水平対向と180度V。似て非なるその構造、どこが違うのか[内燃機関超基礎講座]

左が水平対向、右は180度V。どこが違うか。* 180度Vはイメージ(ILLUSTRATION:熊谷敏直)
水平対向エンジンと180度V型エンジン、英語ではともにFlat Engine。平たい見た目は同じものの、中身はまったく異なっている。

「ボクサーがグローブを打ちつけ合うような格好だからボクサーエンジンって言うんだよ」という説明を受けると(ともに外に向かっているんだから違うのでは)と思ってしまうのはあまり関係なく(さらに「それはむしろ対向ピストンエンジンにふさわしい呼称では」と考えてしまうのももっと関係ない)、よくフェラーリの12気筒ミドシップ車の紹介のときに話題にのぼることの多い「180度V」というエンジンについての話である。

 水平対向エンジンとは、対向するシリンダーにおいてピストンが逆相に運動する構造を持つ。片側が右方向に動くならもう片方は左方向に、上なら下という具合である。その理由はクランクピンが180度位相だから。

水平対向6気筒のイメージ。
水平対向6気筒のクランクシャフトの実例。手前ふたつのクランクピンはご覧のように180度位相。

 対する180度V型エンジン。こちらは1番2番、3番4番、5番6番といった隣り合うシリンダーについては、クランクピンは共有する構造である。

180度V型エンジンのイメージ図。イラストのように6気筒として実際に仕立てるのは相当困難。
180度V型エンジンの実例。フェラーリのティーポ105。矢印で示した7番8番クランクピンにおいて、共通なのが見て取れる。

 じつは180度V型エンジンというのは、基本的に12気筒にしか存在しない。理由は振動。たとえば上に示した180度V型6気筒を仕立てた場合、まず不等間隔点火になることは避けられず、さらに一次の隅力:すりこぎ運動が大きく発生してしまう(6つの矢印の方向を眺めてもらうとわかるかもしれない)。エンジンとしては成立が難しいのである。
 しかしこれを前後にふたつ連結すれば、それぞれの一次隅力を相殺できることとなる。別の見方をすれば「一次二次並進力/偶力がすべてゼロという性質を持つ直列6気筒を線対称に並べたエンジン」とも言える。

 このあたり、モーターファン・イラストレーテッドで連載していた「クルマの教室」で大変詳しくエンジン振動論として述べられている。興味のある方はぜひ読んでもらいたい。

180度V12エンジンの例。よく話題にされるフェラーリのF102型で、画像は365GT4/BBに搭載されたA型。
スバルとモトーリモデルニがタッグを組んで作った12気筒エンジンも180度V型だった。
最強のレーシングカー・ポルシェ917の12気筒エンジンも180度V。スバルもポルシェも12気筒になると水平対向ではないのがなんだかユニーク。
Cカーであるメルセデス・ベンツC291が搭載するM291型エンジンも180度V12だった。

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