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【海外技術情報】ポルシェ:先進的な高電圧電気モーターの仕組みを解説

  • 2021/04/13
  • 川島礼二郎
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ポルシェはタイカンが搭載する先駆的なドライブユニットで革新の伝統を紡ぎ続けている。ここではポルシェが公開した記事を翻訳して、同社の電気モーターの仕組みを紹介して行こう。
TEXT:川島礼二郎(KAWASHIMA Reijiro)

 ポルシェ『タイカンターボS』のアクセルペダルを完全に踏むと、その瞬間この電動スポーツカーのトップモデルは12,000Nmのトルクを発揮して、ドライバーとパッセンジャーは息をつく間もなくシートに押しつけられる(『タイカンターボS』はCO2排出量の合計0 g / km、電力消費量の合計は28.5 kwh / 100 km)。そのパワーは一切の遅滞なく一気に放出され、2つの電気モーターを介した推力は最高速度まで全く変化しない。

 これを実現するのがポルシェ独自のドライブテクノロジーだ。有名な自動車管理センター(Center of Automotive Management :CAM)がタイカンを2020年の世界で最も革新的なモデルと宣言したのは偶然ではない。ポルシェでは、革新は常に技術を極限まで押し上げることを意味する。『タイカンターボS』においては、これまで誰も行ったことのない方法で電気駆動装置の可能性を活用することを意味する。

フェルディナント・ポルシェのステアード・ホイール・ハブ・モーター

 ポルシェがこのコンセプトを思い付いたのは、昨日、今日の話ではない。それは120年以上前のことである。実際に若いフェルディナント・ポルシェは、世界で初めてステアード・ホイール・ハブ・モーターを搭載した電気自動車を開発している。電気自動車によって提供される可能性は彼のスポーツ心に拍車をかけ、彼のレーシングカーは世界初の全輪駆動乗用車となった。

電動パワートレイン:電気モーターと2速ギアボックス(フロント)がリアアクスルと平行に配置されている。パワーエレクトロニクスは上部に搭載している。

 かつてのシンプルなDCモーターは、より洗練された機械に取って代わられた。ただし基本的な物理的原理は変わらない。磁性である。磁石は常にN極とS極で構成される。一方の極が引き付け、反対の極は反発する。また永久磁石も使われる。電荷が移動するたびに磁場が発生する。電磁気を増幅させるため、電気モーターの通電導体がコイルを形成するように配置される。モーターの設計に応じて、電磁石と永久磁石が2つのコンポーネントに配置される。静止部分はステイターと呼ばれ、回転部分はローターと呼ばれる。

ASMに代わるPSM

 すべてのタイプの電気モーターが車両の推進に適しているわけではない。ポルシェは永久励起同期機(PSM;Permanently excited Synchronous Machine)を使用している。主に使用されている設計(安価な非同期機(asynchronous machine ;ASM))と比較すると、PSMは過熱しにくく、そのため電源を切る必要がないため、より高い連続出力を供給できる。ポルシェのPSMは三相AC電圧を備えたパワーエレクトロニクスを介して供給および制御される。モーターの速度は、交流電圧がゼロ点を中心にプラスからマイナスに振動する周波数によって決定される。タイカンのモーターでは、パルスインバーターがステイターの回転磁界の周波数を設定し、それによってローターの速度を調整する。

センターピース:電気モーターのステイターは円筒内に層状に設置された板金ディスクと銅製コイルで構成されている。U字型の曲がったワイヤーがチューブの隙間に挿入され相互に接続されます。

 ローターは、強力な指向性磁場を介した製造プロセスによって、永久的に磁化されるネオジム-鉄-ホウ素合金を使用した高品質の永久磁石を含んでいる。また永久磁石はブレーキ回生を通じて、非常に高度なエネルギー回収を可能にする。オーバーランモードにおいては、磁石が電圧を誘導している間、電気モーターは回生モードになる。ポルシェの電気モーターの回生性能は、競合他社の中で最高である。

ヘアピンワインディング:タイカンモーターの特別な機能

 技術は限界に達している。このポルシェの遺伝子は、ヘアピンワインディングとして知られるタイカンモーターの特別な機能に反映されている。そこではステイターコイルは円形ではなく長方形のワイヤーで構成されている。また、銅線がエンドレスリールから得られる従来の巻線プロセスとは異なり、ヘアピン技術は成形ベースの組み立てプロセスである。長方形の銅線が個々のセクションに分割され、ヘアピンのようにU字型に曲げられていることを意味する。

コンパクト:タイカンのフロントアクスルドライブは、リアのドライブユニットよりもさらに省スペースである。モーターとギアボックスは同軸配置だ。ローター、ギアボックス、およびアクスルシャフトは一列に並んでいる。

 ヘアピン技術ではワイヤーをより密に詰めることが可能であり、それによってステイターにより多くの銅を追加できる。従来の巻線方法では銅の充填率が約50%であるのに対して、ポルシェの充填率は約70%である。これにより同じスペースで、より多くのパワーとトルクを得ることができる。ワイヤーヘアピンの端はレーザーで溶接され、コイルが作成される。もう1つの重要な利点は、隣接する銅線間の均一な接触により熱伝達が改善され、ステイターを遥かに効率的に冷却できることである。電気モーターはエネルギーの90%以上を推進力に変換する。しかし内燃機関と同じように、損失は熱に変換され放散する必要がある。

パルスインバーターに関するポルシェの専門知識の集大成

 永久励起同期モーターを正確に制御するために、パワーエレクトロニクスはローターの正確な角度位置を知る必要がある。これがリゾルバーの目的だ。電界伝導金属で作られたローターディスク、エキサイターコイル、それに2つのレシーバーコイルで構成される。エキサイターコイルは、エンコーダーを介して受信巻線に送信される磁場を生成する。これにより受信コイルに電圧が誘導され、その位相位置はローター位置に比例してシフトする。制御システムはこの情報を使用して、ローターの正確な角度位置を計算する。パルスインバーターとして知られるこの制御システムは、ポルシェの専門知識の集大成である。800ボルトのバッテリー直流を交流に変換して、2つの電気モーターに供給する。

フライホイールの質量:ローターはV字型に配置された永久磁石で満たされている。

 ポルシェは800ボルトの電圧レベルを実装した最初のメーカーである。もともとポルシェ919ハイブリッドレースカー用に開発されたそれは、量産時には細いケーブルにより重量と設置スペースを削減して、充電時間も短縮された。電気モーターは毎分最大16,000回転に達する。動的性能、効率、最高速度を満足させてこの回転速度を利用するため、フロントとリアのドライブユニットにはそれぞれ独自のトランスミッションを搭載している。タイカンはリアに2つのギアを備えたトランスミッションを搭載した初めての電気スポーツカーであり、最初のギアは非常に短い減速比を備えている。フロントアクスルでは入力遊星ギアボックスが車輪に動力を伝達する。

 これらが組み合わさることで、ポルシェの電動パワートレインは『タイカンターボS』に強力な力を与える。フロントアクスルでは、ギア比は電気モーターによって生成された440Nmをホイールで約3,000Nmに変換する。リアアクスルモーターからの約610Nmは、1速で約9,000Nmのアクスルトルクに乗算される。よりロングな2速ギアのタスクは、高速で効率とパワーリザーブを確保することである。これは先駆的なテクノロジーであり、電気駆動時代における「ポルシェの革新の伝統」の継続である。

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