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大排気量バイクは振動が少ないことで疲れにくい
ロングツーリングの際に、大排気量モデルと小排気量モデルで差が出るのが、パワーと車両重量だ。まず、パワーについては、最高出力もさることながら、トルクが比較的太いことで違いが出る。
トルクが太いバイクの方が、例えば、市街地で信号待ちからの発進では、よりスムーズな加速ができるし、40km/hや50km/hなど、街乗りの常用速度への到達時間が短い。また、渋滞路や交通の流れが遅い時など、低速走行時に比較的高めのギヤで走れる場合もあり、シフトチェンジの回数も少なくすむことが多い。
つまり、大排気量バイクの方が、小排気量バイクと比べ、街乗りでも余裕を持って加速できたり、シフトペダルやクラッチレバーの操作回数が減るため、疲れにくいといえる。
また、高速道路など、直線路を同一速度で巡航する場合に、より低いエンジン回転数で走ることができ、振動が少ないことも大排気量バイクのメリットだ。長時間を走るロングツーリングでは、たとえ真っ直ぐを走るだけでも、より振動が多い小排気量バイク方が疲れやすい。
追い越し時の加速でも操作が少なくすむ
また、前を走るクルマなどを追い越す際も、小排気量バイクではギヤを2〜3段落として加速するシーンも多い。一方、大排気量バイクでは、速度や道の勾配などにもよるが、1000ccを超えるモデルなどでは、トップギヤや1段落としただけで加速できるケースも多々ある。やはり走行中にシフトペダルやクラッチレバーなどの操作回数が少なくすみ、ロングツーリング時の疲労軽減に貢献するのだ。
さらに、大排気量バイクは、車両重量が小排気量バイクよりも重いため、走行中の安定性は高い。特に、強めの横風が吹いている時は、軽いバイクの方があおられやすく、ヒヤリとするシーンさえある。対して、重い大排気量バイクの方が、風に対して強い傾向にあり、心理的な余裕も含め、結果的に疲れにくいことが多い。
スペックを比較してみると違いがより分かる
こうした大排気量バイクと小排気量バイクとの違いを、同一スタイルを持つ実際のモデルで比較してみよう。
例えば、ホンダの「レブル1100」と「レブル250」。いずれも、特に直線路などをゆったりとツーリングすることに適した「クルーザーモデル」と呼ばれるバイクだ。2台はスタイルこそ似ているものの、レブル1100が排気量1082cc・2気筒エンジンなのに対し、レブル250は249cc・単気筒を搭載する。
早速、2台のスペックを比較してみよう。
まず、レブル1100は、最高出力64kW(87ps)/7000rpm、最大トルク98N・m(10.0kgf-m)/4750rpm。車両重量は223〜233kgだ。
対するレブル250は、最高出力19kW(26ps)/9500rpm、最大トルク22N・m(2.2kgf-m)/7750rpm。車両重量は170〜171kgだ。
排気量が4.3倍以上あるだけに、レブル1100は、最高出力も約3.3倍、最大トルクは約4.5倍ある。しかも、いずれも発生回転数がレブル250より低い。
特に、トルクは、エンジン回転数が4750rpmのときに最大となり、最大トルク発生回転数7000rpmのレブル250よりかなり低い。そのため、例えば、高速道路の合流などで、速度を80〜100km/hに到達させる場合、より低い回転数で加速させることが可能だ。
また、同じ速度で巡航する場合も、エンジン回転数をより低くできる。前述の通り、エンジン回転数が低いバイクの方が車体に伝わる振動も少なく、疲れにくい。
加えて、車両重量も1.3倍以上あるレブル1100の方が、走行安定性という意味では比較的高い。もちろん、駐車場などでの取り回しではレブル250の方が扱いやすいが、一旦走り出してしまえば、レブル1100もハンドリングは軽快な方だし、直線路などでの安心感はより高いといえる。
なお、レブル250は足着き性の高さにも定評があるが、シート高は690mm。レブル1100のシート高は700mmだから、意外にあまり差がないことも注目点だ。
価格が高い分ツーリングに最適な装備が充実
もちろん、レブル1100は、価格(税込)が110万円〜121万円と、レブル250の59万9500円〜63万8000円に対し、2倍近く高い。ただし、その分、排気量やスペックだけでなく、ツーリングにも最適な装備がかなり充実している。
例えば、レブル1100には、高速道路などで設定した車速を一定に保つことが可能な「クルーズコントロール」を標準装備する。ロングツーリング時の高速巡航時に、頻繁なアクセル操作が不要なのだ。
また、ラインアップには、いわゆるAT(オートマチックトランスミッション)車である「DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)」仕様もある。この仕様であれば、発進から加減速、巡航まで、すべての走行でシフトペダルやクラッチレバーの操作が不要なことで、特に長距離のツーリングでは、ライダーの披露を軽減してくれる。
このように、大排気量バイク、特にツーリング向けのモデルは、パワーや重さといった元々の素性に加え、装備もかなり小排気量バイクと違ってくる。値段が高い分、快適性や利便性などもかなりいいのだ。
大排気量車といえども!フルカウルモデルは強風が苦手?
以上、ロングツーリングにおいて、大排気量バイクは、小排気量バイクと比べ、いかに疲労度の面で優位なのかを紹介してきた。だが、モデルの性格や装備、天候などの状況によっては、例外もたまにある。
例えば、筆者は、かつてスズキの2代目「ハヤブサ(正式名称GSX1300Rハヤブサ、2008年モデルのカナダ仕様)」を所有していたことがある。
ご存じの通り、ハヤブサは、排気量1339cc・4気筒エンジンを搭載し、最高速度300km/hを誇るメガスポーツとよばれるフルカウルモデルだ。世界中にファンを持つスズキのロングセラーで、現行モデルの3代目が2021年に発売されている。
2代目の装備重量は266kgで、駐車場などでの取り回しでは車体がかなり重い印象だった。だが、乗ってしまえば走りは軽快で、最高出力197psのスペックを活かし、高速道路の巡航などでは余裕の走りと抜群の直線安定性を発揮。また、ある程度の横風にも強かったことで、ロングツーリング時の快適性はかなり高いバイクだった。
ただし、春先など、かなり強い突風が吹くときに高速道路を走行したときは、ハヤブサの車体があおられて怖い思いをした経験がある。特に、関東のライダーなどにはおなじみの東京湾アクアラインは最悪だった。海ほたるPAと木更津を結ぶ海の上にかけられた橋(アクアブリッジ)では、風速10m/秒を超える強風が吹くときもあり、その際に海から押し寄せる横風はかなり強烈で、通行止めになることさえある。
筆者は、一度、そんな強風時にハヤブサを走らせたところ、いきなりの台風級(と感じるほど強烈な)横風にあおられ、片側2車線の隣の車線まで飛ばされそうになったことがある。そんな時、橫の車線にクルマが走っていたら、あやうく衝突するところだった。
その後は、あまりの恐怖からスピードを40〜50km/h程度に落とし、走行車線をそろりそろりと走らせることにした。心理的にはもちろん、飛ばされまいとハンドルに力を入れすぎたことで肉体的にもヘトヘトで、早く高速を降りたいと思いながら走行した。
すると、追い越し車線の後方から(モデルは忘れたが)250cc・単気筒のオフロードバイクが、なにくわぬ顔(に見えた)で、80km/h近い速度で筆者のハヤブサを抜いていった。筆者の愛車と比べ、絶対的なパワーで劣り、車両重量も軽いオフロードバイクに、なぜあれほどまで楽々と抜かれたのか? 通常時にはありえないことだ。
あくまで私見だが、おそらく理由は、2代目ハヤブサは全長2190mm、全高1170mmという大柄な車体と、フルカウル仕様だったことが禍(わざわい)したのではないかと思う。
特に、ハヤブサのカウリングは、現行モデルもそうだが、最高速度を高めるための空力特性を考慮した、文字通りフルカバード仕様だ。そのため、前から吹く走行風にはめっぽう強く、前傾姿勢となりヘルメットまでウインドスクリーンの中に潜れば、走行風はほとんど体に当たらない。
ところが、サイドカウルなどはにまるで隙間はなく、橫からきた風が抜ける箇所がない。しかも大柄なバイクだけに、横風を受ける面積も大きい。橫からみたときに隙間も多く、全高はあるが、風を受ける面積自体は小さい250ccのオフロードバイクと比べると、ハヤブサは横風の影響を受けやすいのではないかと思う。
フルカウルモデルが横風に弱いという話は、1000ccスーパースポーツなどのオーナーからもたまに聞くから、筆者の推測もあながち間違いではないだろう。そう考えると、同じ大排気量バイクでも、ネイキッドやアメリカンなどと比べると、フルカウル仕様のスポーツバイクは橫風には弱い傾向にあるといえるかもしれない。
いずれにしろ、小排気量バイクにも、車体が軽いことによる走りの軽快感や手が届きやすい価格など、いい点も多い。ただし、ロングツーリングでの疲労度という点では、多少例外はあるものの、大排気量バイクの方が快適であることだけは間違いないといえよう。