フォルクスワーゲン/アウディグループの12気筒エンジン車には「W12」と称する機関が搭載されている。W型エンジンには古来さまざまな方式が考案され、3バンク配置のエンジンも試作されたりしているが、VW/AUDI(というよりフェルディナント・ピエヒ氏)がとった手段は4バンク配置方式だった。すなわち、片バンクですでに狭角配列を成立させ、さらにそれをV型配置するという機械構成である。
ご存じ、VW/AUDIはW12に先立ってWR型という狭角エンジンを実現させていた。5気筒、6気筒、8気筒のバリエーションがあり、それらは直列エンジンに対して全長を短くできることをメリットとしていた。しかし吸排気菅が不均一なこと、クランクピンの幅が充分にとれないこと、バルブトレインが複雑になることなどのデメリットがあり、WR6はポルシェ・カイエンに一部残っていたものの、2020年11月現在では採用する車種はすでにない。
ではW12にすればそれらが解決できるかといえば、その逆で、より難しさが増す印象である。通常のV12であれば、併進力/偶力ゼロ(振動ゼロではない)の直列6気筒を60度バンクで2丁掛けしているエンジンだけに、きわめてバランスのいいエンジンとして仕立てることができるが、W12ではそれらを望むことができない。見た目だけではなく、性質としてもなかなかトリッキーな性質といえる。
狭角V型エンジンには世代があり、当初は15度の角度で登場したが、のちに10.6度に改められている。バンク角を狭くすることでシリンダーヘッドの小型化をはじめ、バルブトレインおよび吸排気管の最適化を図ったのだろうか。VWからはなぜ狭くしたのかについての明確な主張はなく、「狭くしたけどシリンダー壁の厚さは充分に確保している。エンジン長も変わらない。ただしシリンダー裾部が干渉してしまうのでオフセットを12.5mmから22mmに増やして対策した」という結果だけが述べられている。
W12に用いられている狭角は、15度/12.5mmのタイプである。これを72度のバンクでV型配置している。したがって、等間隔点火のために12度のピンオフセットが設けられている。
▶︎ ワンサイクル720度 ÷ 12気筒 = 60度が等間隔点火
▶︎ 72度のバンク角 – 60度 = 12度のピンオフセット
また、先述のように片バンク内では15度の狭角配置であり、V12なら120度毎のクランクピン配置にも工夫が必要なことから、同一位相内のピン同士については21.833度のオフセットが設けられている。もう頭がこんがらがりそうだ。
さらに混迷を極める吸排気菅レイアウト
15度のオフセットが同一シリンダー内にあるため、吸排気ポートの長さは内側/外側で異なる。そのままではばらつきが生じてしまうが、VW/AUDIは「巧妙な設計によりすべてのシリンダーで同じガス交換がなされる」としている。マニフォールドで内外気筒に大きな差がつけられているようにも見えないし、果たしてどのようにして補償しているのだろうか。
なお、VR6に装着されていた吸気管長マニフォールドシステムについては、W12において備えていない模様。
さらに6.3 W12は筒内直噴であることから、インジェクターも長短2種を用いている。インジェクターの位置としてはご覧のように側方配置型で、最大噴射圧は12MPa。圧力低下を最小限にとどめるためにメインのフューエルレールに加えてもう一本、蓄圧のためのレールを備える構造としている。シリンダーヘッドの設計は困難を極めただろう。
一方で排気マニフォールドについては、素直に前から3本ずつの配置。マニフォールド直下にはプライマリ触媒が設けられ(つまり都合4つ)、その後左右バンクそれぞれに備わるメイン触媒(つまりふたつ)に排出ガスは流入。その後X字型をした左右混合管で2本の排出ガスは合流しセンターサイレンサーへ。「典型的な12気筒サウンド」を創出するとVW/AUDIはアナウンスしている。