20周年を迎えたポルシェ カイエンを2代目中心に振り返る

過剰なまでにスポーツカー寄りのSUV「カイエン」その進化は2代目から始まった? 当時の関係者のコメントをもとに再考

電子制御システムの開発を進めたことで、E2カイエンのダイナミクス性能は大幅に向上した。
電子制御システムの開発を進めたことで、E2カイエンのダイナミクス性能は大幅に向上した。
カイエンが登場してから早20年が過ぎようとしていている。フォルクスワーゲン トゥアレグとの姉妹車という位置づけからスタートし、今やポルシェの屋台骨にまで成長したカイエンの功績と工夫を2代目(タイプ958)を中心に振り返ってみよう。

SUVをスポーティにする方法

2代目カイエンGTSはSUVセグメントのスポーツカーというに相応しい性能を持っていた。
2代目カイエンGTSはSUVセグメントのスポーツカーというに相応しい性能を持っていた。

20年前、ポルシェ初のSUVとして登場したカイエン。守旧派のポルシェファンは堕落だと断じたが、ポルシェ自身はすぐに、カイエンなしのラインナップは難しいと感じるようになった。初代カイエンの人気は、ポルシェの予想をはるかに上回るものだったのだ。

しかし、2010年に発売された第2世代(社内呼称E2)の設計者は、初代カイエンと同じ課題に直面していた。初代同様にフォルクスワーゲン トゥアレグと同じプラットフォームであるため、デザインの選択肢は当初限られていたのだ。

2004年からデザインを担当したミヒャエル・マウアーは、2005年に後継モデルたるE2の開発が開始された時、初代カイエンの特性を維持するだけではなく、特にデザインとドライブトレインを根本的に変更させた。「2代目カイエンは初代が成功したおかげで、デザインの自由度が少しだけ増していました」とマウアーは振り返る。

独自性を与えたフライラインと低い座面高

インテリアでは、E2カイエンに独自のデザインを採用することが許された。
インテリアでは、E2カイエンに独自のデザインを採用することが許された。

カイエンならではのオリジナリティを与える、様々な変更作業を行うことができることはその後に重要な影響を与えた。ドアパネルはそのままだがサイドウインドウを変更し、ドアミラーをウインドウ前端からフロントドアのショルダー部に移動し、よりダイナミックなエクステリアを作り出した。

リヤサイドウインドウはドアの後ろに引き込まれるようにして、カイエンのルーフスポイラーをさらに後方に延長させた。そしてテールライトをやや高く配置し、Dピラーをより傾斜させた。その結果、(ポルシェではフライラインと呼ぶという)ルーフラインが後方に傾斜させることができ、停車時でも速く見えるように工夫したのだという。

マウアーは、インテリアにも多くの手を加えることができたという。決定的なのはE2はE1よりも座面高を低くできたということだ。低い着座位置はスポーツカーメーカーというブランドアイデンティティを醸成した。さらに、当時登場したばかりのパナメーラのセンターコンソールが、フロントに向けて上昇するデザインを採用していたが、パナメーラと同様のセンターコンソールデザインにできたという。

同時にE2カイエンは、中央にレブカウンターを配置するメーターパネルを採用し、おなじみのポルシェスタイルにすることができた。ステアリングホイールもアイコニックなスポーツカー、911と似た形状とした。マウアーはカスタマーの心理を慮って言った。「ガレージに911とカイエンを所有しているカスタマーにとって、乗り替えた際の違和感はもはや存在しません」

オンロードでの俊敏性とオフロードでの信頼性

E2ではトランスファーケースやローレンジギアを使用せずとも、E1と同じオフロード能力を実現しつつ、大幅な軽量化を達成できたという。
E2ではトランスファーケースやローレンジギアを使用せずとも、E1と同じオフロード能力を実現しつつ、大幅な軽量化を達成できたという。

E2カイエンでは、新たな技術的方向性を示した。たとえば、初代カイエンを最高のオフロード車のひとつにしたローレンジを廃止しつつも、同時にポルシェに期待されるパフォーマンスを発揮させたのだ。開発者として最初から関与し、現在全モデルのプロジェクトマネージャーを務めるオリバー・ラクアは、トランスファーケースについての議論をはっきりと覚えているという。

「電子制御システムの開発を進めたことで、制御の質の高さと速さが大きく進歩しました。その結果、E2ではトランスファーケースやローレンジギアを使用せずとも、E1と同じオフロード能力を実現しつつ、大幅な軽量化を達成することができました」

ポルシェ・トラクション・マネージメント(PTM)を備えた新しい制御システムを備える全輪駆動と組み合わせた8速ATを採用したことで、新型カイエンはオンロードでの俊敏性とオフロードでの信頼性を実現したという。

また、PTMを採用したことで、プロペラ・シャフトとフロント・アクスルも軽量化できたという。トランスファーケースを廃止したことと相まって、E2カイエンは重量をドライブトレインだけで33kgも軽量化できた。他にも随所に軽量化が施されており、テールゲートはウイングと同様に完全にアルミニウム製で重量は初代カイエンの半分になった。

量産に入った最初のハイブリッド ポルシェ

ポルシェ初の量産ハイブリッドモデルがカイエン ハイブリッドだ。モーターによるパワーサプリ、エネルギー回生、コースティング走行によって、スポーティで効率的なドライビングが可能となった。
ポルシェ初の量産ハイブリッドモデルがカイエン ハイブリッドだ。モーターによるパワーサプリ、エネルギー回生、コースティング走行によって、スポーティで効率的なドライビングが可能となった。

新しいエンジンとトランスミッション、そして、この一貫した軽量構造によって燃費が大幅に改善された。サーマルコントロールや燃料カットオフ、アイドルストップなど様々な機能のおかげだが、最大の貢献は新開発のATだった。220kW(300ps)を発揮する3.6リッターV6エンジンを搭載するエントリーモデルの場合、燃費(NEDC)が6速MTでは11.2リッター/100kmなのに対して、8速ATでは9.9リッター/100kmと約20%も低減できた。

中でもカイエンディーゼル180kW(245ps)と並んで、最も経済的なのは279kW(380ps)のカイエンSハイブリッドだった。ポルシェにとって最初の量産ハイブリッド モデルの燃費は8.2リッター/100kmだった。なおEVモードでの最高速は60km/hだった。モーターによるパワーサプリ、エネルギー回生、コースティング走行によって、スポーティで効率的なドライビングが可能となった。

これらの改良はカスタマーから高く評価され、その結果、2010年から2017年の間に、ライプツィヒ工場で組み立てられた生産台数は53万5903台に達する。E2カイエンは初代となるE1と比較して、ほぼ2倍生産されたことになる。ポルシェの屋台骨となった今、現行型も重要な存在なのは言うまでもない。

今回新型となったレンジローバーと比較するのは、カジュアルな4X4の始祖ワゴニアの直系といえるグランドチェロキー。そして生粋のスポーツカーブランド、ポルシェの新たな挑戦として世に投じられたカイエンである。

最新SUVを豪華比較試乗! レンジローバー×グランドチェロキー×カイエンの一見異なる3台はそれぞれSUVにとって重要なプライドがあった

圧倒的な質感とこれぞラグジュアリーSUVのお手本たる走行性能を実現した新型レンジローバー。対するは新興ハイパフォーマンスSUVの代表と言えるカイエンの最強グレード、そして本格的な悪路走破性も備えたアメリカンラグジュアリーSUVの2台だ。果たして新型レンジローバーとライバルたちはどんな競演を魅せてくれたのか。

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著者プロフィール

ゲンロクWeb編集部 近影

ゲンロクWeb編集部

スーパーカー&ラグジュアリーマガジン『GENROQ』のウェブ版ということで、本誌の流れを汲みつつも、若干…