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現代自動車グループは「ヒョンデ」ブランドで再上陸。山本晋也はお隣の国からやってきた電気自動車に未来を見た。
2022年上半期の、日本の自動車マーケットにおけるトピックスとして忘れられないのは現代(ヒュンダイ)自動車の日本再参入でしょう。もちろん、観光バスのカテゴリーではヒュンダイの知名度と実績は十分なものでしたが、13年ぶりに乗用車マーケットに再チャレンジするということ、あわせて日本法人の名前をヒョンデモビリティジャパンにあらためたことは大いに話題となりました。
さらに日本に導入するのは燃料電池車のネッソと、電気自動車のアイオニック5だけに絞り、ゼロエミッションの電動ブランドとして新生ヒョンデを位置づけるというアプローチも、戦略的に気になるところです。
個人的にはクルマの電動化における最大のポイントは、過去のブランド価値をリセットして、新たなブランディングを仕掛けやすい部分だと感じています。逆にエンジン車時代からのブランド価値を引き継ぐことはマイナスになる面も否めません。だからこそ、トヨタはbZ、VWはID.という電動車専用のサブブランドを立ち上げているわけです。
つまり、現代自動車がヒョンデとリ・ブランディングをして、ゼロエミッション車に絞って日本に再上陸を果たすというのは非常に理にかなっているといえます。
ご存知のようにHYUNDAIとKIAという2大ブランドを軸にした現代自動車グループは、世界の自動車市場でいえばトップ5(トヨタ・VWグループ・ルノー日産三菱・GM・ステランティス)を虎視眈々と狙う大メーカーです。日本の乗用車市場からは撤退したという経緯もありますが、世界では売れているというわけで、ヒョンデの電気自動車がどのような乗り味なのか興味津々での試乗となりました。
アイオニック5の日本向けローカライズは高レベル
ヒョンデ・アイオニック5のコクピットに座り、最初に驚いたのはウインカーレバーがコラム右側についていることでした。輸入車が右ハンドルでも左側にウインカーレバーを置いているのはISO(国際規格)に則っているからであって仕方がない、という主張もありますが、日本で販売するクルマについては市場が求める右ウインカーレバー仕様にすることに問題はありません。ISOを盾にローカライズを仕切れていないことを言い訳するのではなく、しっかりと日本仕様を作り込んできたことに本気であることを感じたのでした。
一事が万事という言葉もありますが、当然ながらウインカーレバーだけがローカライズされているのではありません。ナビゲーションの地図データとリンクしたスマートクルーズコントロール機能も備えています。ナビゲーションも使いやすいもので、時間をかけて日本仕様を作り込んできた様子がうかがえます。
日本の乗用車市場に復帰した最初のモデルから、これほどの完成度であればこの先においてもどんどんとレベルアップしていくだろうと想像できるところで、ゼロエミッション専門ブランドとして「ヒョンデ」を育てていけば、とくに自動車に興味がない層にも十分に受け入れられると感じられます。とくにスマートフォンの世界においては韓国系のサムソンなどは一大勢力となっていますので、デジタルネイティブ世代との親和性も高そうという印象も受けたのです。
国産車とは違うヒョンデの目指す世界はワカモノ向けか
ヒョンデ・アイオニック5については、その走りもデジタルネイティブ世代にマッチしていそうなフィーリングと感じたことも印象に残るポイントです。
筆者は運転歴30年を超える50歳代なのですが、おそらく同世代のクルマ好きにとっては「クルマとの対話」がしやすいかどうかは評価ファクターのひとつになっていることでしょう。各種ペダルやハンドル操作に対するクルマの挙動や、ハンドルやシートからのフィードバックを重視している人が多いのではないかと思います。それが市場ニーズとして欠かせないものとなり、国産の電気自動車は、そうした部分でもエンジン車と変わらないフィーリングを守っていることが多い印象もあります。
しかしヒョンデ・アイオニック5のドライブフィールは、そうした価値観とは微妙に異なるものでした。ハンドル操作に対するレスポンスは優れているのですが、そこに対話感は薄く、むしろハンドルコントローラーによってゲームの中でクルマを走らせているような感覚もありました。しかし、それはネガになるとはいえません。
むしろデジタル的なフィーリングが、デジタルネイティブ世代に受け入れられることを意識したセッティングだとすれば、走り味からも新しいブランド価値が生まれる可能性大だからです。
デジタルピクセルとアナログ感性を掛け合わせた「パラメトリックピクセル」が、アイオニック5のスタイリングにおけるグランドコンセプトということですが、走りとスタイルの統一性という点からは、デジタル的なドライビング感覚は高評価すべきという感想を持ちました。
2022年上半期の段階で成否を評価するのではなく、数年後にブランド戦略を振り返るためにも、ヒョンデ・アイオニック5の仕上がり具合は強く覚えておきたいとあらためて思うのです。