東京オートサロン会場で見つけたバイクねた|金属3DプリンターでCR110カブレーシング用エンジン部品を製作【東京オートサロン2023】

空冷4ストローク単気筒DOHC4バルブ49.99ccエンジンを搭載した市販レーサーのホンダ CR110カブレーシング。1962年(昭和37年)発売。
2023年1月13日(金)~1月15日(日)、千葉県・幕張メッセで開催中の東京オートサロン2023。株式会社NTTデータ ザムテクノロジーズ(XAM)のブースには、1962年(昭和37年)に登場した伝説の市販レーサー・ホンダCR110カブレーシングが展示。この車両には、最先端の金属3Dプリンターで製作されたエンジン用シリンダーを導入。レジェンドバイクを次世代へつなぐことに貢献する、最新の金属3Dプリンターに注目してみた。
PHOTO/REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)
XAM https://www.nttdata-xam.com/
金属3Dプリンターを使い、エンジンのシリンダー部分を製作。
完成したシリンダー。金属3Dプリンターは金属の粉末をレーザーで1層ずつ溶融し、固めて造形するシステム。
金属3Dプリンターを駆使して製作したシリンダーを組み込み済み。
金属3Dプリンターで製作されたシリンダーは、純正品と同等以上の強度や耐久性を確保。
廃版部品をデジタルデータ化して製作されたシリンダーは、見た目も純正部品と変わりなし。

もしも工作機械でワンオフのエンジンパーツを作ろうとしたならば……

ビンテージバイクは基本的に部品が廃版となっているため、補修部品は時間を割いて地道にネットオークション等で探すか、もしくは大金を支払ってワンオフ製作を依頼することになる。

昨今はビンテージバイクブームにより、“すでに役割を終えた”絶版バイクが驚くほどの高値で販売。「当時数十万円だったバイクが、何てウン百万円もするんだよ!」となげく人も多かろう。しかし部品調達が極めて困難な大昔のバイクを、正常に走行させるためには、我々が予測する以上にお金と時間を費やすもの(加えて技術力も)。それらが販売価格に反映されているわけだ

外装パーツや足周りパーツは、ボール盤や旋盤、フライス盤などの工作機械を使えば、何とか製作可能。しかし問題なのはエンジンパーツ。エンジンパーツは形状や構造が複雑なため、製造や加工が極めて困難。また一定以上の強度はもちろん、高熱による耐久性も必要だ。

仮にワンオフ製作するとなれば、綿密な設計図、NC旋盤などの高性能な工作機械、熟練した職人技が必須。仮に作ろうとしたならば、目が飛び出るほどの金額が掛かってしまうだろう。

廃版部品をデジタルデータ化。エンジンパーツも発売時の品質で製造可能

廃版となったビンテージモデルの部品調達を容易にしてくれるのが、最先端の金属3Dプリンター。使用不可となった部品をデジタルによってデータ化することにより、発売時のクオリティや強度を確保したパーツの製造が可能となる。

写真のホンダ CR110カブレーシングは、世界GP50ccクラス(現在は廃止)がスタートして間もない1962年5月、モータースポーツへの関心の高まりを背景に、レース初心者にも扱いやすい50ccクラスの市販レーサー。エンジンは空冷4ストローク単気筒DOHC4バルブで排気量は49.99cc。

発売から半世紀以上を経たCR110カブレーシングのパーツは、すべて廃版。今回展示された同車のシリンダーは、ドイツのEOS社が開発した金属3Dプリンター「EOS M 290」を駆使して製作。素材には「AISi10Mg」という金属が採用されている。

金属3Dプリンター今後、自動車やバイクの試作品や、ワンオフパーツ製作の定番となることが予測される。

金属3Dプリンター「EOS M 290」のココがポイントです!

金属3Dプリンターを使って製作されたエンジン部品。

EOS M 290は、金属の粉末をレーザーで1層ずつ溶融し、固めて造形する金属3Dプリンター。金属素材を使い、3Dデータのみでダイレクトに製品を造形することが可能だ。高い精度・解像度に加え、表面品質にも優れていて、高密度・機械特性が高いのがポイント。EOS M 290の造形可能サイズは、250mm×250mm×325mm。

EOS M 290には400Wのファイバーレーザーが搭載されており、フォーカス径を小さくすることで高い再現性が獲得でき、複雑な部品の造形もOK。様々な金属に対応しており、部品の金型や最終製品の製作まで可能。工作機械での政策に比べ、生産効率のアップやコストダウンを実現してくれる。

EOS M290は試作品はもちろん、最終製品としての製造用途としても使えるので、商品開発にかかるコストを大幅に削減。量産製品はもちろん、多品種の少量生産製品の需要にも対応。莫大な費用をかけることなく、様々な製品の製作が可能となっている。

今回ブース出展したXAMは現在、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)と協力し、ロケットエンジンの製造など、金属3Dプリンターを使った宇宙事業も展開中だ。

金属3Dプリンターを使って製作されたエンジンのピストン。
株式会社NTTデータ ザムテクノロジーズ(XAM)のブース。

49ccながらDOHC4バルブ搭載の名車「ホンダ CR110カブレーシング」

1962年(昭和37年)に発売された市販レーサー・ホンダ CR110カブレーシング。
現存するCR110カブレーシングはごくごくわずか。中古車市場はもちろん、ネットオークションなどでお目にかかることはまずない。
1962年当時の販売価格は17万円。50ccのバイクとしては破格値だったため、多くの若者にとってCR110カブレーシングは「雑誌やサーキットで見るだけの憧れのマシン」だった。
「精密機械」と呼ばれた空冷4ストローク単気筒DOHC4バルブ49.99ccエンジン。シリンダーヘッドカバーは「ミッキーマウス」とも呼ばれる。クラッチは乾式。
最高出力は8.5ps/13,500rpm、最大トルクは0.46kgm/11,500rpm、最高速度は130km/h以上。
超高回転域でパワーを稼ぐ、超ピーキーなエンジン特性。タコメーターは1万6000rpmまで表示。なおパワーバンドは1万4400~1万5000rpmという驚愕の狭さ。ミッションは8速。

国内外で販売されたCR110カブレーシングは、多くのプライベーターたちに愛用され、数々のレーサーを育てた伝説のマシン。エンジンは空冷4ストローク単気筒。排気量49.99cc(110の名称はメーカーの開発番号)ながら、DOHC4バルブに設計されているのがポイントだ。

同車はワークスレーサー「RC110」をベースに開発。世界GPのデビュー戦となった6月のマン島TTレースでは、2ストエンジンを搭載した並みいる強豪を相手に9位に入賞。国内デビューとなる7月の第5回全日本モーターサイクルクラブマンレースでは優勝を果たした。

CR110カブレーシングに“カブ”の名称が与えられたのは、ホンダの50ccの代名詞=カブだったこと。また、クランクケースがスポーツカブC110の横型エンジンがベースであったことが理由。

1962年当時の販売価格は17万円。なお、1960年発売のスポーツカブC110は5万8000円。50ccのバイクとしては破格値だったため、多くの若者にとってCR110カブレーシングは“雑誌やサーキットで見るだけの憧れのマシン”だった。

CR110カブレーシングには初期型、中期型、後期型が存在するが、生産台数はすべて合わせて、わずか246台(メーカー発表値)。そのため、現存するCR110カブレーシングはごくごくわずか。中古車市場はもちろん、ネットオークションなどでお目にかかることはまずない。

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