ホンダIMA:「モーターを組み込んだエンジン」という在り方[内燃機関超基礎講座]

「新たにハイブリッドシステムを開発しようとしたとき、まず選ぶのがウチのシステムだろう」と、ある開発担当者は語る。1モーターのパラレルハイブリッドは構造がシンプルなだけに、飛びつきやすい。だが、カタチだけ真似ても燃費は出ない。10年間のノウハウと技術の差。ハイブリッドのメリットを安価に提供する新たな挑戦に取り組んだ。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)

1999年の初代インサイトで「燃費ナンバーワン」を目指したホンダは、2009年の2代目インサイトで「ハイブリッドの大衆化」に進むべき方向を切り替えた。搭載するハイブリッドシステムの基本は変えることなく、コスト低減に徹底的に取り組んだのである。そうでなければ、大衆は振り向いてくれないと考えたからだ。もちろん、「ただ安ければいい」と考えたわけでもない。

i-VTECエンジン(気筒休止付き):減速時の回生効率をいかに向上させるかが、ハイブリッド車の生命線。ホンダは得意のVTEC技術を使って全気筒休止を実現。エンジンのフリクションを減らし、全減速エネルギーの3分の2を回生する。クラッチでモーターからエンジンを切り離すことによって得られる分はほとんどないとホンダは主張。クラッチを作動させる制御や機構にウエイトやコストを費やすよりスマートな技術だと自負している。

どうやって廉価なハイブリッドを作ったのか。まず、走りと環境性能のターゲットをシビック・ハイブリッドと同レベルに置いた。そのうえで、シビックより小さいクルマにすることを決めると、ターゲットを達成するために必要なパワートレーン系のスペックが導き出される。シビック・ハイブリッド(15kW)よりも小さな10kWのモーター出力はこうして弾き出された。

モーターは鈴鹿製作所で製造する。2005年のシビック・ハイブリッドから、ステーターに巻くコイルを丸断面から平角断面に変更した。丸断面よりも密に巻ける。率にして4%の向上分。ターゲットとする出力を得るために必要な数値だったが、生産効率を3倍に上げる必要があった。これが課題。コイルを巻く芯も四角い。同じ速度でヘッドを回転させると巻き付き速度が変わってしまうので、芯とヘッドの動きを絶妙に制御し、速く、きれいに巻けるようにした。※図版は2代目シビック・ハイブリッドのもの。

コストの観点で最も重点的に攻めたのはコスト構成比の高いバッテリーだった。シビック・ハイブリッドと同じニッケル水素バッテリーを採用すると9モジュールが必要になる。バッテリーの出力を30%高めることができれば2モジュール減らせるからと、三洋電機に掛け合った。

1.2Vの単セルを12本まとめたのが1モジュール(14.4V)。シビック・ハイブリッドは11モジュールなので158V。インサイトは7モジュールなので100.8Vとなる。三洋電機の努力の甲斐があり、内部抵抗を3割下げることで出力を3割高めることに成功。と同時に耐久性を3割高める努力もしている。電気のやりとりを従来よりも激しく行なえば、電極の傷みもそのぶん早く進行する。出力は高いが寿命は短いでは製品として成立しないため、耐久性向上も外せない課題だった。※図版は2代目シビック・ハイブリッドのもの。
「クルマとして使える」ことがコンセプトのひとつだったため、バッテリーやIPUの床下収納は必須だった。コストダウンや合理化に対する考え方も他のコンポーネントと同じ。インバーターに用いる半導体素子の基盤への結合方法は、ワイヤーボンディングからバスバーに変更することで製造を合理化。DC-DCコンバーターはあらかじめ基盤にループを作り込んでおき、積層した段階でトランスが出来上がる合理的な設計にした。

2005年のシビック・ハイブリッドから、コイルの巻き線を丸断面から平角断面にして、効率を高めている。ハイブリッドを大衆化するためには従来の3倍に生産効率を引き上げなければならない。ざっと試算すると1日1000台。稼働10時間として1時間に100台である。「安く作るならまず平角線を止めること」という製造サイドの声を押しとどめて、3倍速く巻ける技術を確立した。

モーターアシストによる効果は、低回転域で厚みのある「エンジン+モーター」のトルクカーブにはっきり現れている。エンジンが主役のシステムではあるが、発進時の基本はモーター走行。CVTはシビック・ハイブリッドと多くを共有するが、ファイナルギヤレシオは6.7%ローギヤード化。高速燃費でやや不利になるものの、「ファン」の演出につながるとの判断。また、市街地走行ではローギヤードにしたほうがアクセルの踏み込み量が深くならず、実用燃費に利くという裏付けもある。

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