シグナス レイZRハイブリッド試乗記|インド生まれの激安系、なのにモーターアシストで加速力は水冷勢に迫る。|124ccスクーター

全国に62店舗を展開するイエローハットグループのバイク館が、海外生産の小排気量モデルおよそ20台を一堂に集め、メディア向けの試乗会を開催した。まず最初に紹介するのは、インドで生産されているヤマハのシグナス レイZRハイブリッドだ。エンジンはジョグ125やアクシスZなどに似た125cc空冷ブルーコアだが、SMG(スマートモータージェネレーター)が加速時に最大3秒間、5,500rpmまでアシストするという。果たしてその走りは?

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●バイク館イエローハット、三共自動車教習所

ヤマハ・シグナス レイ ZR ハイブリッド……219,000円

ヘッドライトはLEDで、同じくLEDのポジションランプをハンドル側にマウント。バイク館が取り扱うカラーリングはブルー、ブラック、イエロー、マットレッド、シアンブルーの5種類で、インド本国ではモンスターエナジーカラーや、フロントドラムブレーキ仕様、オフ車イメージの「ストリートラリー」も存在する。
こちらは国内の正規ラインナップにあるシグナス グリファス。可変バルブVVAやSMGを採用した124cc水冷ブルーコアエンジンは、アイドリングストップ非採用。最高出力は12ps/8,000rpmだ。ブレーキは前後ともディスクで、前後連動式のUBSを搭載。車両価格は35万7500円だ。

空冷エンジンとあなどることなかれ。実用域でしっかり速い!

最高出力は8.2ps/6500rpm、最大トルクはアシスト作動時で10.3Nm/5,000rpmだ。

伸長を続けるインドのスクーター市場。若い男性の人気を集めていた「シグナス レイZ」の後継として2016年に「シグナス レイZR(ジーアール)」が登場。このレイZRが2020年にフルモデルチェンジして「シグナス レイZRハイブリッド」へと進化した。

排気量113ccの空冷単気筒エンジンは、アクシスZやジョグ125と同じボア×ストローク(52.4×57.9mm)の125ccへ。注目すべきはハイブリッド機構で、ホンダのPCX e:HEVと同様にSMGが加速時に最大3秒間、5,500rpmまでアシストしてくれるのだ。インドの公式サイトによると、先代の113ccエンジン比で30~60km/hでのパワーが30%も向上したという。また、燃費の改善により航続距離は16%伸びている。

このハイブリッドシステム、PCX e:HEVのようにモーターアシスト用のリチウムイオンバッテリーを積んでおらず、電力供給は通常の鉛バッテリーで行っているのがポイント。排気量を拡大しながら113cc時代よりも車重が4kg軽く仕上がっているのは、こうした工夫が実を結んだ結果だろう。さらにアイドリングストップ機構まで採用するなど、メカニズム的にはシグナス グリファスと同等以上といっても過言ではない。

さて、今回の試乗会では、20台近く用意された車両を次から次へと乗り換えたため、乗る前に1台ずつの詳しい説明を受けることができなかった。ゆえに、この原付二種スクーターの素性について一切知らずにコースに出たのだが、およそ20分の試乗を終えるまで、水冷エンジンだと勘違いしていたほどには力強さが印象的だった。

具体的には、20~30km/h付近からスロットルを大きく開けたときの加速感が、アクシス125やJOG125よりも明らかに力強いのだ。この領域は街中で多用するだけに、通勤通学など一般道の移動ならその恩恵は大きいはずだ。SMGによるアシストは最大3秒とのことで、今回のコースにはそこまで開け続けられるストレートがなく、3秒を過ぎたらアシスト力が極端に落ちるのかどうかまでは未確認だが、市街地走行であれば26kg重いシグナス グリファスと同等の動力性能を発揮するだろう。


前後異径ホイールを採用。見た目の印象通りにスポーティだ

このシグナス レイZRハイブリッド、フロントに12インチ、リヤに10インチという前後異径ホイールを採用する。これは2022年10月に日本でも発売されたスズキのアドレス125やアヴェニス125と同じフォーマットであり、海外では主流になりつつあるようだ。

スタートしてまず感じるのは接地感の高さだ。押し引きで感じた軽さとは対照的に、微速域から切れ込んだりフラついたりといった軽薄な挙動は一切なく、車体の傾きに対してフロントタイヤがスムーズにコーナーの内側へ向く。自然と前輪荷重になるようなライディングポジションや、シグナス グリファスよりも60mm短いホイールベース、100kgを切る軽い車重、そして中速域が力強いエンジン特性などもあり、今回のようなタイトコースでは水を得た魚のようにスイスイと走り回ることができた。

ブレーキは、フロントにディスク、リヤにドラムを採用しており、左レバーで前後が連動するUBSを導入。ペースを上げると左レバーだけでは減速が足りなくなるが、その場合は右レバーの操作を加えればいいだけのこと。フロントのみでガツンと減速しても、フレームの剛性不足を感じることはなし。ハンドリングといい、ブレーキ性能といい、マキシス製の標準装着タイヤがいい仕事をしているのは間違いない。

アイドリングストップの作動に関しては特に不満はなく、またサイドスタンドのエンジンカットオフスイッチもあるに越したことはない安心装備の一つ。スマホとの連携機能までは時間の都合で試せなかったが、過去に同様のシステムをNMAXで試した際、非常に便利だと感じたことから、これもオーナーになられた方には積極的に使ってほしい。

これを執筆している2022年12月現在、ヤマハの国内正規ラインナップの原付二種スクーターで最も安いのは25万5200円のJOG125だが、このシグナス レイZRハイブリッドはそれを3万6200円も下回る21万9000円で販売されている。国内新車と同様の2年保証(距離無制限)が付帯するほか、1年または2年のオリジナル延長保証も用意。コストパフォーマンスは最強クラスといっても過言ではないので、気になる方はぜひ試乗を。


ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

シート高は785mmで、シグナス グリファスと同じ。アクシスZの770mm、ジョグ125の735mmよりも高いが、足着き性はご覧の通り良好だ。前傾したフロアボードと合わせ、前輪に荷重を掛けやすいスポーティなライポジが形成される。

ディテール解説

インドの最新排ガス規制BS-Ⅵをクリアした125cc空冷ブルーコアエンジン。SMG(スマートモータージェネレーター)によるハイブリッドシステム、アイドリングストップ機構、FIなど新しい技術を惜しみなく採用する一方で、始動方法はセル/キック併用式となっている。試乗車に装着されていたタイヤはマキシス製で、フロントはM6307、リヤはM6220だ。
フロントサスはユニットステアの正立式テレスコピックフォークで、ホイール径はフロント12インチ、リヤ10インチだ。ブレーキはフロントがディスク、リヤがドラムで、左レバーで前後が連動するUBSを導入。
シート下トランクの容量は21Lで、後方には給油口あり。バイク館では専用リヤキャリアを1万9800円で販売している(取付工賃別途)。
ヘッドライトとポジションランプ以外の灯火類はフィラメント球だ。パッシングスイッチや集中キー(シャッターなし)、コンビニフック、大型グラブバーなどを備えている。
フル液晶のスポーティなメーター。右側グリップ付近にはアイドリングストップのオンオフスイッチあり。専用アプリと連携するヤマハモーターサイクルコネクトXを搭載する。
試乗車のシート下トランクに収納されていたヤマハのファーストエイドキット。アクシデント時の応急処置用とはいえ、これだけのものが一つのパッケージに収められている。

シグナス レイ ZR ハイブリッド 主要諸元

全長/全幅/全高 1,880mm/685mm/1,190mm
シート高 785mm
軸間距離 1,280mm
最低地上高 145mm
車両重量 98kg
原動機種類 空冷・4ストローク・SOHC・2バルブ
気筒数配列 単気筒
ハイブリッド 装備
総排気量 125cc
内径×行程 52.4mm×57.9mm
圧縮比 10.2:1
最高出力 6.0kW(8.2ps)/6,500rpm
最大トルク(アシスト機能最大時) 10.3N・m(1.1kgf・m)/5,000rpm
始動方式 セルフ・キック併用式
ストップ&スタートシステム(SSS) 装備
スマートモータージェネレーター(SMG)システム 装備
燃料タンク容量 5.2L
吸気・燃料装置/燃料供給方式 フューエルインジェクション
点火方式 TCI(トランジスタ制御点火)
バッテリー容量/型式 12V、5.0Ah
変速装置/変速方式 Vベルト式無段変速/オートマチック
タイヤサイズ(前/後) 90/90-12(チューブレス)/110/90-10(チューブレス)
制動装置形式(前/後) φ190ディスク/ドラム
ユニファイドブレーキシステム(UBS) 装備
懸架方式(前/後) テレスコピック/ユニットスイング
ヘッドランプバルブ種類/ヘッドランプ LED
ブルートゥース(ヤマハモーターサイクルコネクトX) 装備
生産国 インド

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…