『CMF』ってどんなもの? ユーザーの購買意欲に直結する重要要素 【CMFデザインシリーズ Vol.1】

SUZUKI eWX Concept
【CMFデザインシリーズ Vol.1】
近年格段に重要度が上がっているCMFデザイン。エクステリア/インテリアのスタイリング同様に大切なデザイン開発である。CMFDesignerの齋藤優子氏がCMFの世界をシリーズで解説する。まずは、そもそも「CMFとはどんなもの?」について、である。

CMFとは

CMFというものはクルマの内外スタイリングと同様に大切なデザイン開発です。

いうまでもなく、色や素材・質感は、第一印象のインパクトが強く、ユーザーの購買意欲に直結しています。例えばZ世代の若者は、新しいものを見たとき、それが欲しいと思うかの取捨選択は数秒で決めているようです。ユーザーには心に響くものかどうかが決まるのは秒速だったりするのです。 

そこにはCMFが大きく影響しているといえます。

Color(色)/Material(素材)/Finish(表面加工などの仕上げ)のそれぞれの頭文字をとったこの言葉が、自動車のみならず、デザイン業界全般で一般的に使用されるようになったのは、この10年くらいでしょうか。

「カラー&マテリアル」「カラー&トリム※」とも呼ばれるこの分野は、ボディカラーおよび外装部品の色・仕上げから、内装全体をとりまくパーツ、大雑把にいえばインパネ&ステアリング、操作するスイッチ類や表示系、ドア、シート、フロア、ルーフなどの色と素材、質感、表面を覆うテクスチャーまで、内装外装すべての色と素材のコーディネートを取り仕切るデザイン開発です。 CMFは、クルマ1台の世界観を作り上げると言っても良いほど重要な役割を持っています。カーデザインといえばスタイリング、というとらえ方が一般的ですが、良いスタイリングは適切なCMFとのバランスで成り立っているといってもいいくらい。CMFの果たす役割はますます大切になってきていると感じています。

※トリムとは:車室内のすべての表面を覆う内張り部品や装飾品をこう呼びます。室内の見栄えや風合いを良くするだけではなく、居住室内の広さ感、遮音や遮熱といった快適性、とともに衝突時の安全性の向上の役割も持っています。

独自性を輝かせるために

特に顕著なのはインテリアの造形でしょう。

デジタルディスプレイの登場でコックピットは大幅にシンプルになり、居住空間がより広く感じるようになりました。パワーユニットのEV化が進むと、今後はフロアも凹凸が減り広いフラット面が期待できます。フロアやルーフトリム、建物の内部でいうところの壁や床が広々として、スッキリとするでしょう。

車両クラスのカテゴリーは異なっても、こういった技術的な理由で、空間の構成は各社傾向が似てきているように感じています。そんな空間を、制約も多いなかで、その車両の独自性を輝かせるのに必要なのが、CMFデザインなのです。

LEXUS LF-ZL Concept
SUZUKI eWX Concept

自分の家や部屋では、床壁の色や、家具・生地などの素材にこだわるように、クルマだって色や素材のコーディネートはユーザー自身の好みに合うタイプを選びたいと思うもの。ただ、クルマという制約の多いプロダクトでは、そういうふうにはなかなか作れません。でも、クルマ自体の内装空間に変化が生じている今、CMFコーディネートへの広がりが出てくると期待しています。実際に、ここ何年かで発表されてきた車たちのCMF表現には目を見張るものがあります。外装のスタイリングのみならず、インテリアデザインとCMFへの注目度はかなり上がっていると感じています。

意識の変化のなかで

TOYOTA Crown sedan
TOYOTA FT-3e

一方、エクステリアにおいても、EV化によりスタイリングデザインが大きく変化しています。例えばフロントフェイスはグリルレスが増加し、クルマを特徴づけるフェイスデザインの幅がぐっと広がりました。その結果、その造形コンセプトを強調する素材、色艶、テクスチャーまで、CMFデザインでのさらなる個性的な表現が可能になりました。デザインの変革のひとつだと思います。

VOLVO EX30
HONDA SUSTINA-Concept

そして昨今もうひとつCMFに加わった大切な要素が、サステナビリティの取り組みです。

次世代は、循環型製品としてのクルマが求められるようになります。デザイン的な美しさやカッコよさとともに、環境への配慮がなされていなければなりません。アニマルフリー、再生可能、サーキュレーション可能な素材を内外装にどう取り込むか。このサステナビリティの表現も、所有する人の心をくすぐる新しいクルマの価値になりました。

自動車を含むモビリティのCMFデザインは、これからますます面白くなってくると思っています。

自動車メーカーだけでなく、先進技術が駆使された色や素材・加工を扱うサプライヤーの活躍も目が離せません。もちろん、動きの速い世の中のトレンドの背景もCMFに大きく影響しています。

私が感じる今のCMFの世界を、少しでもお伝えできたらと思っています。

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著者プロフィール

齋藤 優子 近影

齋藤 優子

CMFデザイナー
多摩美術大学プロダクトデザイン科卒業
家庭用品のデザイン開発、文具・オフィス家具・店…