Bentley
Continental GT/GTC
Flying Spur
Bentayga
最新モデルの強心臓は最大トルク1000Nm
ベントレーのW型12気筒エンジンは、2024年4月をもって生産が終了した。そのW12がいかに孤高の存在だったとしても、現代とは、これまでとは次元の違う環境性能が要求される時代であり、その中でW12はその役割をまっとうした……というほかない。W12エンジンは、「スピード」と呼ばれる最も高性能なスポーツベントレーの代名詞でもあった。だから、W12の生産終了が伝えられると、世界のエンスージァストが「スポーツベントレーはどうなる?」と不安に駆られたであろうことは想像に難くない。
しかし、ベントレーは当然のごとく、W12にかわる新しいフラッグシップパワートレインを準備していた。それが、24年6月に新型コンチネンタルGT/GTCとともに世に出た「ウルトラパフォーマンスハイブリッド(以下、UPH)」である。
ベントレーUPHの核となるのは、新設計の4.0リッターV8ツインターボで、これ単体でも最高出力600PS、最大トルク800Nmと従来のV8を上回る性能を発揮する。そこに切れ味と高効率が特徴の8速DCTと190PS/450NmのEモーター、電子制御AWDシステム、そして外部充電可能な25.9kWhのリチウムイオン電池を組み合わせたのがUPH=新しいスポーツベントレーの心臓部というわけである。




ベントレーはUPHの電動部分を「エレクトロチャージャー」と呼ぶが、それはハイブリッドを単なるエコの道具にしない……というベントレーの哲学の現れでもある。実際、UPHのシステム最高出力は782PS、同最大トルクにいたっては大台の1000Nmに到達。それは前身といえるW12の性能を123PS/100Nmも凌駕するもので、例えばコンチネンタルGT同士の比較でいうと、0-100km/h加速は3.6秒から3.2秒まで短縮している(最高速はともに335km/h)。
しかも、UPHはプラグインハイブリッドでもあり、ボディ後部の床下に搭載されるリチウムイオン電池が満充電であれば、80km前後のEV走行が可能という。ガレージに充電設備をもつオーナーなら、ウィークデイはガソリンを一滴も使わず、エンジンサウンドともあえて無縁の生活を送ることも可能だ。
かたやあのW12を凌駕するすさまじい動力性能を発揮しつつ、一方ではスマートなEV生活も両立する新時代のベントレーは、スポーツとラグジュアリーの完璧なる二刀流という夢をかなえてくれるのだ。
ハイブリッド化で前後重量配分が改善
Continental GT Speed
Continental GTC Speed

ベントレーがウルトラパフォーマンスハイブリッド(UPH)という新世代パワートレインを世に問う際のパートナーとして選ばれたのが、新型コンチネンタルGT/GTCスピードである。ベントレーは新時代のパワートレインのために、クルマから丸ごと刷新した。
初代コンチネンタルGTが2002年にデビューしてから、ベントレーの年間生産規模は、4年あまりで1000台前後から1万台以上まで拡大した。コンチネンタルGTはベントレーを復活させた立役者だ。現在はSUVのベンテイガの販売台数がベントレー全体の4割以上を占めるというが、いやいやコンチネンタルGT(GTCも含む)のシェアもそれに次ぐ約3割。SUV全盛となっても、ベントレーの基本形はやはりコンチネンタルGTといっていい。
新しいコンチネンタルGT/GTCは、ホイールベースなどの基本的なディメンション、優美なクーペスタイル、インテリアの基本レイアウトなどは従来の3代目を踏襲するが、コンポーネンツの68%が刷新されており、ベントレー自身はこれを4代目と定義する。従来のベントレーを強く印象づけていた丸目4灯ヘッドライトは、左右2灯のシングルライトとなり、これが新世代ベントレーであることを強く主張する。


そんな新型コンチネンタルGT/GTCスピードの新しさは、デザインやパワートレインだけではない。新型デュアルバルブダンパーとデュアルチャンバーエアスプリングを組み合わせたサスペンションもまったく新しい。そこにアクティブAWDや四輪操舵、電子制御LSD、48Vアクティブアンチロールコントロールといった熟成の電子制御技術を惜しみなく組み合わせている。
新型コンチネンタルGT/GTCの走りは圧巻だ。電池残量があるうちは、コンチネンタルGT/GTCは基本的にEVとして走る。アクセル開度75%以下で最高140km/hまではEV走行可能というのだから、こういうときにV8ツインターボが出る幕はほぼない。新しいサスペンションによる乗り心地も路上を滑るかのごときで、全身がウルトラスムーズな味わいに満たされる。
また、こういうときソフトトップのGTCは、従来型だと路面からの突き上げが少しだけ気になったものだが、新開発サスペンションに加えてボディ剛性も大きく向上した新型は、トップを上げて無意識でいるとGTCであることを忘れるほど、GTとの差が縮まっている。




しかし、新世代スポーツベントレーの真骨頂は、ワインディングに踏み入れて、エンジンがフル稼働するスポーツモードに設定してこそ。UPHは瞬間的に気が遠のくほどのキック力を見舞いつつ、モーターをうまく活用して、変速ショックもほぼない異次元の滑らかさを披露する。
W12時代のGT/GTCスピードと比較すると車重は明確に増えているが、ハイブリッドシステムをバランスよく配置したことで、前後重量配分はフロントヘビーから“ちょっとだけリヤヘビー”に大きく改善している。こんな豪奢なクーペがまるでミドルスポーツカーのように自在に操れるのは、高度なシャシー技術に加えて、理想的な重量配分の恩恵も大きいとみて間違いない。
スポーツとラグジュアリーを両立する理想的なパワートレイン
Flying Spur Speed

新世代スポーツベントレー第一弾の新型コンチネンタルGT/GTCスピードの約1ヵ月遅れで、同じく世代交代したのがフライングスパーである。新型フライングスパーもコンチネンタルGT/GTC同様、782PS、1000Nmのシステム最高出力、同最大トルクを発揮するウルトラパフォーマンスハイブリッド(UPH)を積むスピードからのデビューとなる。
新型フライングスパーもまた、ボディサイズやプロポーション、インテリアといった基本設計を先代から踏襲しつつ、メカニカルコンポーネンツの大半を刷新している。ただ、これまでにない楕円2灯ヘッドライトで新世代感を押し出すコンチネンタルGTに対して、フライングスパーはあえて伝統の丸目4灯を守る。それは、フライングスパーが格式を重んじるフォーマルな場に乗りつけることもあるサルーンだからか。

フライングスパーはコンチネンタルGTよりホイールベースが約340mm長く、同じUPH搭載のスピード同士で比較すると、車重は200kg弱重い。それゆえ、すべての走行制御をデフォルトのBモードに合わせたフライングスパーは、コンチネンタルGTよりさらに重厚で落ち着いた所作で走る。
伸び側と縮み側の減衰力を個別に調整できる新型ツインバルブダンパーと、新開発のダブルチャンバーエアスプリングの組み合わせによって、先代でも文句の付けようがなかった乗り心地には、新たにまるでシルクのような温かみのある滑らかさが加わっている。さらに、低負荷時には無音かつ滑るようなEV走行となるUPHは、フォーマルな場所にもうってつけのメカニズムといっていい。
そんなフライングスパーも、ドライブモードをスポーツに切り替えてアクセルペダルを深く踏み込めば、そこいらのスーパースポーツカーも圧倒する猛烈なダッシュ力を披露する。3.5秒という0-100km/h加速タイムは、W12エンジンを積んでいた従来のフライングスパー・スピードより実に0.5秒も速い。
フライングスパーのクルマとしての機動性は、コンチネンタルGTより明らかにゆったりしたものとなるのは前記のとおり。しかし、最新鋭のサスペンションに加えて、ロールを最小限に抑制するアクティブアンチロールコントロールや、「低速で逆位相、高速で同位相」となるリヤステアリングなどの相乗効果で、その気になって走らせたときのフライングスパーは、その体躯から想像しづらいほど俊敏な旋回性能を見せる。そして高速域になると、今度はまるで見えないレールの存在があるかのように、ピタリと安定したライントレース能力を披露するのだ。




世界最高のラグジュアリーサルーンの1台であるフライングスパーといえども、1919年の創業時からモータースポーツ活動に勤しんだベントレーの、スポーツカーブランドとしての出自は隠せない。いわば“ジキルとハイド”とも形容すべきスポーツとラグジュアリーという二面性こそベントレーの本質だとすれば、圧倒的な静粛性と滑らかさ、そして伝統のW12をも凌ぐスピードを両立させたUPHは、ベントレーが創業105年目でたどり着いた理想のパワートレインかもしれない。
カーボンパーツでスポーティに彩る「スタイリング・スペシフィケーション」


フライングスパーにはエクステリアをよりスポーティに彩るオプション「スタイリング・スペシフィケーション -カーボン」が用意される。これを選択するとフロントスプリッター、サイドスカート、ディフューザーがカーボン製になるとともに、トランクリッドにリップスポイラーが追加。精悍さを増すとともに空力性能を改善する。
アナログ的な息吹が宿っている
Bentayga S Black Edition V8

ラグジュアリーSUVという、前例のない新種として2015年に生まれたベンテイガは、その後20年に大幅にアップデートされた2代目へと進化して今にいたる。そのトップスポーツモデルといえば、こちらも昨年までW12エンジンを積んでいた「スピード」だった。
24年のW12エンジンの生産終了を受け、コンチネンタルGT系とフライングスパーのスピードが新たに「ウルトラパフォーマンスハイブリッド(UPH)」を搭載したのは別項にもあるとおり。しかし、もともとの骨格設計からこれらとは別物のベンテイガ・スピードが選んだ道は、それとは少し違う。25年6月に世界初公開された新型ベンテイガ・スピードは、純粋な4.0リッターV8ツインターボ車として登場した。
その650PSという最高出力、850Nmの最大トルクは、ともにベントレー史上最もパワフルで、先代にあたるW12エンジンのスピード(635PS)を上回る。そして、0-100km/h加速は3.6秒(従来型ベンテイガ・スピードは3.9秒)、最高速もついにSUV世界最高クラスの310km/h(同306km/h)に到達してみせた。
もっとも、本国でベールを脱いだばかりの新型ベンテイガ・スピードは今回の取材には間に合わず、今回はスピードの次にスポーティな「S」、しかもビビッドな色遣いが逆に不敵さを醸し出す「ブラックエディション」を連れ出した。その4.0リッターV8ツインターボのチューンは新型スピードよりは控えめだが、最高出力550PS、最大トルク770Nm、トップスピード290km/hという絶対的な動力性能は、SUVとしては世界最高レベル。それこそ新型ベンテイガ・スピードと並べて比較でもしなければ、不足を感じるはずもない。

V8ツインターボにモーターを組み合わせたUPHのスピード感が、わずかに非現実的なオーラを漂わせるとすれば、純粋な内燃機関となるベンテイガSは、V8ツインターボに威圧され続ける徹底したリアル感が魅力である。ドライブモードを「スポーツ」に設定したベンテイガSに、UPHとは異なる(純内燃機関の宿命でもある)わずかなラグと変速ショックが感じ取れてしまうのも否定はしない。しかし、逆にいえば、そうしたアナログ的な息吹こそが、スポーツカーやスポーティカーで伝統的に尊ばれてきた味わいでもある。






ベンテイガのシャシーには、新型コンチネンタルGT/GTCやフライングスパーで新登場したデュアルバルブダンパーやツインチャンバーエアスプリングは備わらない。しかし、ベンテイガはベンテイガで、電子制御ダンパーにエアサス、アンチロールシステムなどを組み合わせた「ベントレーダイナミックライド」を標準装備する。デフォルトの「Bモード」ではあくまでジェントルにふるまい、スポーツモードでは、まるで低重心のスポーツカーを思わせる高い機動力を披露する二面性は、やはりベントレーというほかない。
近年は、ベンテイガが常にベストセリングベントレーであり、ベントレー全体の4割以上を安定して占める。その意味では、SUVとラグジュアリー、そしてスポーツを高度に融合したベンテイガこそ、現代スポーツベントレーの典型といえる。
REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/篠原晃一(Kouichi SHINOHARA)
MAGAZINE/GENROQ 2025年9月号
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SPECIFICATIONS
ベントレー・コンチネンタルGTスピード
ボディサイズ:全長4895 全幅1966 全高1397mm
ホイールベース:2851mm
車両重量:2459kg
パワートレイン:V型8気筒DOHCツインターボ+Eモーター
エンジン
総排気量:3996cc
最高出力:441kW(600PS)/6000rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2000-4500rpm
モーター
最高出力:140kW(190PS)
最大トルク:450Nm(45.9kgm)
ハイブリッドシステム総合
最高出力:575kW(782PS)
最大トルク:1000Nm(102.0kgm)
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35ZR22 後315/30ZR22
最高速度:335km/h
0-100km/h加速:3.2秒
車両本体価格:3930万3000円
ベントレー・コンチネンタルGTCスピード
ボディサイズ:全長4895 全幅1966 全高1392mm
ホイールベース:2848mm
車両重量:2636kg
パワートレイン:V型8気筒DOHCツインターボ+Eモーター
エンジン
総排気量:3996cc
最高出力:441kW(600PS)/6000rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2000-4500rpm
モーター
最高出力:140kW(190PS)
最大トルク:450Nm(45.9kgm)
ハイブリッドシステム総合
最高出力:575kW(782PS)
最大トルク:1000Nm(102.0kgm)
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35ZR22 後315/30ZR22
最高速度:285km/h
0-100km/h加速:3.4秒
車両本体価格:4312万円
ベントレー・フライングスパー・スピード
ボディサイズ:全長5316 全幅1988 全高1474mm
ホイールベース:3194mm
車両重量:2646kg
パワートレイン:V型8気筒DOHCツインターボ+Eモーター
エンジン
総排気量:3996cc
最高出力:441kW(600PS)/6000rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2000-4500rpm
モーター
最高出力:140kW(190PS)
最大トルク:450Nm(45.9kgm)
ハイブリッドシステム総合
最高出力:575kW(782PS)
最大トルク:1000Nm(102.0kgm)
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35ZR22 後315/30ZR22
最高速度:285km/h
0-100km/h加速:3.5秒
車両本体価格:3379万2000円
ベントレー・ベンテイガSブラックエディションV8
ボディサイズ:全長5144 全幅2010 全高1728mm
ホイールベース:2995mm
車両重量:2416kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3996cc
最高出力:404kW(550PS)/5750-6000rpm
最大トルク:770Nm(78.6kgm)/2000-4500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後285/40ZR22
最高速度:290km/h
0-100km/h加速:4.5秒
車両本体価格:3486万円
【問い合わせ】
ベントレーコール
TEL 0120-97-7797
https://www.bentleymotors.jp/
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