目次
ヤマハ・MT-09 ABS…….1,100,000円
マットダークグレーメタリック6
ヤマハ・MT-09 SP ABS…….1,265,000円
MT-09の初代モデル登場は2013年の事。当時斬新だった外観デザインもさることながらヤマハ3気筒エンジンの復活劇は大きな注目と話題を集め、業界全体に活況を取り戻すカンフル剤のひとつとなった。
スーパーモタード風のセンスも感じさせるアグレッシブなネイキッドスポーツとしたフォルムは無駄のないシンプルな仕上がりを披露。当初は税込みで85万円を切るバーゲンプライスも奏功し、一躍の人気モデルになったのである。
それから7年が経過、2度目のアップデートで今回は第3世代へとフルモデルチェンジ。何から何までとことん新設計でリフレッシュされた意欲的な変貌ぶりは、昨年11月の欧州発表直後から日本でも大きな注目を集めた。
新型MT-09は、ご覧の通り外観デザインの大胆な変貌ぶりが先ずは印象的。ガッチリとマッシブな基本フォルムにシンプルな灯火類とのマッチングがとても新鮮。
オフセットクランク採用の直列3気筒エンジンはボアサイズはそのままに3mmストロークアップされて総排気量は846ccから888ccへと拡大。逆にエンジンを始め車体関係の細部まで徹底的に軽量化設計が追求され、従来モデル比で4kgダウンの189(SPは190)kgに仕上げられた。これは初代のABS無しモデルに肉薄する軽さである。
開発コンセプトに掲げられたキーワードは「The Rodeo Master」。MT-09本来のトルクフルな、“暴れ馬”の様なエンジンを意のままに操れるように!と言う思いを込めて開発されたそう。
その基本には、トルク感、アジャイル(機敏・俊敏)さに磨きをかけつつ、さらに「意のままに操れる走りをオーナーに楽しんでもらいたい」と言う開発陣の熱き願いが込められているわけだ。
低中速域のトルクアップを始め、ミドルクラス並を狙った車体の軽さも含めて、より強力なパワー感を楽しめるよう、スロットルレスポンスやサウンドにも拘って開発。下向き排気のエキゾーストは路面からの反響音も考慮されたと言う。
軽さとトルク感を純粋に、かつ不安感なく楽しむために、6軸IMU(慣性計測装置)を活用した最新の電子制御技術を投入。出力特性の変更や、その他ABSも含めて電子制御の介入度も個別に設定可能。操作荷重が軽くなりダウンシフトにも対応するクイックシフターも搭載。
またスポーツ走行を楽しむ人向けにセッティング範囲の広いKYB製フロントフォークを採用したMT-09 SPも揃えられた。φ41mmのインナーチューブにはDLCコーティングでフリクションを低減。作動性向上を目指し、より上質な乗車感を誇る。その他細部まで差別化された上級な仕上がりも見逃せないのである。
元気いっぱい!思いのままに操れるポテンシャルは流石である。
試乗は袖ヶ浦フォレストレースウェイ。メインスタンド前に400mのストレートを持つ、一周約2.4kmのコースには25R~220R大小14のコーナーがある。試乗会では速度を落とす為2箇所にシケインが設けられ、1周毎のフリー走行スタイルで行われた。
つまり今回の試乗はレーシングコースのみ。限られた条件下でのインプレッションであった事を予めお断りしておきたい。一般道での試乗レポートはまた別の機会にお届けしよう。
最初はMT-09でコースイン。サイドスタンドを起こした瞬間から手強さを覚えない車体の軽さと、操作の軽いクラッチが先ずは印象深い。少しだけ腰高な乗り味を覚えたが、ハンドル位置は適度な高さで遠くなく、ネイキッドスポーツとしてごく一般的。
少し後退ぎみのステップは、バイクを支える時に足を出すとふくらはぎの内側にその先端が当たるが、いつでも腰をスッと浮かす時に好都合な位置にあり、いかにもスポーティである。
気持ちはゆったりとリラックス。でも心の何処かで、“ヤル時はいつでも行けるぞ!”という戦闘的なエッセンスを秘めているようにも感じられた。
中低速域を中心に、全域でトルクが向上したと言うエンジンは、流石に発進から余裕綽々。柔軟で図太さもたっぷり感じられる3気筒独特の出力特性が効いて、発進加速はとても豪快だ。
ローとセカンドのギヤ比が若干高めになったのは、低速域から十分なトルクを発揮した自信の表れもあるだろう。またシフトタッチ向上を目指しギヤ比のギャップを小さくする狙いもあったと思う。
実際最大トルクは、前モデルの87Nm/8,500rpmにから93Nm/7,000rpmへ。排気量アップ分の割合以上の高トルクを発揮するが、クランクマスが少しアップされた事も相まって、体感的な違いはそれほど大きな物には感じられなかった。
むしろその出力特性は凄味を増したと言うよりも、まろやかな雰囲気で優しさが加味されている感じ。もちろん動力性能の向上は間違いないが、それよりも扱いやすさの追求を優先してくれた穏やかな乗り味が印象的だったのである。
ローギヤで5,000rpm回した時のスピードはメーター読みで51km/h。前モデルでは48km/hだった。ローやセカンドの低いギヤでのスロットルレスポンスも乱暴者な雰囲気が和らいだように感じられたのが好印象。
クイックシフターのタッチは軽く小気味よく決まる。各速ともにショックは少なく、加速が途切れる印象も無い優れもの。シフトダウンも同様に難なく決まる。
筆者は長年の癖でシフトダウン時にはついつい回転を合わせようとしてしまう事があるが、そんな操作は全く不要で、シンプルに左足を踏み込むだけで良いのである。
今回最も感心させられたのは、さらに進化した優れた操縦性にある。一見それは普通のネイキッドスポーツだが、まるでレーサーレプリカに匹敵する領域までカバーできるポテンシャルを持っている。
スリムなライディングポジションと適度にボリュームのある燃料タンクや後部がワイドなシートデザイン。それらはサーキットという舞台で過激なスポーツ走行を楽しむ走りに、いとも簡単に適応してくれた。
少し幅を狭められたハンドルは、ステアリングまわりの慣性マスが軽減された事に合わせて上手く調教されていて、決して軽過ぎない軽快なグッドハンドリングに貢献。
素直に思い通りのラインに乗せて行ける。限界近いコーナリング中でもラインの変更が容易な自由自在感覚は秀逸で、サーキットやワンディング路走行が楽しくなれることは請け合いである。
簡単に言うと剛性感の高いフレームをベースに作動性に優れた前後サスペンションの働き、そしてブリヂストン製バトラックス・ハイパースポーツS22タイヤのグリップ力も含め、前後輪の動的な接地バランスが非常に良いのである。
さらに言及すると最新の電子制御デバイスが巧妙な働きをしてくれる。
例えばコーナーへの進入でバイクを倒し込みながらブレーキングする様なシーンで、後輪が外側へ滑り出しても、ライダーがドキッとさせられる事は少ない。昔なら慌ててしまうような挙動も穏やかに収束方向へと向かってくれる。グリップの回復感も唐突ではない。
どんな場面でも安定性が高いから、安心してタイムトライアルしてみたい気分になれるのである。
コーナリング中、減速から加速へとスムーズに繋げていくスロットル操作も扱いやすいし、立ち上がりでグイグイ前へ出られる瞬発力も一級である。
MT-09 SPは、路面の細かい振動も巧みに吸収してくれる作動性に優れる前後サスペンションは流石。アジャストの豊富さや差別化された各部の贅沢な仕上がりも魅力的だが、操縦性や動力性能は、ベースモデルと基本的に同じである。
最終コーナーを4速で立ち上がり、ホームストレートを全開で前屈姿勢を決めると、1コーナー手前ではメーター読み195km/hに到達。速いライダーならおそらく200km/hオーバーも間違いない実力だろう。
ツーリング先でフト遭遇した見知らぬサーキットで軽くスポーツ走行で汗を流す様なシーンにもサラリと気分良く対応できる。そんな大人な雰囲気が心地よく感じられた。
最先端のハイテクデバイス搭載による進化と、MT-09のコンセプトをまじめに深化させるべく全てが刷新された仕上がりは、とても魅力的であった。
●足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)
両足の踵はご覧の通り少し浮いている。シート高は825mmと少し高めだが、車体はスマートに仕上げられており、足つき性に不安は無い。