目次
インディアン・FTR R Carbon…….2,509,000円
FTR…….1,889,000円
FTR Rally…….2,009,000円
FTR S…….2,219,000円
現在FTRには4機種のバリエーションがラインナップされている。その中で最上級のプレミアムモデルとして君臨しているのが、この「FTR R Carbon」である。
アメリカではポピュラーな人気を誇るフラットトラックレース。インディアンは2017年に60数年振りの復活参戦を果たし、大きな話題を提供した。
投入されたのは53度横置きVツインエンジンをダブルクレードルフレームに搭載したFTR750(レーシングマシン)。それが見事にシリーズチャンピオンを獲得。しかも翌年にも続いた2連破達成は実に衝撃的であった。
そんな快進撃と共に市販バージョンを新開発。2017年のEICMA(ミラノショー)ではレーサーのFTR750と共にプロトタイプが公開され、2019年に1200ccのFTRが新発売された。
FTRは、まさにインディアン流のレーサーレプリカ。今回の試乗車は、マイナーチェンジを経て2021年夏に国内発売されたモデルである。
実際のレーシングマシンとはエンジンもフレームワークも全く別物だが、全体の外観デザインはレーサーのFTR750を彷彿とさせる。
FTRは、4機種共にフレームとエンジンは共通。デビュー当初は前19インチ、後18インチのホイールサイズを採用していたが、スクランブラー的テイストのFTR Rallyを除く3機種は、ストリートモデルとしてより快適な乗り味を追求してマイナーチェンジされた。
足回りが刷新されてホイールは前後17インチサイズとなり装着タイヤも変更。サスペンションのストロークも120mmに。当然ロードクリアランスやシート高も下がり、ストリート・スーパースポーツとしてより親しみやすく熟成されたのである。
ちなみにFTRシリーズの中で唯一スポークホイール&ブロックパターンタイヤを履き、アップハンドルを装備したFTR Rallyは、150mmのサスペンション・ストロークを備えている。
トラス構造で作られた鋼管製ダイヤモンドフレームには、水冷DOHC4バルブの横置き60度V型2気筒エンジンをリジッドマウント。シリンダーヘッド付近を抱え込まれる様に吊られたエンジン自体も車体剛性メンバーに加えられ、スイングアームピボットはクランクケースに支持される合理的デザインが採用されている。
最上級モデルのR Carbonはサスペンションやマフラー等に一流ブランドの贅沢なパーツを使用。外板各部にも専用開発されたカーボンパーツが奢られ、シートも特別なプレミアムタイプを装着。車両重量で1kgの軽量化を果たしている。
写真からもわかる通り、タンクもカーボン製だが、実はタンク風にデザインされたカバーで、本物の燃料タンクはシート下に位置している点も見逃せない。
ガソリンは水よりも軽いとは言え13L容量となると、重さにして10kgに迫る。その重量が車体のどの高さに搭載されるかで、取り扱いや操縦性の感触に大きな違いが生じ、例え同じ車重のバイクでも搭載位置が低い方が軽く扱え、優れた運動特性に貢献できる。
IMU(慣性計測装置)を含め、最新の電子制御技術が投入されており、エンジンパフォーマンスやトラクションコントロールの介入レベルも調節可能。
メーターもタッチスクリーン式のフルカラー液晶ディスプレイを搭載。画面表示のカスタマイズもできる。またBluetooth機能も標準装備されており、スマホ等の機能が連携操作できるのも嬉しい。
FTRは、そんなこだわりの高機能を満載したフレッシュなアメリカン・ネイキッドスポーツなのである。
全てに味わい深き“特別”な香り
早速試乗車に跨がると、インディアンというブランドネームと1,200ccというエンジンボリュームから抱く先入観を覆すスマートな乗り味が先ずは印象深い。
全長やホイールベースは、例えるならばホンダCB1300並の立派な大きさ。その佇まいは堂々と誇らしげだが、横置きVツインエンジンの特徴を遺憾なく活用した車体は、いかにもスリムに仕上げられていた。
シート高は780mm。タップリと幅にゆとりのある快適なクッション形状もあって、筆者の体格では両足の踵が浮いてしまう。しかし指の付け根でしっかりと地面を踏ん張ることができるので、230kgオーバーの車体を支えるうえでも、特に不安は感じられなかった。
あえて気になった点を上げると右側に取り回された、後ろシリンダー用エキゾーストパイプに取り付けられたヒートプロテクターが若干膝の内側に当たる。
ただ、これも直ぐに慣れてしまうレベル。むしろバイクを支える時に右の下肢をつっかえ棒的に当てがうことで、楽に直立安定を保つことができる好都合な面もあった。
いずれにせよ、思いのほかフレンドリー。車体の引き起しも重過ぎず、気軽に乗り降りできる扱いやすさが魅力的。それこそ、ちょっと近所までの足代わりにも利用できる。
そしてもう一つ意外な軽さを覚えたのは、エンジンの回転フィーリングだ。レーサーレプリカと解釈すればそれも納得な話ではあるのだが、アメリカ製のビッグVツインから普通に想像される物よりも、クランクの回転慣性重量はかなり軽い。
つまりピックアップに優れる俊敏なスロットルレスポンスを発揮してくれる。レッドゾーンも9,000rpmから。なかなか侮れないハイパフォーマンスが期待できるのである。
ボア・ストロークが102×73.7mmと言うショートストロークタイプの1,203cc4バルブ水冷DOHCエンジンは、まるでミドルクラスのように軽快かつスムーズに吹き上がる。
違うのはその吹き上がる回転上昇の中にビッグボアならではの弾けるように強かな爆発エネルギーがリズミカルに感じ取れる事。いかにも骨太でダイナミックな乗り味がそこに発揮されているわけだ。
スロットルを開けさえすれば、それはいつでも瞬時に、かつダイレクトに実感できる。その歯切れの良さには、常に胸のすく、気持ち良い爽快感が伴うのである。
また、スポーツモードで右手をワイドオープンすると、怒濤のダッシュ力を披露。巨体を物ともしない一級の動力性能をいとも簡単に発揮する。特に6,500rpmを超えた当たりで豹変する様に一段と強烈になるパンチ力は豪快そのものであった。
前後17インチホイールの採用と共に、少しキャスターを立て、トレールを短くした設計変更とメッツラー製スポルテックタイヤの装着もあって、市街地から郊外のワインディグ路まで、狭路でのUターンも含めて、操縦製は素直で扱いやすい。
ミドルクラス並と表現するのは少しオーバーかもしれないが、かなり軽快に身を翻し、かつどっしりとした安定感が伴う。
リヤには180サイズ55偏平のタイヤが装着され、ドライ路面で確かなグリップ力を披露し、直線安定はもちろん旋回時や、強大なパワーを加えてコーナーを立ち上がる時でも大きな安心感を覚えた。
エアロクィップホースを使用したブレンボ製トリプルディスクのブレーキ性能も一級。軽いタッチで鋭い効き込みが自由自在にコントロールできる。
そして決して見逃せないチャームポイントは、随所に見られる高価で希少なパーツをふんだんに組み込まれた贅沢な仕上がり。周囲から注目される逸材である事も間違いない。
ちなみに、いつもの様にローギヤでエンジンを5,000rpm回した時の速度は49km/h。6速トップギヤで50km/hクルージング時のエンジン回転数は1,750rpm(100km/h時換算で3,500rpm)だった。
いざと言う時に十二分のハイパフォーマンスを備えながら、気軽に転がす余裕綽々な乗り味は、気分転換に軽く近くを散策するのも良いし、快適性を求めるロングツーリングにも向いている。
はたまた休日には、コーヒーを片手にソフトクロスを持ってガレージで愛車を愛でる。細部まで磨き上げ、目を行き届かせる一時を過ごすのもまた楽しいと思えた。
足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)
シート高は780mm。ご覧の通り両足の踵は浮いているが、重い車体を支える上で足つき性に難は無い。全長や軸距は長いが跨るとスマートに感じられる。