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ベネリTNT125 ……328,900円(税込)
イタリア生まれの老舗ブランド!
1911年にイタリアで産声を上げたベネリ。小排気量車で数々の実績を重ね、大型バイクまでラインナップ。だが戦争やライバルメーカーの台頭などにより幾度も経営の危機に陥り、80年代後半には他メーカーに吸収合併され一時はブランドが途絶えた。しかし90年代半ばに新オーナーのもとで復活。2005年には中国に本拠地を置くQ.J.グループになりヨーロッパをはじめアメリカやアジアで車両を販売。2016年からは巨大企業GEELYの資本参加を受けて新生Benelliとして活動中。日本では現在、株式会社プロトが輸入販売している。
プロトといえば多くのバイクパーツを開発から製造・販売まで行っているブランド。量販店でもよく目にするので、お世話になっているライダーも多いのではないだろうか。
プロトが日本に導入するモデルの中で最小排気量となるのが今回紹介するTNT125だ。
12インチの前後ホイールを採用するコンパクトな車体サイズは、国産モデルではグロムに近いサイズ感。しかしデザインはまったく異なり、プロジェクターヘッドライトが4灯埋め込まれたフロントカウルやエッジが効いたガソリンタンク、跳ね上がったテールカウルなど非常にアグレッシブなもの。溶接跡もきれいなトラスフレームや右2本出しのアップマフラーなどの装備も充実している。いかにも走りそうなスタイリングだ。
質感やアクセサリーもGODD! 期待が高まる!
12インチのコンパクト・スポーツバイクは手軽なこともあって日本でも人気が高い。車種も多いし、カスタム熱もかなりのもの。それだけにユーザーの目も厳しいといえる。その市場にTNT125は対抗することができるのだろうか。
まずスタイリングに関しては十分な注目度が得られるだろう。本格的な装備を備えたシャープで戦闘的なフォルムからは、ただならぬ存在感が感じられるからだ。コンパクト・スポーツバイクオーナーならずとものぞき込みたくなる。しかし見た目が良くても走りがそれに伴っているとは限らない。折りたたみ式のオシャレなキーを手にマシンに近付く。
またがると12インチ車ならではのコンパクトさを実感。当然ながら足付きは問題なく、軽量なためまたがったまま前後に動かすのも容易だ。
だからといってポジションが窮屈なわけじゃないのがよい。ハンドルとシート、ステップの位置関係がよく、自分の体格(165cm/70kg)では不自然に感じるところはない。ガソリンタンク部も適度に絞り込まれていてニーグリップしやすい。このクラスとしてはシートの座り心地も良好。ヒザの曲がりもキツすぎないので長時間走っていても疲れなさそうだ。
空冷単気筒エンジンはセル一発で目覚め、なめらかにアイドリングを刻む。ボア・ストロークがほぼスクエア。出力性能と燃費性能のバランスを考えての設定だろう。右2本出しのアップマフラーからの排気音は歯切れよく、アクセルワークに対する反応も良い。個人的には瞬時に回転数を把握できるアナログ式のタコメーターも好み。これは走りにも期待が持てる。
軽い操作感のクラッチを握りギヤを入れ、スタートする。低〜中回転域のトルクがあって車体が軽量なのでスタートダッシュはなかなかのもの。車体がしっかりしているのでギャップが振られることもなく加速していく。そのため街中での信号ダッシュでは余裕で後続車を引き離すことができる。なかなか頼もしいぞ。
スタイリングを裏切らない、キレのある走り!
さらに走り込んでいると、コーナーリングのフィーリングが良いことを実感する。このクラスの小径ホイール車だと路面の影響を受けやすいのでコーナー進入の減速で車体がバタつくことも珍しくない。しかしTNT125は車体剛性が高く前後サスペンションの動きがスムーズだからだろうか、ハイスピードからの減速でも車体がブレないのだ。
TNT125に搭載されているパワーユニットの特徴は5速ミッションだということ。グロムも新型で5速になったが、TNT125は先駆けて搭載していた。これがまた走りの幅を広げてくれる装備。高回転域ではわずかに振動が感じられるが、そこまで引っ張らなくても高めの巡航速度をキープすることができる。また市街地でシフトチェンジを繰り返しながらキビキビ走っているとギヤポジションインジケーターが欲しくなってくる。とはいえトルクフルなエンジン特性なのでシフトミスで極端に失速するようなシーンはなかった。
タッチが良いブレーキも安心感を高めてくれる。減速して荷重移動をするとすぐにスッとバンクし始める。この軽い動きは小径ホイール車ならでは。しかしバンク中の車体姿勢は安定していて不安な挙動は感じられない。むしろ安定志向と思えるくらいなので、高めのスピードを維持したままコーナーリングすることが可能。立ち上がりでもシッカリと加速してくれるのでスポーティなライディングが楽しめる。これなら峠道やミニサーキットでも不足はないと思われる。
またこのクラスの良さであるコンパクトな車体は、街中で抜群の扱いやすさをみせる。駐車スペースが最小限ですむことはもちろん、いざとなったら押し歩きで移動させることが苦にならないことなど数多くある。
コンパクト・ボディならではの恩恵も!
道を間違えてしまっても押し歩きでリカバリー!こんなことが気軽にできるのが嬉しい。
海外製のバイクということで少し気になるのが耐久性やスペアパーツの供給体制。しかしそこはプロトがバックについているということが心強い。それを考えれば不自由ないベネリライフを送ることができると考えられる。
今回の試乗でTNT125がスポーティなルックスを裏切らないだけの元気な走りを見せてくれるバイクだということが実感できた。現在日本に輸入されている大陸製のバイクの中には、一見スタイリッシュながらビギナーには扱いにくいモデルや価格と内容のバランスがいまひとつなモデルなどが存在することは確かだ。しかしベネリは違った。しっかりとした造りとレベルの高い走りを持っているので、ビギナーはもちろんベテランライダーでも十分楽しめる。小粒ながら強烈なインパクトがあるコンパクト・スポーツバイクであった。
ベネリは今後、見過ごすことができないブランドだといえるだろう。
ディテールチェック!
4灯のプロジェクターヘッドライトとポジションランプを備えたフェイスデザインはアグレッシブかつ独創的。LEDウインカーを採用し、市街地で便利なハザード機能も備える。
倒立フォークにφ210mmのディスクブレーキを装備。キャリパーにブレーキラインが2本つながっているのは前後連動ブレーキのためだ。
溶接跡がキレイな高剛性トラスフレームに懸架されるエンジンは空冷単気筒。スムーズなトルクフィールでライダーの思い通りの走りを実現してくれる。
空冷エンジンのボア・ストローク比は54.0×54.5mm。シリンダーヘッド前方に冷却効率を高めるオイルクーラーを装備している。
リヤのモノショックはオフセットして装着される。クッション性能は良く路面をスムーズにトレースする。その横をエキゾーストパイプが通っているのも独特だ。
右2本出しのアップマフラーはTNT125のアイデンティティとなる部分。ヒートガードも含めカスタムパーツのような仕上がりは所有欲を満たしてくれる。
ナンバープレートをスイングアームにセットしているのでテールランプまわりはスッキリしている。テールカウルにビルトインされたLEDウインカーは視認性が高い。
角パイプと丸パイプを組み合わせたスイングアームにリヤフェンダーとナンバープレート、リフレクターをセット。メカメカしさをも感じさせる造形だ。
シートのスポンジは厚めで座り心地は良い。タンデムシートを備えているがやや小振り。長時間のタンデムは難しいかも知れない。タンデム部分にはブランドロゴが奢られる。
キー操作で外せるフロントシートの下にはエアクリーナーとバッテリーでビッシリ。車体がコンパクトなこともあり小物を入れるスペースはほとんどない。
ライダー側のステップは長時間のライディングでも疲れにくいゴムラバー付き。タンデムステップは凝った形状のアルミ製だ。前後連動ブレーキ採用なのでブレーキラインが複雑。
主要諸元
車名(型式) TNT 125 (V02) 全長×全幅×全高 1770mm×760mm×1025mm クラッチ形式 湿式多板 軸間距離 1215mm 最低地上高 160mm シート高 780mm 車両整備重量 124kg フレーム形式 トリレス(格子)フレーム 懸架方式(前) 倒立テレスコピック 懸架方式(後) スイングアーム 乗車定員 2名 エンジン種類 油冷4ストローク単気筒 トランスミッション形式 常時噛合5速リターン 弁方式 SOHC4バルブ 総排気量 125cc 最高出力 8.2kw/9500rpm 最大トルク 10.0Nm/7000rpm 内径×行程/圧縮比 Φ54.0×54.5/9.8:1 始動方式 セルフスターター 燃料タンク容量 7.2L 点火方式 トランジスタ(TLI) 燃費(WMTCモード) 45.5km/L 潤滑方式 圧送飛沫併用型 燃料供給方式 フューエルインジェクション クラッチ形式 湿式多板 ホイールトラベル(前) 120mm タイヤサイズ(前) 120/70-12 タイヤサイズ(後) 130/70-12 ブレーキ形式/径(前) 油圧デイスク/210mm ブレーキ形式/径(後) 油圧デイスク/190mm
●ライダープロフィール
横田和彦
1968年6月生まれ。16歳で原付免許を取得して以来、50ccからリッターオーバーまで数多くのバイクを乗り継ぐ。普段から移動手段にバイクを使うことが多く、プライベートでもツーリングやサーキット走行、草レース参戦などを楽しむスポーツライディング好き。現在は雑誌やWebなど、さまざまな媒体で執筆活動をしている。