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いま、自動車業界はCASEとMaaSに脅かされている【牧野茂雄の自動業界車鳥瞰図】

  • 2019/12/19
  • Motor Fan illustrated編集部
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少しずつ前に進む技術は、一見したところまったく差別化されていないような小さな部品にこそ見られる。杉浦製作所が開発したピーリングナット(写真)は、ボルトに塗料が付着していても3ヵ所の溝で塗料を剥がしながら締結する。通常は焼付き防止のためボルトにマスキングを施してから塗装するが、その必要がない。以前、本誌で紹介したイワタボルトの「ねじ山かじり」を自動的に防ぐAPボルトもそうだが、当たり前のようで当たり前でない部品に日本のアイデアと技術が生きている。

第46回東京モーターショー(TMS)は会場分散という変則的開催だった。
東京オリンピック/パラリンピック開催のために、会場のビッグサイトが「半分しか使えない」状態だったためだ。
挽回策として他業種とのコラボや屋外展示も行なわれたが、目に楽しく心に響くものは少なかった。

 漠然とした未来が寄り集まっても、身近な未来には感じられない。「自動車」を見たかった来場者は決して少なくなかったのでは、と思う。6日間通っても気分の晴れないTMSだった。

 いま、自動車業界はCASEとMaaSに脅かされている。自発的とは言い難い。外圧である。C=コネクテッド(走行中のクルマが外部の情報ネットワークとつながること)、A=オートノマス(自動運転)、S=シェアリング(カーシェアやライドシェアなど新しいモビリティサービス)、E=エレクトリフィケーション(クルマの電動化)の4つでCASE。日本語ではない。

 MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)は「マイカー以外のすべての交通手段をシームレスにつないで一体化させることでマイカーと同等以上の価値を提供する」という趣旨であり、利用者に提供されるサービスとしての移動手段とでも訳すべきか。フィンランドでは「ニーズに合わせてパッケージ化し定額で提供する」ことがMaaSだと言っている。

 だから何なの?

 GPS(グローバル・ポジショニング・システム)を使った市販カーナビはパイオニアが世界で初めて実用化した。これに音声案内を付加したのはアイシン精機だった。さらにVICSのような外部データを取り込んだり走行中の車両から地上局がデータを吸い上げるシステムが出現し、カーナビのデジタル地図を車両制御の参考にする協調プログラムまである。これはすでに立派なコネクテッドだ。

 現在のテーマは5G(第5世代)移動体通信規格をどう活用するかであり、これが「クルマの運行に革命的な変化をもたらす」といわれている。通信機器などの業界にしてみれば、自動車はガタイが大きいから「機能てんこ盛りにできる」と映る。だから躍起になっている。同時に積極的な交通管制を行ないたい行政側も大いに首を突っ込んでいる。クルマほど「規制」に乗せやすい耐久消費財はないから、だろう。

 自動運転のための機能はADAS(アドバンスド・ドライバー・アシスタンス・システム=先進運転支援機能)として小出しに実用化されてきた。車速・車間距離を管理するための前後方向(駆動・制動)の制御と、車線内にとどまるための左右方向の制御を合体させ、あとは自車周囲の状況がわかれば「ヒト抜き」運転は可能。問題は、周囲の交通状況などから「どこをどう走るか」の認知判断であり、そのためにセンサー類とAI(人工知能)が要る。この分野の関連企業が躍起になり、期待値の高さから資金が集まっている。日本も競争に加わっている。

 最大の問題は、ヒトが運転に関わっていないときに発生した事故の責任がどこにあるか、だ。これは賠償とセットであり保険業界が絡む。人身・対物の賠償だけでなく自車の現状復帰も保険の対象だ。保険料率はどうなるだろう。

 電動化は、日本では1997年に初代プリウスが発売されたときにすでに始まっている。実用に耐えうるHEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル=複合電動動力車)はトヨタが産んだ。バスでは蓄圧式(HHP=ハイブリッド・ハイドローリック・パワーとでも言うべきか)という方式も存在したが、現在は電動に一本化された。HEVに外部充電機能を加えればプラグイン(P)HEVになり、電池を目一杯積んでエンジンを下ろせばBEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル=電池式電動車)である。

 最初に実用化された、鉛酸2次電池ではない先進電池搭載の「現代的電動車」はHEVだった。LiB(リチウムイオン2次電池)が自動車に搭載されるのはその後であり、筆者は電動化の中心はHEVだと考える。その派生がPHEVとBEVだ。そして現在はHEVの選択肢がどんどん増え、1モーター2クラッチ、2モーターあるいは3モーター、スターターモーターによる発進補助機能などじつに多彩になった。

 つまり、日本ではCASEのうち「C」と「E」は現実であり、「A」も要素技術はすでに揃っている。いま、世の中で起きているのは「いままでよりも速い変化」にすぎず、その変化の加加速度部分を切り取って「革命だ!」と勝手に結論づける扇動に思える。「100年に一度」と言えばセンセーショナルだが、実態は技術者諸氏が過去からひとつずつ積み上げてきた技術が足場であり、飛び道具など存在しない。

 CASEの中の「S」、シェアリングは、なにが新しいのか疑問だ。筆者の目には「短時間レンタカー」「カタチを変えたハイヤーとタクシー」「好意ではなく有料の予約ヒッチハイク」である。日本での不便はタクシー配車アプリがないことだけで、諸外国との比較ではタクシーは充分キレイだし運転手のマナーもいい。「カーシェアが普及すると都市に駐車場が要らなくなる。土地の有効利用につながる」と言う方もいらっしゃるが、人が集まるから都市なのであり、人が集まる魅力を提供するのが都市の役割だと考えると、駐車場がなくなった時点で都市は廃れるのでは、と筆者は思う。「だから国家が介入する」と言われれば、なるほど。

 MaaSはと問われれば、毎日使っているスマホアプリ「NAVITIME」が充分これに値する。定額である必要性は感じないし、定額料金の算定は必ず不公平感を生む。地方の公共交通機関でもJR東日本のSuica(スイカ)を使えるから自身の行動圏ではほぼ不便は感じない。そして、公共交通の営業時間を気にせず移動できるマイカーこそMaaSの中心だと思う。

 CASEもMaaSも、それほど慌てる必要はないし、導入することを自己目的とすべきでもない。脅迫されてやる必要もない。必要ならやればいい。ただし、日本の自動車産業は地元市場日本だけでは生きていけないから、世界標準なり地域標準なりに敏感でなければならないのはわかる。準備は必要だ。もし日本が何らかのデファクトスタンダードを握れるならば、たしかにそれは大きな武器になる。

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