イタリア語で雷鳴。アプリリア・トゥオーノ660の絶妙なハンンドリングに酔いしれる。

アプリリアのストリートファイター〝トゥオーノ〟シリーズに初のミドルモデルが加わった。新開発の659cc水冷並列2気筒を搭載するRS660をベースとし、ECUの変更のみで最高出力を100psから95psとし、2次減速比をショートレシオ化するなど、よりストリート向けの特性としている。電子制御システムについてもRS660にほぼ準じており、このミドルクラスでは稀少な贅を尽くしたネイキッドと言えるだろう。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
問い合わせ●ピアッジオグループジャパン(https://aprilia-japan.com/)

2021年6月8日に掲載した記事を再編集したものです。
価格やカラーバリエーションが現在とは異なる場合があります。

アプリリア・トゥオーノ660……1,309,000円

ネイキッド化によって車重は軽くなるのが一般的だが、トゥオーノ660の場合はRS660と同じ183kgを公称。これはヤマハ・MT-07と同じ値だ。
右のRS660をベースにネイキッド化したのがトゥオーノ660だ。車体色はコンセプトブラック(試乗車)、イリジウムグレー、アシッドゴールドの3種類。
こちらがベースとなったRS660。日本でのデリバリー開始はトゥオーノ660が2021年6月からなのに対し、RS660は1か月早い5月から。価格は1,397,000円。

600ccクラスのネイキッドでは頭一つ抜きん出た力強さを発揮

イタリア語で〝雷鳴〟を意味するトゥオーノ。スーパースポーツのRSV1000Rをベースとしたモデルがその始まりで、かつては50や125も存在したが、ミドルクラスにこの名が登場するのは今回が初となる。ベースとなっているのはRS660で、このスポーツモデルのパフォーマンスをアップライトな乗車姿勢で味わえるようにと、仕様変更は最小限となっている。270度位相クランクを採用する水冷パラツインのメカニカルな部分は共通であり、ECUのセッティングのみで最高出力を100psから95psへ。また、総合電子デバイスのAPRC(アプリリア・パフォーマンス・ライド・コントロール)についても、クイックシフターとマルチマップ・コーナリングABSを省略した程度で、RS660からほぼそのまま受け継いでいる。

まずは最も穏やかな設定のコミュートモードでスタートする。RS660でも確認しているのだが、このエンジンに採用されているライド・バイ・ワイヤーのセッティングは完璧と言えるもので、アイドリングのすぐ上、2,000rpm付近という低回転域でのクラッチミートでもぐずつくといった不自然さが一切ない。これは上り勾配の急な峠道のコーナリングでも同様で、シフトをサボって2,000rpm以下に落ちてしまってもググググッと加速する。エンストしないまでも、そうした予兆すら感じさせないのはビギナーにとって大きな安心材料であり、特筆すべき点だろう。

排気音の粒が揃い始めるのは4,000rpmあたりからで、スロットルレスポンスの穏やかなコミュートモードでも659ccとは思えないほどの力強さを感じる。ファイナルがショート化(歯数は不明)されているとのことだが、それによるRS660との差は明確には感じられない。だが、いずれにせよ市街地をキビキビと走れるのは事実であり、270度位相クランクが生む明瞭な蹴り出し感は街中の移動ですらライダーを高揚させてくれる。

タイトなワインディングロードに入ったところで、ダイナミックモードに切り替える。トラコン、エンブレ、エンジンマップ、ABSのレベルが1段階ずつ上がり、明らかにスロットルレスポンスがダイレクトになる。とはいえ、ライダーを慌てさせるほどではなく、標準のサスセッティングとの相性ならこちらの方が上だ。パワーの盛り上がり方はどこまでもフラットで扱いやすく、ギャップなどでリヤタイヤの荷重が抜けてもトラコンがさりげなくフォローしてくれる。RS660とは異なりクイックシフターがないのでクラッチ操作は必要だが、スリッパークラッチが導入されているのでレバー操作自体が軽く、特に不満は感じなかった。

ツインらしい明瞭な鼓動感や優れたトラクション性能、スリムさなどから、このエンジンはアドベンチャーモデルにも似合いそうだと思った。念のために検索したところ、何と2019年のEICMAにおいて〝TUAREG660〟という名のアドベンチャーが参考出品されており(ただしほとんどスタイリングが判別できない展示方法だった)、テスト車両のスクープ画像も確認できた。これは期待大だ。

ストリートファイターらしい切れ味鋭いハンドリングに酔う

ハンドリングは、まさにRS660のネイキッド版と表現できるもので、ヤマハ・MT-07やカワサキ・Z650、スズキ・SV650らの明確にイージーな操縦性とは一線を画す。奥が深いと表現できるもので、ただ流すだけなら扱いやすいエンジンの助けもあってビギナーでもそつなく乗れるが、スチールフレーム&正立式フォークのライバルとは次元の異なるシャシー剛性の高さから、さらに上のポテンシャルが透けて見えるのだ。

ベースとなったRS660のシャシーは、600cc4気筒のスーパースポーツと比べればしなやかと表現できるが、それをそのまま流用するトゥオーノ660は、同カテゴリーのネイキッドよりもあきらかに剛性が高い。このモデルの特異性がここにあるわけで、腕に覚えのあるライダーならタイトな峠道で切れ味鋭いハンドリングに酔えるはず。ただ、フロントフォークの仕様違い(ホイールトラベル量が10mm短く、調整機構を右のみとして簡略化)によるものなのか、それとも乗車姿勢の差に起因するのかは不明だが、荒れた路面の峠道ではRS660よりもバタバタと暴れやすい。前後サスともプリロードと伸び側減衰力が調整可能なので、オーナーになられた方はぜひセッティング変更を試してほしい。

ブレーキセットは前後ともRS660と共通で、コントロール性は非常に高い。マルチマップ・コーナリングABSこそ装備されていないが、スタンダードなABSでも介入レベルに不満はない。

600cc前後のカテゴリーはエントリークラス的な位置付けもあり、各メーカーがコストダウンに腐心しつつ魅力的なモデルを世に送り出している。そうした安いことが是とされる風潮に一石を投じたのがトゥオーノ660であり、最新のライダーアシストシステムを試してみたい、でもそれを採用する高額で重い大排気量車には手を出せない、という人にとっては唯一無二の選択と言えるだろう。


ライディングポジション&足着き性(175cm/64kg)

右のRS660と比べると上半身の前傾は緩やかだが、それでもフロントへ荷重を掛けやすいようにネイキッドとしてはハンドル位置が低めとなっている。シート高820mmやステップ位置はRS660と共通だ。
本格的なスーパースポーツよりもハンドル位置は高く、ロングツーリングからサーキット走行まで幅広くこなせそうな好バランスを見せる。両車とも足着き性は身長175cmの筆者でも両かかとが浮いてしまう。

ディテール解説

RS660と共通の659cc水冷DOHC4バルブ並列2気筒エンジン。270度位相クランクなどメカニカルなパーツは全て共通で、ECUのみでエンジン特性を変更している。ピボットレスのアルミツインスパーフレームも共通だ。
ステップはRS660がアルミのバーのみなのに対し、トゥオーノはラバー付きとなる。クイックシフターはオプションとなるため、リンケージにストロークセンサーはない。
KYB製のφ41mm倒立式フロントフォークは、アウターチューブがゴールドのRS660に対し、こちらはブラックとなる。また、プリロードと伸び側減衰力の調整機構が右側のみ(RS660は左右にあり)で、ホイールトラベル量が10mm短い110mmとなっているのも相違点だ。
前後のブレンボ製キャリパーなどブレーキセットはRS660と共通だが、6軸慣性プラットフォームによるマルチマップ・コーナリングABSはオプション設定となる。装着タイヤのピレリ・ディアブロロッソコルサⅡや、プリロードと伸び側減衰力の調整が可能なリヤショックなどはRS660と共通だ。
ブラックのテーパードハンドルバーを採用。ブレンボ製のラジアルポンプ式マスターシリンダーや左右スイッチボックスはRS660譲りだ。
4.3インチのカラーTFTメーターも共通。スマホとの接続を可能とするデバイス〝アプリリアMIA〟をオプションにて用意する。
RS660と共通デザインのフルLEDヘッドライト。左右のメインライトを囲うようにレイアウトされたDRL(デイタイムランニングランプ)が実に個性的だ。
リヤセクションはRS660と共通。すぐにサーキット走行に対応できるよう、ナンバーステーやタンデムステップがすぐに取り外せるように設計されている。

トゥオーノ660 主要諸元

エンジン:4ストローク水冷並列2気筒DOHC4バルブ
総排気量:659cc
ボア×ストローク:81mm×63.93mm
圧縮比:13.5:1
最高出力:95HP(70kW)/10,500rpm
最大トルク:67.0Nm(6.83kg-m)/8,500rpm
燃料供給方式:電子制御燃料噴射システム、φ48mmツインスロットルボディ、ライド・バイ・ワイヤ エンジンマネージメントシステム
点火方式:電子制御イグニッションシステム
潤滑方式:ウェットサンプ
始動方式:セルフ式
トランスミッション:6速(クイックシフトシステムをオプション設定)
クラッチ:機械式スリッパーシステム付湿式多板クラッチ
フレーム:ダブルビームアルミ製フレーム
サスペンション(F):KYB製テレスコピック倒立フォークφ41mm リバウンド、スプリングプリロードアジャスタブル ホイールトラベル110㎜
サスペンション(R):アルミニウム製スウィングアーム モノショックアブソーバー リバウンド、スプリングプリロードアジャスタブル ホイールトラベル130㎜
ブレーキ(F):320mm径デュアルディスク、ブレンボ製ラジアルマウント 32mm 4ピストンキャリパー、ラジアルマスターシリンダー、メタルメッシュホース
ブレーキ(R):220mm径ディスク、 ブレンボ製 34mm 2ピストン、メタルメッシュホース
ABS コーナリングABS機能をオプション設定
ホイール(F/R):(F)3.5J×17 (R)5.5J×17 軽量アルミホイール
タイヤ(F/R):チューブレス ラジアル Front:120/70ZR17 Rear:180/55ZR17
全長/全幅:1,995mm/745mm
ホイールベース:1,370mm
シート高:820mm
重量:
 装備重量:183kg
 乾燥重量:169kg
燃料タンク容量:15L
環境基準:Euro5
燃費:4.9litres/100km
Co2排出量:116g/km

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…