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内燃機関超基礎講座 | 真夏のエンジンルームでも耐久性を失わないゴムホースの秘密

  • 2021/06/19
  • Motor Fan illustrated編集部
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過酷をきわめるエンジンルーム環境のなかでゴムを主体とするホースの耐久性が著しく高まっている。交換をされるわけでもなく、破損の報せも聞こえてこない。なぜ、どのようにして長寿命高耐久化が実現しているのだろうか。

自動車には、いわゆる“ゴムのホース”が随所に使用されている。エンジンであればフューエルホース、ブローバイホース、ラジエーターホース、過給器を備えていればインタークーラーの配管、車輪それぞれにはブレーキホース、エアコンの配管、油圧パワーステアリングのホース、ウィンドウウォッシャーの配管……例を挙げればきりがない。しかし近年の自動車において、これらのホースが破損したために交換したという話はきわめて珍しい。ゴムのホースが、なぜこれほど長寿命高耐久性を持つようになったのだろうか。

横浜ゴムはタイヤのメーカーとしては広く知られているが、自動車用ホースのサプライヤーとしても高いシェアを誇っている。同社の事業分野はエアコン用ホースおよび油圧パワーステアリング用ホース。どちらの部品も「そろそろ交換しよう」と気軽には思えない部位の配管だ。当然、ユーザーは自動車のライフと同等と考えている。

エアコン用ホース

エアコンホースは、ほかの部位のホースに比べて少々特異な要件がある。一般的に、ホースは作動油によってパワーを伝達する手段として使用されるのに対し、エアコンホースは中を流れる冷媒の密閉を第一義とし、しかも気体と液体の状態を繰り返すからだ。当然ながら、ホースの作り方や構造にも違いが求められる。

エアコンのシステムが劇的に変化したわけではないので、エアコンホースに求められる耐圧値も、かつてから高まっているわけではない。また、耐圧の考え方も昔から変わっているわけではないので、誤解を恐れずに言えば構造を変える必要もない。単純に圧力保持と漏れ防止を考えるなら、金属配管を用いればいい。実際、家庭用などの据え置きエアコンシステムには銅管が使われているし、これなら漏れる心配もほとんどない。しかし自動車のエアコンシステムには、振動という条件がつねにつきまとう。金属配管では疲労して折れてしまうし、またコンプレッサーの騒音をキャビンに伝播してしまうというデメリットも生ずる。かといって、圧力保持のために建設機械に使用されるような超高圧ホースを使っては重量がかさみ、配管取り回しにも制限が出てしまう。そのため、自動車用エアコンはホースとアルミ管を併用した構造を採っているのだ。

最新のトレンドは、内部に施したナイロン樹脂コート。ホース内部の青い部分が、その処理だ。内側からナイロン樹脂コート、低透過性のIIR、ポリエステル樹脂の補強層、アウターのEPDMという構造。ご存じ、オゾンホールの問題から冷媒はR12からR134aに取って代わられたが、R134aはR12に比べて分子が数十分の一と小さいため、ホースの耐透過性を高めなければならなかった。R12当時のホースの材質はNBRだったが、冷媒の漏れを止めるべく、低透過性の合成ゴムが開発され、さらなる手段として最内部にナイロンコートを施したホースが作られている。ほかの材料も考慮したが、エアコンホースの置かれる環境や温度から、ナイロンに決定したという。これにより、NBRに対して低透過性合成ゴムで10分の1程度、ナイロンコートにいたっては20分の1の耐透過性能を実現している。かつてはハイシーズンになるとエアコンガスの再充填がなされていたのに、ここ最近の車がそうした作業を要さなくなったのは、こうしたホースの進化が支えているのだ。

また、エアコンホースの置かれる環境も過酷だ。ますます過密化するエンジンルームは熱の逃げ場を失い、高熱化の一途をたどる。エアコンサイクルをみても、コンプレッサー直後の冷媒は高温高圧であり、片やエキスパンションバルブを通過したあとは低圧低温。バルクヘッドからエンジンルームに戻るエアコンホースがカチカチに凍っているのをご覧になった方もあるかもしれない。ホースの対応温度はマイナス40℃からプラス120℃という値だが、実際に熱いものと冷たいもの──使っているときはいちばん冷たい──がいつも流れ続けるという点で、かなりシビアなコンディションが求められるのだ。エアコンサイクル自体の最大圧力は、約3.9MPa(システムが定める最大圧による)。ちなみに、流体温度は、夏場の渋滞などで100℃に達する。

油圧パワーステアリング用ホース

一方の油圧パワーステアリング用ホース。損壊したら乗員の命にかかわるだけに、重要保安部品として生産管理も厳しく、定期的に製造時にコントロール試験がなされる。

これまで知らなかったのが、ホースの内部構造。下に掲載したのが断面と中を示したカットモデルである。キャップがなされた螺旋管がホースの中に収められているのがおわかりかと思うが、これは作動音のチューニングを担う部品。作動油が流れる際に生ずる音と脈動圧を、この螺旋管が軽減する。ひとつのアセンブリにはこの螺旋管が数本収められていて、しかしそれらはつながっていない。生ずる周波数帯によって、長さと距離で音の軽減に努める構造であり、ホース外部のカシメは「ねらったところにこの管を固定したい」という意図によるもの。

やはりこちらも、長寿命高耐久を支えてきたのは材料の進化。おもに耐熱性を向上させればそのぶんマージンが生まれ、ライフサイクルを長くすることができる。耐油性に優れたNBR/表皮CRの組み合わせから、近年はさらに耐熱耐久性を向上すべく、塩素化ポリエチレンやHNBR(水素化アクリロニトリルブタジエンゴム)といった新素材に切り替わりつつある。また、補強材としての糸には、ナイロン樹脂が使用される。エアコン用ホースにはポリエステル樹脂が使われるのに対して強度に劣るイメージだが、これはパワーステアリング用ホースが振動と動作音を吸収するため膨張するから。動きを持たせるだけに、その編み方や角度には細心の注意が払われている。パワーステアリング用ホースの置かれる環境は、自動車のサイズや使用状況にもよるが、最高温度はおよそ150℃/最大圧は約10MPa。当然、ステアリングを頻繁に使うシチュエーションが過酷な条件であり、高速で一定速で走行するより、何度もステアリングを切り返しているのになかなか駐車できない──というのが、いちばん厳しい。その意味で、もっとも厳しいのが教習車での使途だという。

音消しの手法も、管を片方だけ入れたり、真ん中で絞ったり、カシメの位置を動かしたりと、長年のノウハウに基づいている。数十年前のパワステ車は据え切り時に「キューッ」という音を放っていたのに、最近の車からそうした音が聞こえないのは、必ずこの螺旋管が仕込まれているからだ。当然、ホース単体ではなく、油圧ホースアセンブリとして、メーカーに納める格好になる。

エンジンやギヤボックスに直接関連するわけではなく、決して華やかではないために目を向けられることの少ない自動車用ホース。しかしわれわれユーザーがまったく気にすることなく長く自動車を使い続けられるのは、ホースの長寿命高耐久化が大きく寄与しているのである。

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