開発された技術は、カエルとキリギリス、2種類の生物の足裏に配列された六角形模様の微細構造をヒントに、クラッチのスチールプレートの表面に排油性能を高める特殊加工を施すもので、これにより摩擦特性の安定性や耐久性を大幅に向上させることができる。自動車用の湿式多板クラッチは、スチールプレートと呼ばれる金属板と、フェーシングプレートと呼ばれる金属板に摩擦材を貼り合わせたものを交互に配置した構造となっている。
今回開発された表面加工技術は、バイオミメティクス(生物模倣)としては珍しい、2種類の動物からヒントを得て開発された。キリギリスの足には接触面とのスティックスリップ現象(静摩擦力が作用する状態と動摩擦力が作用する状態が交互に発生することによって起きる振動現象)を抑制し滑らかな摩擦を作り出す機能、カエルには濡れた接触面をグリップする機能があると考えられている。この両者に共通する六角形の形状をクラッチのスチールプレート側に加工することで、低温時の伝達安定性やクラッチの耐久性を高めた。なお、量産に向けては、マイクロプレス技術を有する、特殊発條興業株式会社と共同で開発が行われている。
これまでクラッチの性能向上は主にフェーシングプレート側の摩擦材の性能向上に主眼が置かれてきたが、表面加工をスチールプレート側に施すことで、クラッチの性能を高めることが可能となる。社内試験では、耐久性、摩擦特性ともに大幅に改善することが確認された。
「バイオミメティクスを活用した湿式クラッチ」は、今後、ジヤトコのAT/CVTや電動車両用のe-Axleへの採用を検討していくほか、幅広くモビリティ関連の製品にも適用を検討していく。