製の机などに置いてしまうと、読み込まないケースもある。そういった場合は、下に厚めの雑誌や紙などを敷くか、木製テーブルなど金属が使われていないものの上に車検証を置いてから、読み込むといい。

なお、アプリに対応するOSなどの動作環境(2025年3月現在)は、スマートフォンがiOS 16,17、Android11,12,13,14(NFC対応機種に限る)。iPadはNFC機能を搭載していないため動作対象外だ。

また、PCの場合は、Windows 10 バージョン22H2(64bit版)と、Windows 11 バージョン22H2、バージョン23H2で、データの読み込みにはICカードリーダーも必須。なお、Windows10はMicrosoft社のサポート終了後(2025年10月の予定)は動作確認の対象外となるので注意したい。

主な目的は車検証の発行作業の簡素化

以上が電子車検証の概要だが、実際にどんなメリットがあるのだろう。

国土交通省の発表を要約すると、電子化の目的は、主に、民間車検場などを営む整備事業者が、新車の登録や車検時などに、わざわざ陸運支局などに行かなくても、自分の事務所で有効期限の更新などをできるようにすること。つまり、「車検証を発行する作業の簡素化を図る」ことだ。

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電子車検証はコンパクトなサイズになり、記載内容も簡素化されている

また、整備事業者の手間はもちろんだが、陸運支局にとっても、電子化することで作業効率を上げられるし、春など申請が多い時期の混雑を軽減できるメリットもあるだろう。

一方、ユーザー側に恩恵はあるのだろうか。前述の通り、コンパクトになった分、バイクのシート下収納スペースには入れやすくなったように感じるが、例えば、車検の有効期限を知りたいと思った場合、わざわざスマホかPCを使って読み込む必要がある。

もちろん、詳細情報を一旦読み込んでしまえば、アプリ内に、「自動車検査証記録事項」という詳細情報が書かれた書類をPDFとして保存できる。そのため、何度もICチップ内の情報を読み込まなくても、次からはアプリを開いてPDFを開けばいい。だが、かといってさほど便利になった感じもしない。どちらかといえば、ユーザーよりも、整備事業者や陸運支局などが楽になったようなイメージだ。

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自動車検査証記録事項は、スマホの専用アプリ内にPDFにして保存することが可能

さらに、小規模店舗などで認証工場の資格を持たない(民間車検場ではない)バイクショップの場合は、結局のところ、陸運支局へバイクを持ち込んで車検などを受けることになる。そのため、そうした業者にも、あまりメリットはないといえるだろう。

また、ユーザー車検の場合も、陸運支局に車両を持ち込む必要があるため、手間などの点は民間車検場ではないバイクショップと同様。そう考えると、今回の電子車検証は、車検証の発行作業について、すべての事業者やユーザーにメリットがあるとは言い難いのではないだろうか。

ICタグの破損に注意が必要

さらに、ユーザーにとっては、主に保管方法などで、気をつけないといけないことが増えたといえる。

まず、走行する際に携行する場所。電子車検証になっても、走る際は自賠責保険証と共に携帯する必要があることは従来と同じだ。

バイクの場合、車検証はシート下収納スペースに入れておくライダーも多いと思う。だが、特にスポーツバイクなど、収納スペースが小さいモデルの場合は、いかに小さくなったとはいえ、車検証を折り曲げないと入らないことも多い。実際に、筆者の愛車CBR650Rも、リヤシート下の収納スペースに入れようとすると、A6相当サイズで小さくなった電子車検証でも折り曲げないと入らない。

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筆者が所有するホンダ・CBR650R

その際に、電子車検証のICタグが貼ってある部分を折り曲げてしまうと、破損してしまう恐れがある。もし、ICタグが破損すると、詳細情報を読み込めなくなるため、再交付をしなければならなくなるので注意が必要だ。

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シート下の収納スペースに入れる場合、ICタグ部分を折り曲げないよう注意が必要

また、ICタグやICチップは高温に弱い。例えば、4輪車の場合、国土交通省によれば、「ダッシュボードの中などに保管は可能」。だが、一方で「ダッシュボードの上など、夏場にかなり高温となる箇所へ長時間放置することは避けて欲しい」という。

そう考えると、バイクの場合も、例えば、夏場にツーリングへ行き、出先で車両から長時間離れる時などに、シート下の収納スペースへ入れっぱなしにするのはやや不安だ。駐車する場所にもよるが、もし炎天下の場所に置く場合は、出して携行した方がいいかもしれない。

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夏のツーリングなどで野外に長時間駐車する際は、電子車検証をシート下収納などに入れておくのは危険? (写真はイメージ)

何年も同じ車検証を使い回す点も注意

ほかにも気になる点がある。電子車検証は、次に車検を通す際も、車検証自体はそのまま使い、ICチップ内の情報だけをデータ上で更新する点だ。つまり、破損や車両を手放さない限り、同じ紙を何年も使い回すことになるのだ。

実際に、筆者の愛車CBR650Rも、2023年1月に1度目の車検を受けているから、以前より電子車検証を利用。その後、2025年1月に2度目の車検を受けたが、車検証自体は、2023年1月に発行されたものと同じままだった。

従来の車検証であれば、新車購入時に発行されても、車検の度に新規のものに変わっていた。ところが、電子車検証では、紙やICタグ自体は何年も、へたすると十年以上同じものを使うことになる。

そう考えると、電子車検証をシート下収納スペース内へ入れて走ったり、保管するのはちょっと「危険な香り」がする。特に、筆者の愛車のように収納スペースが小さいバイクでは、前述の通り、折り曲げないと入らない。

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CBR650Rのリヤシート下収納スペース。車載工具のほか、ETC車載器も載せているため、あまりスペースはない

その際、きちんとICタグ部分を避けて折り曲げたとしても、やはり紙は紙。長年使っていれば、折り目部分が劣化したり、場合によっては破けてしまう可能性もある。また、ツーリング先で大雨に遭遇したり、入れたことを忘れて洗車してしまうなどで、シート下収納スペース内に浸水してしまい、車検証がふやけて劣化を早めたり、破損することも考えられる。

ちなみに、紛失や破損で再交付する場合の手数料は350円。費用自体はさほど高くないが、バイクショップなどに依頼すると代行手数料を取られるだろうし、自分で陸運支局へ出向く場合は時間や手間も掛かる。日頃、仕事などで忙しい人には、ちょっと面倒になるといえよう。

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リヤシート下収納スペースに電子車検証を入れる場合は、ファスナー付きのビニール製バッグなどに入れる手もある。だが、長年同じものを使うと、バッグ自体が劣化し、内部に浸水する恐れもある

なお、心配性の筆者は、電子車検証をシート下収納スペースに入れず、バイクに乗る際は、バッグやナップサックなどに入れることにしている。シート下収納スペースに入れて、間違って濡れてしまい、面倒な再交付を行うよりもマシだと思ったからだ。この点は、個人の判断だが、保管や携帯する方法には十分気をつける方がいいことは間違いない。

4月1日から開始される新車検制度とは?

車検については、ほかにも、2025年4月1日より、幾つか制度が改訂される。まず、乗用車の場合、新車は3年、以降2年に1度のタイミングで継続検査を受ける必要があるが、受検期間が変更。従来、車検証の有効期間満了日の「1か月前から満了日まで」だった受検期間を、「2か月前から満了日まで」と延長される。

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国土交通省が発表した「月別車検台数(2019年から2023年までの5年間の平均)」(左)と、改正内容(右)

これは、車検が集中する年度末の混雑を解消するための対策。本来、車検は満了日前であれば「いつでも受けられる」ものではある。従来も満了日の2か月前やそれより前に車検を受けること自体は何ら問題はなかった。だが、あまり早い時期に車検を受けると、次回の満了日が早まってしまい損をする場合もある。

例えば、車検証の満了日が2025年12月10日のバイクの車検を、2か月前の2025年10月10日に通した場合、次回の車検満了日は2027年10月10日となる。前回の車検で2025年12月10日までの費用(継続検査費用や自賠責保険料など)を支払っていれば、従来であれば2か月分の損をしたことになっていた。

一方、同じ2025年12月10日が車検証の満了日となるバイクについて、1か月前の2025年11月10日に車検を受けても、次回の車検満了日は2027年12月10日になり、損にならない。新制度では、こうした制度を、車検証の有効期間満了日の2か月前までに延長。上記例のように、2025年12月10日が満了日の場合、2025年10月10日に車検を受けても、次回の車検満了日は2027年12月10日となるようになったのだ。

ただし、注意したいのは、あくまで対象は、2025年4月1日以降に車検で継続検査を受検する場合。そのため、実際に、この制度を活用できるのは、車検証の有効期間が「2025年6月1日」以降のバイクから。2025年6月1日に満了となるバイクが「2025年4月1日」に車検を受けても、次の車検は「「2027年6月1日」となり、以後、同様の受検期間が適用される。

ほかにも、2025年4月1日からは、車検の必要なバイク(小型二輪)が車検で継続検査を受ける際、紙の(軽自動車税)納税証明書の提示が原則不要となる。これは、4輪車などではすでに導入していたワンストップサービス(OSS)の対象を、小型二輪車にも拡大したためだ。制度導入後は、運輸支局などでも、4輪車などと同じく、システム上で軽自動車税の納付確認ができるようになる。そのため、紙の納税証明書は基本的に提示しなくてよくなるのだ。

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2025年4月1日からは、紙の(軽自動車税)納税証明書の提示が原則不要となる

ただし、納付直後や他の市町村への引越し直後などの場合、システムに納税履歴が反映されず、軽自動車税の納付確認ができない場合もある。そうしたケースでは、従来と同様、紙の納税証明書の提示が必要になる場合もあるので注意が必要だ。

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著者プロフィール

平塚直樹 近影

平塚直樹

1965年、福岡県生まれ。福岡大学法学部卒業。自動車系出版社3社を渡り歩き、バイク、自動車、バス釣りなど…