バイクに水素エンジンを!6社が共同研究する取り組み、HySE(ハイス)発足

広島で開催されたG7サミット開幕の二日前、2023年7月17日に「HySE」(ハイス)設立に関する報道関係者説明会が東京で開催された。記者会見は、「水素小型モビリティ・エンジン研究組合」発足についての概要を知らせる内容だった。

PHOTO & REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
取材協力●本田技研工業株式会社、カワサキモータース株式会社、スズキ株式会社、ヤマハ発動機株式会社。
目指すは持続可能な社会。カーボンニュートラルへの取り組みを示す新展開。名称の由来はこのフリップで示す通り。

記者会見には国内の2輪関係4社の重鎮が顔を揃えた。冒頭の写真は左から順に、日高祥博(ヤマハ発動機代表取締役社長)、伊藤浩(カワサキモータース代表取締役社長執行役員)、鈴木俊宏(スズキ代表取締役社長)、塚本飛佳留(本田技研工業執行職二輪パワープロダクツ開発生産統括部長)のご歴々。簡単に言うと、ライバル関係にある各社の垣根を取り外し、強力な協力関係のもとで基礎研究を行おうというもの。その研究対象は、水素を燃料とする内燃機関、つまり水素エンジンのこと。特に小型モビリティ用のパワーユニットに的を絞った研究が行われ、バイクや汎用エンジンに活用するためのベースとなる技術を培おうというものだ。
下のフリップで示すように、各社はそれぞれに役割を持ちつつ連携して取り組む。なお別の関連企業や大学研究室の参画にも対応する構え。エンジンの構造自体は既存の物がベースになるだろうが、従来の内燃機関とは引火(着火)性や燃焼速度が大きく異なり、発熱や水素ガスの供給(吸気)、水分の混入が懸念される潤滑ノウハウにも、今後の研究成果がものを言う。バイクに搭載する上で、燃料補給の手段等、実用面での課題クリアも期待される。
現時点では、技術研究組合設立の申請が、この5月に経済産業省より認可を取得したばかり。具体的な活動はこれからスタートし、区切りとして5年を目処に実用化への成果披露を目指すと言う。カーボンニュートラルへの取り組みの名の下のに、グローバルではモビリティの電動化一辺倒への動きが目立っていたが、今回の水素小型モビリティ・エンジンにおける各社の技術連携は、実のところ目指すアプローチが多岐に及ぶ「マルチパスウェイ」(多様な選択肢)があることへの具体的なアピールのひとつになるだろう。翌18日には日本自動車工業会も記者会見を開き、G7サミット開催に向けて「カーボンニュートラルにも、多様性を」というメッセージを訴求。
昨今、エンジン開発は中止されるという話題が取り沙汰されていたが、日本は「マルチパスウェイ」で対応していき、水素エンジン開発もその中のひとつとしているわけである。「HySE(ハイス)の動向と今後の研究成果に期待したい。

カーボンニュートラルを目指す取り組みはひとつじゃない。

CN社会の実現手段は、何もクルマやバイクの電動化だけではない。つまり敵は炭素であり、エンジンではないという判断がそこにある。
これまで既に多くのノウハウを持つエンジン技術。ガソリンにかわって水素燃料に代替することへの可能性を探る。
組織及び組合員の役割は、「水素エンジン研究」と水素燃料の「充填システム研究」がメインとなる。
CN達成手段のひとつとして、水素利活用の拡大を担う。バイクを始め小型モビリティへの普及促進を想定。
小型モビリティならではの課題をクリアする技術研究は、スピーディな革新と展開への貢献が期待される。
各社の得意分野も考慮した役割分担の他、大学等の連携も視野に入れられている。
ガソリンとは燃焼制御が異なる。そして燃料タンクも高圧化が必須。充填(燃料供給)インフラ整備につても課題がある。
基礎技術が確立すれば、各メーカーそれぞれの商品開発がスタートすると考えられている。
小型モビリティ用エンジン活用班員は、二輪車だけにあらず。ニーズは多岐に及ぶ。
正組合員の4社に加え、既に高い技術知見を持つトヨタ自動車と川崎重工業が特別組合員として参画している。

登壇者全員で記念撮影。左端から順に水素小型モビリティ・エンジン研究組合理事候補の古谷昌志(本田技研工業)、同じく理事候補の田中強(スズキ)、副理事長候補の松田義基(カワサキモータース)、理事長候補の小松賢二(ヤマハ発動機)。(敬称略)

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…