熱効率の極限到達:2万7260ℓ直列12気筒巨大舶用2ストロークディーゼルエンジン[内燃機関超基礎講座]

27,259,822.08cc。つまり、約2万7260リッターという、巨大な排気量を持つディーゼルエンジンがある。世界最大規模の舶用ディーゼル、「DU-WÄRTSTILÄ 12RT-flex96C」だ。熱効率がなんと52.5%にも達するというこのエンジン、概要と高効率の秘密に迫ってみよう。
TEXT:松田勇治(MATSUDA Yuji) PHOTO:石川島播磨重工業/ディーゼルユナイテッド
写真の手すり付きキャットウォークからわかるように、4階建ての建物に匹敵するほど巨大なサイズを持った舶用2ストローク・ディーゼル・エンジン。

■ DU-WÄRTSTILÄ 12RT-flex96C
全長(mm):24000
全高(mm):13500
重量(kg):2050000
種類:直列12気筒
ボア×ストローク(mm):960×2500
圧縮比:1.86
最大定格出力(kW [ps] /rpm):68640 [93360] / 102
時間あたり燃料消費率:BFSC(g/kWh [g/bhph]):171 [126]
使用燃料:C重油

ディーゼル・エンジンが自動車用の動力源としてだけではなく、さまざまな分野で採用されているのはご存知の通り。なかでも大型船舶用の動力源としては、ほぼ唯一無二の存在となっている。その熱効率の高さが、評価されているからだ。

乗り物用ディーゼル・エンジンの熱効率の極限到達とも言える存在が、舶用ディーゼル・エンジンだ。舶用のエンジンは、最大定格出力の85%程度の出力で連続使用され、年間の運転時間は7000時間に達する。その舶用ディーゼル・エンジンの中でも、現在、世界最大級の高過給クロスヘッド形2ストロークディーゼルエンジンのひとつが、DU-Wärtsilä社製12RT-flex96C。コモンレール方式(レール内圧は最大で約1000bar)を採用し、環境に優しいエンジンでもある。コモンレール方式と言っても燃料としてC重油を使用し、140°Cを超える温度まで燃料を加熱しているので、自動車用コモンレールとはかなり異なった構造を持つ。燃料弁はシリンダー当たり3弁を装備し、各々独立に制御することができる。

3弁独立制御ということは、低出力時に1弁のみを作動させて1弁当たりの噴射量を増やして噴霧を良くするモードや、各弁の噴射時期を微妙にずらせて燃費と排ガスの低エミッション化を両立させるようなモードなどを備えているということだ。

舶用のエンジンの燃費率は、馬力時間当たりの燃料消費量「g/Ps-h」(ただし、燃料の発熱量は10200kcal/kgとして)で表現され、最高のチューニングポイントでは118g/Ps-hに達し、熱効率は実に52.5%(エコノマイザー等を使わず、エンジン単体で)に達する。この燃費率は、自動車で太刀打ちできるものはない。

 ちなみに2000トンに達するこのエンジンは、日本では石川島播磨重工業の関係会社であるディーゼル・ユナイテッドの兵庫県相生事業所で製造されており、造船所のクレーン能力に応じて分割して運搬船に載せて出荷される。

海上技術安全研究所提供の、各種エンジンの出力レベルと熱効率の関係を模式的に表した図。2ストロークディーゼルの高効率がうかがえる。
クランク軸は、運搬の容易化のために、前後に二分割されている「組立クランク」だ。台板に搭載後リーマーボルトで結合して使用する。
背景に映るエンジン本体と比較してもわかるように、信じられないほどクランクも巨大。
ピストンのボア径は960mm。写真は表面加工を行なっている工程だが、治具もさすがにそれなりの大きさだ。ピストン部のリングはセラミック製で4本。さらにコンロッド兼潤滑/冷却用の銅コーティングを施したリングが装着される。
ピストンの裏側には多数の穴が。表面の熱を効率良くコンロッド側へ逃がし、表面の熱分布を均一化する「Fully bore-cooled combustion chamber」と呼ばれる仕組みだ。自動車用のように、シェーカークーリングだけでは、冷却しきれないのだ。
「Fully bore-cooled combustion chamber」のコンロッド側。放射状に挿し込まれたピストン固定用ピンは、冷却オイル噴射用のノズルを兼ねている。

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