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自動運転にもスマートシティにもインテリジェントLiDAR技術が必須になる
ADAS(先進運転支援システム)や自動運転の実現にはセンシング技術のさらなる進化が必要だ。カメラやレーダーはすでに普及しているが、その先はLiDAR(Light Detection and Ranging)が控えている。そのLiDARの開発で注目を集めているのが米国のスタートアップであるAEye(エーアイ)社である。
同社は2013年に戦闘機の照準システムの設計をはじめ航空宇宙産業に携わっていたルイス・デュソン氏が設立。NASAやロッキード・マーティン社、米空軍、DARPA(国防高等研究計画局)の技術者が加わったAEye社にはスバルやGM、コンチネンタル、アイシンなどが投資をしている。
彼らが開発したのが、独自のLiDARプラットフォーム「4SIGHT(フォーサイト)」である。
「4SIGHT」が他社のLiDARと違うのは、独自技術で「インテリジェントアダプティブLiDAR」を実現していることだ。インテリジェントアダプティブとはどういうことか?
AEyeの4SIGHTはセンシングの構造に回転機構や物理ミラーを使わないソリッドステート型だ。光源はひとつで、MEMSミラーを組み合わせて広範囲のスキャニングを行なう。重要なのはそのスキャニングを制御するソフトウェア技術だ。スキャンしたい範囲に光量を最適に配分できるのが強みだ。スキャニングしたい範囲や重要度は高速走行時と渋滞や駐車などの複雑な状況では違う。状況に合わせてシームレスに切り替えられるのが4SIGHTの強みだ。
それを支えるのがAEye社独自の「バイスタティック設計だ。10kHz以上の高速共振の最小/最軽量ミラー(1mm以下)を実現している(一般的なLiDARはモノスタティック設計)。つまりミラーを小さくできて速く動かせるというわけだ。また、バイスタティック設計のおかげで受光素子も大きくできるという。
従来のLiDARの進化が「ハードウェアとしての性能向上」だったとすると、4SIGHTの進化の方向はソフトウェア定義型(ソフトウェア・ディファインド)を志向する。GPSやカメラ、レーダーなど他のセンサーとの連携やOTA(Over the Air)による機能のアップデートも可能。したがってSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)との親和性も高い。
LiDARを中心に据えた高度なセンサーフュージョンを実現するためのソフトウェアプラットフォームだからそれをベースに組み立てれば、あとから機能を向上、追加させることも可能だ。
ここまでは、12月に都内で開催されたAEye社のメディア説明会で語られた内容だ。会場には、コンチネンタル社の次世代型LiDAR「HRL131」のサンプルが展示されていた。これはAEye社の4SIGHTプラットフォーム上に構築されたLiDARだ。HRL131は、自動車業界初のソフトウェア定義型の長距離LiDARで、コンチネンタル社は2024年に量産を予定している。
今回、AEye社のエグゼクティブたちが来日したのは、日本のOEM、ティア1との議論や商談のためだが、ターゲットは自動車だけではない。スマートシティ、鉄道・高速道路をはじめとする交通インフラへの適応も同社が目指すフィールドだ。
LiDARは価格が高くて普及が進んでいないのが昨今の状況だが、同社は「今後4-5年で急速に普及する」と断言する。すでに多くのOEM、ティア1と水面下で交渉を終えている自信の表れだろう。PCにおけるインテルのように、SDVには『4SIGHT inside』となるかもしれない。
スマートシティにもインテリジェントLiDAR
4SIGHT搭載のLiDARの活躍の場は、自動車だけではない。複数のITSアプリケーションを可能にする単一プラットフォームで、交差点管理や逆走検知、自動料金徴収、トラフィックデータの収集などができる。高速道路に片側車線(5レーン)ひとつで500m先まで検知できる。鉄道(プラットホーム、ステーション監視や踏切監視など)や航空宇宙分野でも使えそうだ。今後は、いわゆるスマートシティのなかでも利用も考えられている。
「今度数年で、モービルアイのような存在にLiDARのなかでなりたい」
Interview:ジョーダン・グリーン GMオートモーティブ
自動運転車のRising Starとして認定されている。
MF:ホンダ、レクサスやアウディはすでに市販車にLiDARを搭載しています。そこにAEye社の4SIGHTがもし採用されたなら、もっとすごいことができる。あるいはいまのホンダやレクサスはLiDARの本来の性能を引き出せてないということでしょうか?
JG:現在市場に出ているLiDARは、おもに用途として交通渋滞向けで速度コントロールをするのに使われています。短距離を見通してそこにある障害物を避けるということをメインとして、短距離で使っています。それはなぜか? 短距離以上のその先が検知できていないからです。その能力だと高速道路で数百メートル先の障害物を検知して対応することはできない。高速のオートパイロットはできないのです。
MF:OEMにとってAEyeの4SIGHTプラットフォームを使う利点はなんですか?
JG:OEMにとって、ハードウェアだけで作っている車両は、そこからの利益幅が期待できません。販売して終わり。SDVになると販売したあとに、収益を得る道があります。基本パッケージで販売し、その後OTAでアップグレードして新たな機能を提供できる。4SIGHTならそれができます。
MF:AEyeの背景には航空宇宙、軍事技術があります。自動車よりもはるかに高度でコストがかかると思います。自動車分野への応用は、コスト以外は比較的容易ですか?
JG:OEMにとって、ハードウェアだけで作っている車両は、そこからの利益幅が期待できません。販売して終わり。SDVになると販売したあとに、収益を得る道があります。基本パッケージで販売し、その後OTAでアップグレードして新たな機能を提供できる。4SIGHTならそれができます。
MF:AEyeの背景には航空宇宙、軍事技術があります。自動車よりもはるかに高度でコストがかかると思います。自動車分野への応用は、コスト以外は比較的容易ですか?
JG:軍事や航空宇宙業界の技術は極端で究極の条件下で使用する前提です。しかし、自動車でも目指すところは同じ。エコシステムをうまく使って載せていくビジネスのやり方は同じです。たとえばロッキード・マーティン社のように、ここでないと絶対に搭載できない技術があるところと組む。自動車なら、半導体メーカーがありティア1サプライヤーがあります。そのエコシステムをうまく使うことが重要です。レーダー、カメラ、GPSなどは軍事用の技術でした。商用化・一般化したのは、いろいろなベンダーを使って世界のサプライチェーンに載せてたからです。
MF:自動運転レベル2や3ならLiDARは不要と言っているOEMもあります。
JG:一歩下がってなぜLiDARが必要か、という話をしましょう。決定論的なセンサーと非決定論的なセンサーが存在します。非決定論的センサーは自分の周りの世界の状態を解釈はしてくれます。しかし、正確に障害物が何m、あるいは何km先にあって、どんなサイズかについては教えてくれません。運転制御には100%正確な情報が絶対にほしい。エラーのマージンはゼロであってほしいし死亡事故は絶対に起こしたくないわけです。LiDARなしにそれはできません。ひとつのOEMの、誰とは言いませんがひとりのCEOだけが「カメラだけで完全自律運転ができる」と信じた人がいました(編集部註 テスラのイーロン・マスクCEOのことだと思われる)。しかし、たぶんみんなはそうだとは思っていないわけです。
MF:コンチネンタルと一緒にやっている、今度はアイシンと一緒にやるという話でした。ティア1であるコンチネンタルやアイシンがトヨタやホンダに製品を出していくのだと思います。そうすると、狙いは、4SIGHTをデファクトスタンダードにすることですか?世界中これにしちゃおうぜ、中国以外はということですか? そういう野心があるのですか?
JG:イエス。我々はカメラでモービルアイが達成したのような存在にLiDARでなりたいと考えています。
MF:最後の質問です。もし、テスラのイーロン・マスクCEOが「莫大なお金を出すから、AEye社が欲しい」と言い出したらどうしますか? かつてモービルアイがインテルに買われたように。
JG: 価格次第ですね(笑)。それは冗談として、このテクノロジー、ソリューションにはこれから市場が成長していくものですから、今後5年、その先には本当に素晴らしい市場に成長しているということに期待しています。