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内燃機関超基礎講座 | 欧州が過給ダウンサイジングに向かった本当の理由。TSIの生みの親に訊く

  • 2020/10/15
  • Motor Fan illustrated編集部
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ヨーロッパのエンジン開発は、いまどうなっているのか。ヨーロッパは「過給ダウンサイジング」へ向かうのか。エンジン・エンジニアとディスカッションをするために、Dr.畑村がドイツを訪ねた。訪問先は、過給ダウンサイジングの総本山、フォルクスワーゲンである。欧州が過給ダウンサイジングに向かう本当の理由を解き明かす。
TEXT:畑村耕一(Dr.Koichi HATAMURA/畑村エンジン研究事務所)
*本記事は2011年10月に執筆したものです

2011年9月の終わりに、フォルクスワーゲンのふるさと、ビートルが生まれたウォルフスブルク市の本社を訪ねた。迎えてくれたのは、TSIエンジンの開発責任者であるヘルマン・ミッデンドルフ博士と、その部下であるガソリン・エンジンの研究者たちだ。会議後のディスカッションで、なぜ今ガソリン・エンジンのダウンサイジングなのかを訊く。先駆者の皆さんの話は興味深かった。

話は、なぜヨーロッパの顧客はディーゼル・エンジンを好むのか、から始まった。ディーゼル・エンジンは燃費がいいから、CO2排出量が少ない(地球にやさしい)からという話になるのかと思ったら、それは当然としても、それ以上に低回転から高トルクを発生するディーゼルの走りが単純に楽しいから、快適だから、だという。確かにディーゼル・エンジンは燃費がいいし、軽油も安かったから、燃料費はガソリンに比べて圧倒的に少ない。ただし、最初の車の価格が高いから、長期間・長距離を走ってやっと元が取れるということで、ディーゼル車は高いから買わないという理由がなくなるだけ。一度、低回転高トルクのディーゼルに乗り慣れると、普通のガソリン車には戻りたくないのが多くのヨーロッパの顧客の感想なのだ。それにCO2が少ないと言う大義名分が後押しをする。

VWが開発するCCS(複合燃焼システム=Combined Combustion System)。トゥーランに積んでテストが行なわれていた。ガソリンとディーゼルの中間とも言える予混合圧縮自己着火する燃焼系だ。
2007年にジャーナリストに試乗用に供された1.6ゴルフGCIは、HCCIでの運転領域は非常に限られていた。実用化はまだ先だが、CGI燃焼は基本的にNOxが少なく高効率だという。GCIのテクノロジーは、ガソリンエンジンをベースにしている。VWによれば、TSIエンジンから左のCCSエンジンへは、1本のラインで繋がっているという。

ここで筆者から、ディーゼルの走りについていくらか解説しておこう。ディーゼル・エンジンはその燃焼形態から、NOxとPM(ほとんどはSoot)(注1)の排出が避けられず、これらはこちらを立てればあちらが立たずと、相反する関係にある。また、リーン燃焼のため三元触媒が使えないのでNOxの浄化が難しい。NOxとPMを同時に低減するための効果的な方法は、燃料をよりたくさんの空気の中で燃やすことであり、排ガス規制の強化に伴って、ディーゼル・エンジンはターボ過給をするしか方法がなかった。各社とも仕方なくコストのかかるターボ過給をして厳しい排ガス規制に適合させた。

そこで、せっかくターボがあるのだから馬力も稼ごうということになり、ディーゼル・エンジニアはガソリン・エンジンを超える高出力を目指し、高回転域の過給圧を上げて回す(注2)と面白いほど出力が高まった。ところが、しばらく回すとそのエンジンはピストンリングがスティックしたり、時にはピストンが溶けてしまうこともあった。ターボチャージャーも高温の排気にさらされて長時間は運転できない。そこで高出力をあきらめて小さなターボチャージャーに代えて運転したところ、今度は面白いように低中速トルクが高くなった。目一杯低速トルクを高めて、それを車に積んで走ってみると、これがまた気持ちよく走る。もともとターボラグの少ない(注3)ディーゼル・エンジンなので、これも幸いした。ガソリン・エンジンのように回転数を高めないでも大きなトルクを使ってよく走る。エンジン回転数が低いので、加速時も静か、エンジン回転が高まることなく加速する気持ちよさをエンジニアは実感した。特に高速道路を走るとエンジン音が静かで快適だった。それまでの高回転まで伸びるフラットトルク信仰が崩壊した瞬間だ。

(注1)NOxとPM
NOx=窒素酸化物は高温高圧になると発生する。一方のPM=パーティキュレートマター(粒子状物質)は、いわゆるsoot(煤)炭素を核として表面に未燃燃料やオイルなどが付着したもの。
(注2)高回転域の過給圧を上げて回す
回転を高めるのではなく、高回転トルクを高めて出力を稼ぐことをいっている。
(注3)ターボラグの少ない
スロットルを使わないので、低負荷でも流量が大きく、ターボが元気よく回っている。

低速トルクに目覚めたエンジニアはすでに量産していたディーゼル・エンジンをベースに低速トルクを高めてヨーロッパ市場に投入していった。排ガス規制対応のために余儀なく採用したコモンレールやDPFも、結果的にさらに低速トルクを高めることにつながっている。市場での反応にいくらか時間がかかったが、94〜97年は20%前半のシェアに留まっていたディーゼル車は、98年以降、年率4%の割合でシェアを伸ばして、最近では50%を超えるまでになっている。時間はかかったが、最近のヨーロッパの常識では、「理想のエンジントルクはディーゼル・エンジンのような豊かな低速トルクを発揮するもので、高回転に向かって伸びるレーシング・エンジンのようなガソリン・エンジン特性は過去のもの」ということになった。

【図A:ディーゼルエンジンとガソリンエンジンの最高出力】欧州の140機種のエンジンを調べ、横軸に排気量、縦軸に最高出力(kW)のなかに置いてみた。ディーゼルエンジンは、3ℓ以下の排気量ではガソリンエンジンに最高出力ではわずかに及ばない。
【図B:ディーゼルエンジンとガソリンエンジンの最大トルク】横軸に排気量、縦軸に最大トルク(Nm)をとったエンジン分布図。過給されたディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンと比較して同排気量で圧倒的な大トルクを発生しているのが、一目瞭然だ。

上図Aはディーゼルエンジンとガソリンエンジン(NA)の最高出力の比較、上図Bは最大トルクの比較を示す。ディーゼル・エンジンの最高出力はガソリンエンジンにわずかに及ばないが、圧倒的に高トルクをひねり出しているのがよくわかる。

そこで理想のエンジントルクに目覚めたエンジニアは、ガソリンエンジンにもそれを実現しようとした。その結果が、TSI他の過給ダウンサイジング・エンジンの登場である。その走りは、ディーゼル・エンジンと同じように回転を上げなくてもよく走る。さらにガソリン・エンジンなので、ディーゼル・エンジンより静かで快適だった。ディーゼル・エンジンのトルク特性に慣れたヨーロッパの顧客は、今度はすぐにこれを受け入れた。その結果、ディーゼル・エンジンでなく、過給ダウンサイジングガソリン・エンジンを選ぶ顧客が徐々に増加して、この2〜3年、ディーゼル・エンジンのシェアは低下傾向にある。一方、従来のガソリン・エンジンと比較すると、いくらか価格が高いのは燃費の良さで取り返してくれる。また排気がきれいなのは当然として、従来エンジンよりCO2排出が少ないという大義名分も備えている。その上、軽量のダウンサイジング・エンジンはクルマのハンドリングも高めてくれるのだ。

解説が長くなってしまったが、結論は、ヨーロッパの顧客は、日本で考えられているように燃費の良さやCO2の排出が少ないことだけで過給ダウンサイジングガソリン・エンジンを購入しているわけではない。その魅力は、ズバリ走りの快適性にある。

以上が、VWのエンジニアとのディスカッションを元に構成した、筆者の過給ダウンサイジングのストーリーだ。それは、日本に最初に輸入されたゴルフTSIシングルチャージャーを2年にわたって乗り回してきた筆者の感想そのものでもある。

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