「ボクサーがグローブを打ちつけ合うような格好だからボクサーエンジンって言うんだよ」という説明を受けると(ともに外に向かっているんだから違うのでは)と思ってしまうのはあまり関係なく(さらに「それはむしろ対向ピストンエンジンにふさわしい呼称では」と考えてしまうのももっと関係ない)、よくフェラーリの12気筒ミドシップ車の紹介のときに話題にのぼることの多い「180度V」というエンジンについての話である。
水平対向エンジンとは、対向するシリンダーにおいてピストンが逆相に運動する構造を持つ。片側が右方向に動くならもう片方は左方向に、上なら下という具合である。その理由はクランクピンが180度位相だから。
対する180度V型エンジン。こちらは1番2番、3番4番、5番6番といった隣り合うシリンダーについては、クランクピンは共有する構造である。
じつは180度V型エンジンというのは、基本的に12気筒にしか存在しない。理由は振動。たとえば上に示した180度V型6気筒を仕立てた場合、まず不等間隔点火になることは避けられず、さらに一次の隅力:すりこぎ運動が大きく発生してしまう(6つの矢印の方向を眺めてもらうとわかるかもしれない)。エンジンとしては成立が難しいのである。
しかしこれを前後にふたつ連結すれば、それぞれの一次隅力を相殺できることとなる。別の見方をすれば「一次二次並進力/偶力がすべてゼロという性質を持つ直列6気筒を線対称に並べたエンジン」とも言える。
このあたり、モーターファン・イラストレーテッドで連載していた「クルマの教室」で大変詳しくエンジン振動論として述べられている。興味のある方はぜひ読んでもらいたい。