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新型ランドクルーザーには3.5ℓV6ガソリンターボと3.3ℓV6ディーゼルターボの2種類のエンジンが用意された。注目は完全新開発のディーゼルエンジンだ。
メルセデス・ベンツGクラスとランドローバー・レンジローバーは3.0ℓ直6ディーゼルを積む。
V6か直6か
かつて、直6からV6への技術トレンドがあった。これは、FFが増えたことと前面衝突安全基準が厳しくなって、全長が長くなる直6が敬遠されたからだ。
2010年代後半から、今度は直6の再評価が始まった。その理由は、ボディ技術の進化で衝突安全は直6でも対応が可能になったことと、厳格化された環境規制に対応するためにV型エンジンだと高価な排ガス後処理装置が両側バンクにそれぞれ1セット必要になることを避けるためだ。
現代のエンジンの技術トレンドのひとつは、モジュラー化である。ガソリンエンジンとディーゼルエンジンをモジュラー開発することで開発の効率を上げるのだ。
2021年現在で直列6気筒エンジンを持っているのは
BMW:3.0ℓ直6ガソリンターボ/ディーゼルターボ
ダイムラー(メルセデス・ベンツ):3.0ℓ直6ガソリンターボ/ディーゼルターボ
ランドローバー:3.0ℓ直6ガソリンターボ/ディーゼルターボ
である。ここに間もなくマツダの直6エンジンが加わるはずだ。やはりガソリン/ディーゼルの両方を設定する。
トヨタ・ランドクルーザーが直6ディーゼルではなく、V6を選んだのは、まずはラインアップ的にガソリンの直6エンジンが必要ないからだ。もともとガソリン直6ターボエンジンは、大排気量V8エンジンの代替機の役割があった。いわゆるダウンサイジングである。トヨタの場合は、この役割は新型ランドクルーザーも搭載する3.5ℓV6ターボ(V35A-FTS型)が果たしてくれている。
新開発の3.3ℓV6ディーゼル(F33A-FTV型)のVバンク角は、90度である。V6のセオリーとしては、120度(720÷6=120度)とするか、60度という手もある。90度Vは、V8エンジン(720÷8=90度)から2気筒落としてV6を仕立てる際に用いられることが多いのだが、今回は完全新開発だからV8を考慮に入れる必要はない。それでも90度にしたのは、「ホットV」にしたかったからだ。
ホットVとは、通常とは逆の吸気・外/排気・内のレイアウトでVバンク内側にターボチャージャーを収めるレイアウトのことだ。F33A-FTV型は、2基のターボチャージャーをここに収めている。この2基のターボは、シーケンシャルに使う。2基のターボを「プライマリー」と「セカンダリー」に役割分担し、運転状況によって1基または2基を使い分ける。いわゆる2ステージターボ(トヨタは「2ウェイ」と呼ぶ)。低回転域はプライマリーターボのみ作動。高回転域はコントロールバルブを開いてセカンダリーターボにも排気を導き、2基のターボを同時に(あるいはセカンダリーのみ)作動させる。これによって低回転域のレスポンスと高回転域の出力を両立する考えだ。
ホットVの2ウェイターボなら、ターボチャージャーを2基使っても、排気・外のツインターボのように高価な排ガス後処理装置は2系統必要とせず1系統で済む。もちろんコストダウンにつながる。
では、ランドクルーザー、メルセデス・ベンツGクラス、レンジローバーのディーゼルエンジンを見ていこう。
トヨタ・ランドクルーザー 3.3ℓV6ディーゼルターボ(F33A-FTV型)
エンジン形式:V型6気筒DOHCディーゼルターボ エンジン型式:F33A-FTV型 排気量:3345cc ボア×ストローク:86.0mm×96.0mm 圧縮比: 最高出力:309ps(227kW)/4000rpm 最大トルク:700Nm/1600-2600rpm バルブ駆動:ロッカーアーム
技術の詳細は、未発表だから推測するしかないが、ディーゼルエンジンの心臓とも言えるコモンレールシステムは、おそらくデンソー製だろう。となれば、燃料インジェクターはデンソーのi-ARTを使っているのではないか。
デンソーのi-ARTはインジェクター毎に小型化した圧力センサーを組み込んでインジェクター内部の燃料圧力と温度変化を高精度に測定し噴射圧、量、タイミングを制御する技術だ。ピエゾ式かソレノイド式かも明らかではないが、世界中の悪路でも「生きて帰ってくる」ことがランドクルーザーの存在理由だとすると、ソレノイド式を使っているのはないだろうか。排気後処理装置については、仕向地の規制によってさまざまな仕様がありそうだ。
メルセデス・ベンツG 3.0ℓ直6ディーゼルターボ(OM656型)
エンジン形式:直列6気筒DOHCディーゼルターボ エンジン型式:OM656型 排気量:2924cc ボア×ストローク:82.0mm×92.3mm 圧縮比:15.5 最高出力:330ps(305kW)/3600-4200rpm 最大トルク:700Nm/1200-3200rpm バルブ駆動:ロッカーアーム
前述のようにメルセデスの直6ユニットは、ガソリンエンジンをモジュール展開されている。全長が長くなりがちな直6エンジンだが、同排気量のV6・OM642よりボアピッチを16mm短くしている。シリンダーは鋳鉄からアルミ合金に変わったが、ピストンは逆にアルミからスチールに変更された。熱膨張率がアルミより低いため、高負荷運転時にアルミシリンダーとのクリアランスを充分に採ることができ、フリクションが40~50%低減されるという。ディーゼルエンジンとしては世界初の可変バルブリフト機構CAMTRONICを装備した。EGRは排ガスをターボの上流と下流双方から取得する、高圧&低圧併用タイプ。燃費はOM642比で7%改善されている。
レンジローバー 3.0ℓ直6ディーゼルターボ(Ingenium Diesel)
レンジローバーD350 MHEV エンジン型式:Ingenim Diesel エンジン形式:直列6気筒DOHCディーゼルターボ 排気量:2997cc ボア×ストローク:83.0mm×92.32mm 圧縮比:15.5 最高出力:350ps(258kW) 最大トルク:700Nm
ジャガー・ランドローバーは、Ingenium(インジニウム)エンジンシリーズで、ガソリンとディーゼルで多くの部品を共通化している。
3.0ℓ直6ディーゼルは、もちろんオールアルミ製で、メルセデス・ベンツと同じくピストンはスチール製を使う。
アルミブロックを使うことで、以前のV8ディーゼルよりも80kgも軽いという。ターボは2基のシーケンシャルだ。燃料噴射は最大噴射圧250MPa(2500bar)のピエゾインジェクターを使う。また、48Vのマイルドハイブリッドと組み合わせているのも特徴になる。
BMEPで比べてみよう
今度は、BMEPで比べてみよう。BMEP(Brake Mean Effective Pressure)とは、エンジンの排気量によらずに、トルク特性を横並びに評価するために用いられる理論的な数値で、
最大トルク÷排気量×4π×10
で計算する。単位は「bar」である。
これで計算すると
ランドクルーザー:F33A-FTV型 26.3bar
メルセデス・ベンツ:OM656型 30.0bar
レンジローバー:Ingenium Diesel 29.4bar
となる。
ランドクルーザーのBMEPがやや低くなっているが、これは世界のあらゆる地域、あらゆる燃料(もちろん軽油だが、燃料の質は世界中でかなり異なる)に対応するロバスト性を確保するため、なのではないか。また、排気量が3.0ℓではなく3.3ℓとしたため、BMEPが低くなるという面もある。排気量はエミッション性能に大きく影響する。このあたりもランドクルーザーならではの生い立ちが関係しているのかもしれない。