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白バイの警察官が言った「原付が30km/h以上出したら危ないでしょ」は本当か?
社会情勢が大きく変化し、原付(原動機付自転車)の排気量制限が50cc以下から125cc(4kW)以下に改正予定(2023年12月現在)。しかしいまだに変わることなく生き続ける規則がある。それは原付の“時速30km/h制限”。
「交通の流れに乗れないから危険」
「30km/hで走る原付は、クルマにとって“走る障害物”以外の何物でもない」
等々、この法律は原付ライダーはもちろん、ドライバーからも迷惑がられることがしばしば。
速度超過して白バイに検挙されている原付をよく見かける。実は筆者も原付を運転中、速度超過で捕まった経験あり。その時、白バイの警官に言われた言葉は、
「交通違反ですよ。原付が30km/h以上出したら危ないでしょ」
前半分は職務に忠実な、実に模範的な意見。しかし後ろ半分の太字部分を聞き、筆者はこう思った。
「30km/hで走ってると、どんどん追い抜かれるから怖いんだけど?」
白バイ警官と同様、国(警察庁)は親身になって!?(かどうかは知らないけれど)、我々の身の安全を考えてくれているのだろうか? 余談だが、同じ“自転車”でも、都市部で頻繁に目撃するロード自転車は、目測だがおそらく原付の30km/hよりも確実に速い、40km/h以上のスピードで走っている。
白バイ警官が言った「原付が30km/h以上出したら危ないでしょ」を身をもって確かめるべく、原付に乗り30km/hで一般公道を走行してみた。
原付での“30km/h以下”での走行は、恐怖と危険の連続……
比較的交通量の多い片側1車線・時速40km/h制限の道路を、時速30km/hキープで走行。車線が狭いためか、早くも自動車がギリギリまで横の間隔を詰め、次々に追い抜いていく。しかも40km/h+αのスピードで。
もっとも恐怖を感じたのは、トラックやダンプカー。車幅が広いということもあるのだろう。どの車両も、ギリギリの間隔で追い抜いていく。体験した人は知っているだろうが、これは大袈裟ではなく、本当に怖い。
速度差が大きいのも影響しているのだろう。「接触して車輪に巻き込まれたら一巻の終わり」という怖さはもちろん、追い抜かれた瞬間、強烈な突風に見舞われ、ハンドルをとられそうになる。走行からわずか10分。早くも30km/hで走ることに恐怖を感じる。
今度はかなり交通量の多い、片側2車線・時速50km/h制限の道路に突入。片側2車線の幹線道路は、片側1車線よりも車の流れが速いのが特徴(60km/h前後)。左車線の左隅っこを申し訳なく走行中、突如タクシーによる強引な割り込み(進路妨害)に遭遇。おいおい、いくら乗客獲得のためとはいえ、アブねーだろ!
四苦八苦しながらも左車線をキープ。間もなく路面に白い「直進&左折」の表示を確認。40km/h+αで走る四輪車の死角に入らぬよう注意しながら直進する。すると突然、右後方から一気に加速してきた高級外車が、筆者の進路を遮るように左折。アブナイ!
次は片側2車線のアンダーパスに突入。追い越し禁止のため、30km/hで走る筆者の後続は数珠つなぎの状態に。本当に申し訳ない気分……。
アンダーパスを無事通過。追い越し禁止区域が解除され、右側からは後方で数珠つなぎになっていたクルマ達が、物凄い勢いで筆者を抜き去っていく。加えて左側からは、アンダーパス上の側道から合流してくる四輪車が、「原チャリは邪魔だ!」と言わんばかりに合流。左右からかなり強引に追い抜かれ、後ろからは煽られ、まさに針のむしろ状態。
片側2車線から片側1車線の道路に。時折ミラーで後続車の有無を確認。後続車が近付いてきたところで、道路左端によって進路を譲ってあげる。30km/h巡行から“身を守る”ためには、これが一番だと感じるが……。
多くの道路は雨水の撥水性を良くするため、道路の端を斜めに傾斜。つまりこの手の道路の左端を走る原付は、傾斜に逆らって直進という状態。この場合、原付は「左側に振られやすい」というリスクを負う。
「原付は本来、自転車なのだ。だから30km/h走行が当然である」という方は、一度身をもって原付での30km/h走行を体験してみて欲しい。筆者が危険と言っている理由が伝わるはずだ。
原付の30km/h制限は時代遅れと言われる理由
道路交通法によって定められている原付の30km/h制限は、1960年(昭和35年6月)に施行。原付の正式名称は、原動機付き自転車。原動機とはエンジンを指す。
その語源だと思われる代表的な車両は、ホンダ・カブF号。“自転車オートバイ”とも呼ばれたこのモデルは、1952年(昭和27年)に発売。全国の新規販売網を1万5000店まで拡大し、大ヒットした。
見ての通り、ベース車両はそのまんまのレトロな実用自転車。ブレーキもフレームも自転車そのもので、タイヤも極細。加えて当時の道路事情は、まだまだ舗装路は少なく、凸凹した未舗装路は当たり前。
この車両&当時の道路状況では、30km/hで制限するのは納得できる。しかしそれから60年以上が経った現代は、バイクの性能やポテンシャル、また道路環境も、当時とは比較にならないほど向上した。こういったことから、「原付の30km/h制限は、時代にマッチしていない規則」であると筆者は考えている。
クルマから見た原付は煩わしい存在?
クルマを運転する人にとって重要な“車幅感覚”。「自分の運転する車両の左右両端が、どのあたりにあるか」という感覚だ。
ガードレールなどのような止まった状態の障害物を避ける感覚は、ある程度走っていると慣れてくる。しかし走行中の原付など、動きが読みにくい物に関しては、ベテランのドライバーであっても案外つかみづらく、追い越しに難儀する。
「前の原チャリが遅すぎる!」「もっと左に寄ってくれないと追い越せない」とイライラした経験は、自動車を運転する人なら一度はあるはず。
もっとも恐ろしいのは、ドライバーのそのイライラやストレスが、“怒り”となること。強引な追い抜きや幅寄せなどで、ライダーに嫌がらせをする悪質なドライバーも存在。最悪の場合は、ライダーに危害を加えることもある(最近はテレビや新聞でも、煽り運転等に関する事例が多数報道)。
原付の30km/h制限(特に交通量の激しい道路)は、ライダーには恐怖と危険を。ドライバーには多大なストレスを与えていると筆者は考える。
(第2回に続く)