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スズキ・KATANA……1,512,000円
KATANAについて書く時に、どうしても避けることができないのは、初代モデル登場時の事だろう。書けるお話は沢山あるが、少しだけ触れておこう。先ずはデザインが群を抜いて斬新だった。オリジナルは低く身構えるセパレートハンドルを採用。発売時(海外)にはクリアのミニカウルも標準装備。長いプロポーションを誇る先進のスーパースポーツだった。
世界最大の2輪車ショーだったケルンメッセで開催された1980年IFMAでGSX1100S KATANAは世界初公開。一大センセーションを巻き起こす。ホンダブースにはCX500ターボが初披露されて、どちらも黒山の人だかり。ただ一目瞭然の先進デザインを披露したKATANAの方が、観客の熱い視線を集めたのである。
過去にさかのぼるとウルフ90やRE-5など、スズキは時々市場を驚かすスーパーデザインの新製品を投入していただけに、「またやってくれたよ」!とスズキファンならずも素直に感嘆の声があがった。1982年には国内モデルのGSX750S KATANAが発売されたが、国内レギュレーションのせいで、セパハンは耕運機ハンドルと揶揄されたものに換装され、ミニスクリーンは無し。刺激的過ぎるという自主規制も呼んで、サイドカバーを飾った“刀”という飾り文字も廃止。ただ購入オーナーにはそのステッカーがそっと手渡されたのだ。
当時の話題を独占した注目モデルだったことは間違いなく、オリジナルモデルに憧れたファンは、1100S KATANAの購入を目指し、逆車(逆輸入車)ブームになった程なのである。
その後GSX750S KATANAは2代目へとフルモデルチェンジ、初代とは異なるさらに新鮮なデザインを採用。フロントにはリトラクタブル式ヘッドランプの標準装備でも話題を巻いた。だた、KATANAファンの多くがリスペクトしたのはあくまで初代モデルに対してであり、国内にも初代デザインのバリエーションモデルが投入されて息の長い人気を誇ったのである。
現代に蘇った新型KATANAは、まさにそんな初代のスタイリングをモチーフに開発されている。日本刀の鋭い切れ味をイメージしたラインで構成された「KANANA」の復活。初代よりもエッジのきいた、メリハリのあるデザインが印象深いが、どこから見ても初代KATANAのそれを彷彿とさせる。
当時を知る人にはまさに懐かしく、しかしモダンなスタイリングがとても魅力的に見えるのだ。
数十年ぶり、初代と同じ浜松へと向かった
試乗車を目の当たりにすると、どこから見てもKATANAその物。実はかつてベストバイク誌で国内初試乗を担当し浜松方面へツーリングに出かけた事を思い出し、今回も同方向へツーリングに出発した。その前に都心の市街地で試乗撮影もしたが、忘れていた独自の乗り味が改めて蘇ってきた。
それは人目を集める事。信号待ちで周囲の視線を感じる。横に並ぶクルマのドライバーがこちらを見てくる。道を横断する歩行者が首を振り向きながら通り過ぎる。なんだか自分が注目されているかの様な錯覚にとらわれる乗り味は、まさに初代モデルで体験した感覚と同じだった。
ターゲットデザインが手がけた初代KATANAはそれほどに斬新。まさに時代を先取りする革新的かつ魅力的なスタイルに仕上げられていた。周囲の人々を惹き付ける、まさに“デザインに力有り”という事実が肌で感じとれたのである。
ツーリング途中で休憩していると、近づいてくる人が多く、声を駆けられる事も。ある親子は、「昔乗っていたんですよ」と懐かしそう。別の人は購入を考えているとかで興味津々で食い入る用に新型KATANAを覗き込む。やはりスズキが誇る伝説の名車。その人気は今だに侮れないものだった。
初代の1100S KATANAはロングフォルムが印象的。豪快さと同時に手強いイメージもあったが、それと比較すると新型KATANAは、実に親しみやすい。パイプアップハンドルで上体の起きたライディングポジション。クラッチミートする時はアイドル回転が上昇し、ごく普通に乗りやすいからだ。若干シート高が高めで、アグレッシブなネイキッドスポーツという感じだ。
前方からの風が全身に注ぐ解放感と、1Lエンジンから発揮される有り余るハイパフォーマンスとても気持ち良い。鋭いブレーキ性能も含めて、走りたい速度が自由自在に制御でき、安全なスペースへの移動が容易。意のままに走れる感覚はまさにワクワクものである。
ローギヤで5000rpm回した時の速度は59km/h。トップ100㎞/hクルージング時のエンジン回転数は4250rpm強だった。また実測燃費率は都市部渋滞や撮影を含めて高速も走った最初の給油こそ17.4km/Lだったが、高速の早い流れで22.8km/L、普通の流れで23.5km/Lをマーク。600km走った平均で21km/Lだった。
ゆったり感覚のツアラー的な乗り味ではないが、何故か少しばかり気分が高揚したまま快適に走り続けることができ、次の休憩ポイントまでが近(早)く感じられたのが印象深い。
ツーリング当日は短時間で500kmの行程。そのワクワクがあったからこそ、楽しくアッと言う間に走り切れてしまった。右手の操作に対するレスポンスは良く、むしろ鋭いくらい。硬めなフットワークのサスペンションも含めて、少々ヤンチャな雰囲気も感じられたが、決してそれは嫌なポイントではなく、若々しい乗り味として魅力的であった。