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プロドライバーからの貴重なアドバイス
2023年シーズンの「BMW & MINI Racing」は、6ラウンド12レースを日本各地のサーキットで開催。BMW M2 CS レーシング、MINI JCW、MINI クーパーSという3つの車両クラスが存在し、シーズン2度目の富士開催となった第5ラウンドには、21台のエントリーが集まった。
大阪を拠点とする「TECH-M Racing」は、BMW M2 CS レーシングでBMW & MINI Racingに参戦。チームを率いる25号車の水元寛規(みずもと・ひろのり)をはじめ、50号車の神頭政志(しんどう・まさし)、70号車の片山剛(かたやま・つよし)と、今回も3台体制を敷く。前回のスポーツランドSUGOで表彰台を逃した水元だったが、シーズン2度目の富士スピードウェイを前にB.o.P.の足枷が取れ、フルパワーの450PS仕様でハイスピードコースに挑むことになる。
今回のレースを前に、チームはスーパーGTやスーパー耐久に参戦するレーシングドライバーの神晴也選手からドライビングに関するアドバイスを受けたという。「ここまで4ラウンドを戦ってきて、神頭選手と片山選手は、それぞれが大きく成長しました。今回、プロドライバーの神選手からアドバイスを頂いたことで、チーム全体が予選に向けてブラッシュアップできたと感じています」と、水元は振り返った。
迎えた10月7日の予選、水元は4周目に1分49秒653を叩き出し、ポールポジションを獲得。さらに神頭も1分50秒569という好タイムをマークし、3番グリッドを確保した。ただ、片山は燃料系のトラブルにより思ったようなアタックができず、1分55秒538の10番手に沈んでしまう。
「今回の予選はタイヤの美味しいところを使うため、4周目にアタックしようと決めていました。神頭選手は素晴らしいタイムで走ってくれましたね。片山選手はトラブルが残念でしたが、さらに良いタイムで走れる可能性は見せてくれました。今回、ふたりは練習走行においてニュータイヤを使うことができなかったんですが、神選手が『ユーズドタイヤで思うようにいかなかったことも、ニュータイヤを使う予選本番ならば、必ず上手くいくはず』と言ってくれました。プロが言うならばと、ふたりは自信を持ってアタックすることができたようです」
神頭が待望の3位表彰台フィニッシュ
10月8日、午前10時から行われた第8戦決勝レース。予選2番手の石井一輝が素晴らしい蹴り出しで、ホールショットを奪う。さらに3番手グリッドからスタートした神頭が2番手で続き、水元は3番手にポジションを下げてしまう。それでも水元は焦ることなく、1周目の2コーナーで落ち着いて神頭をパス。後方からチャンスを狙い、4周目のGRコーナーで石井選手がアンダーステアが出した隙をついて、トップに立った。
「レースは何が起こるか分かりません。赤旗やセーフティカー導入で終わってしまう可能性があります。だからこそ、できるだけ早い段階で前のポジションを獲っておく必要ある。レース序盤、石井選手の後ろを走っている時に『ここで遊んでいる場合じゃない!』と思い出しました。前に出た後とは、余裕を持って走れましたね」と水元。
その言葉通り、トップに立ってからは落ち着いたペースで走り、シーズン6勝目。さらに神頭も3位を守り切り、待望の表彰台フィニッシュを果たした。余裕を見せて勝ち切った水元だが、レース中は後ろを走る神頭のことを考え、気が気ではなかったという。
「ある意味、僕自身は勝って当たり前のレースでした。ただ、レース中盤以降は3番手を走行する神頭選手のことが気になって仕方がなかったです(笑)。正直、僕が勝ったことよりも、神頭選手が3位に入ったことの方が嬉しかったです。シーズン中ずっと、3人で表彰台に上りたいと言い続けてきましたから……」
8番グリッドからスタートした片山は着実にポジションアップを果たし、レース終盤には5番手へと浮上。さらに4番手をも狙える可能性があった。ただ「BMW & MINI Racing」は2レース目にリバースグリッドが採用されるため、あえて片山は6位でレースを終えた。
「片山選手は下位からのスタートとなりましたが、素晴らしいレーススピードを見せてくれましたね。4位が狙えるポジションでしたが、次のレースを考えて6位でのフィニッシュを選択しました。このレースでは久々に僕が優勝できましたし、神頭選手は3位表彰台、片山選手は次戦ポールポジションという最高の結果になりました。チームとしてもすべてが計算通りに進み、満足度の高いレースでしたね」と、水元は笑顔を見せた。
最終戦を残して水元がタイトル2連覇を決める
第9戦の結果を受けて、第10戦のポールポジションは片山。神頭は4番グリッド、水元は6番グリッドからのスタートとなった。午後に入り、富士スピードウェイ周辺は予報どおり雨が降り始める。フルウェットコンディションで、16時05分から第10戦決勝レースの火蓋が切って落とされた。
好スタートを決めた水元は1周目に3番手へと浮上。ポールスタートの片山はトップで1コーナーをクリアするが、今回初参戦を果たしたプロドライバーの加納政樹が僅差で迫っており、1周目の13コーナーでパスされてしまう。走り慣れないウエットの富士で無理はできなかったようだ。
「片山選手のようなアマチュアドライバーにとって、やはりウエットコンディションは怖いものです。しかも、後ろから経験豊富なプロの加納選手が迫ってくると、簡単にはいきません。ウエットではパワー差も相殺されますし、今回の結果を見ても低いパワーで走るプロドライバーが強さを見せましたよね」と、水元は指摘する。
水元は序盤に片山をパスすると、トップを走行する加納を3周目のストレートでオーバテイク。そのまま、ウエット路面でも安定したラップを刻み、後続に7秒以上の大差をつけてシーズン7勝目を飾った。片山が6位、神頭は8位で難しいコンディションを走り切った。
「レースを振り返ると、片山選手がよく頑張っていて。ラスト2周までは、経験豊富な山西(康司)選手や石井選手を従えて、4番手集団の先頭をキープしていました。慣れない雨のなかで本当によく頑張りました。後ろに速いドライバーたちがいて、ミスなく走り続けるのは簡単じゃありせん。今回の富士は1レース目は神頭選手、2レース目は片山選手がMVP。ふたりともドライとウエットを最後まで走りましたから、計り知れない経験を持ち帰れたはずです」
また、水元は第10戦目フィニッシュ時点でタイトルが確定。最終戦を残して2年連続のチャンピオンが決まった。
「まずはタイトルを決められてホッとしています。プロレーサーが数多く参戦したシリーズで、10戦中7勝は上出来です。今年は『タイトルを2連覇』と目標に挑んできたので、念願がかなって良かったです。大好きな鈴鹿で開催される最終戦、プレッシャーなく思い切り楽しめるのも嬉しいですね。F1サポートレースでは悔しいレースになりましたし、自分の実力を思い切り発揮して勝ちたいと思っています」
「BMW & MINI Racing」は、シリーズ全戦を、公式Youtubeチャンネルでライブ配信中。富士スピードウェイで開催された第5ラウンドは、決勝レース2戦がアーカイブスとして公開されている。ぜひ、白熱の戦いをチェックしてほしい。